俺は何があろうとお前を信じ続ける。

川島由嗣

俺は何があろうとお前を信じ続ける。

 パソコンの通話アプリを立ち上げる。相手は既にログインしていた。通話をかけるとすぐに繋がる。

「久しぶりだな。」

「久しぶり。」

 通話相手は、親友の中村慎太。こいつは今海外にいるため、通話ができるのは俺が有給をとれて、かつこいつが家にいる時間だけなので滅多に通話できない。

「前回通話したのは3か月前か?ちゃんと休んでいるか?」

「ああ。」

 こいつは高校時代に両親を事故で亡くし、塞ぎこんでいた。だがある時急に「同じような思いをさせる人を減らさなければ。」などと言い出した。それから再び学校に通い始めたが、まるで人が変わったかのように猛勉強を始めたのだ。

 元々の頭はよかったのか、それとも執念のなせる技なのかはわからないが、こいつはあっという間に成績を上げていった。ただそれだけでは本人は満足できなかったようだった。


「日本じゃ時間がかかりすぎる、一刻も早く現場に行くには海外に行かないと。」

 そう言い出し、勉強と並行して留学のためにも動き始めた。そして海外の大学に進学し、気がついたら医者になっていた。今は医者として海外の病院で働き続けている。それだけではなく論文発表やボランティアなども行っていた。端から見たからなにかに取り憑かれているようにしか見えなかった。海外に行くと言い出した時は止めるために大喧嘩したのだが、止められなかった。今の俺にできることは健康を心配するのと、できる限りのサポートをすることだけだった。


「平均睡眠時間は?」

「・・・・3時間は寝るように善処している。」

「いや、それ休んでいるって言わないからな。」

「まあ、隙を見て休むようにするから。それよりももっと色々な情報をくれよ。ツテを増やすには話題が必要なんだ。」

 こいつは海外に行ってすぐ、日々のニュースをまとめて送ってくれないかと依頼をしてきた。海外の人と話すきっかけの話題が欲しいらしい。ただ、置いていかれないのに必死で情報を集める暇がないからと。

 まあ俺もこいつが気に入らないから喧嘩したわけではないので、呆れつつもフォローをすることにした。俺が拒絶するとこいつは本当に独りになってしまう。


「大学から始めて、ほぼ毎週、多い時には毎日送ってやっているじゃねえか。というかニュースならわかるけど、企業の情報、再開発情報、仮想通貨の値動きに災害情報。はたや宝くじとか競馬で面白い当たりがなかったとか範囲広すぎるだろ。」

 最初は日本の有名なニュースを送るだけだった。だがあいつの依頼はどんどんエスカレートしていき、今では世界中の情報をかき集めて送るようになっている。仕事の休憩時間や休みの時間は最新情報を探すのが当たり前になってしまった。


「当選番号が誰かの誕生日だった。有名人の誰かが万馬券を当てた。何が話のきっかけになるかわからないからな。それに日本人というだけで、話しかけられることも多いんだ。そこで興味がありそうな話題をふると盛り上がったりするんだよ。俺はまだまだ新参者だからな。上の人達とコネを作るために情報は多いに越したことはない。」

「だとしても日本のギャンブルとか仮想通貨なんて興味ある奴いないだろ。おかげで俺の大学時代のあだ名はギャンブラー太郎だ。一度も賭けたことなんかないんだがな。」

「こっちには日本人も少なからずいるからな。日本の話題をふると喜ばれるんだ。悪いけど頼むよ。頼れるのが太郎しかいなくてさ。」

「・・・・わかっているよ。その代わりちゃんと飯食って寝られるときは寝ろ。そんな生活をしていたらいつか死ぬぞお前。」

「・・・善処する。」

 あいつが苦笑いしているのを聞いて思わずため息をつく。これは聞かないやつだな。近いうちに有休をとって会いに行くとしよう。その時は一度 殴って気絶でもさせて寝かさないとどうにもならなそうだ。



「は・・・・・?・・・死んだ?あいつが・・・・?」

「・・・・ええ。大きな論文の発表会に向かう途中で倒れてそのまま・・・。」

 まだまだ続くと思っていたあいつとの関係は唐突に終わった。電話であいつの訃報を聞いた時、最初は何を言っているのかが理解ができなかった。頭が真っ白になり思考を拒否する。嘘だろ。だって俺達まだ30歳にすらなってないんだぞ・・・。



 気がついたら俺は葬式会場にいた。ふらふらと中に入り、棺の中を見ると慎太がそこにいる。まるで眠っているかのようにその顔は安らかだった。その顔を見た瞬間、溜め込んでいた感情が爆発した。

「どうして!!お前はもっと自分自身を大事にしなかった!!何故助けた人達の事を見ない!!助けられなかった人の事しか見ないんだ!!自分の手から零れ落ちたものなんか見るなよ!!」

 葬式にはたくさんの人がいたが、無視して棺を掴み泣き叫ぶ。係員に羽交い絞めにされて棺から引き剝がされるが、一度溢れた思いは止まらない。

「どうして・・・・もっと頼ってくれなかった・・・・・。俺を置いていかないでくれよ・・・。なあ・・・・。頼むよ・・・・。」

 自分の無力さに打ちのめされ、泣き崩れる。だがどこからも返事は返ってこなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「夢・・・・か・」

 妙にリアルな夢だった。あいつの葬式の夢なんて不吉以外のなにものでもない。だが自分は会社員ではないし、あいつもまだ死んではいない。予知夢ではないと自分に言い聞かせる。

「今日はそんなに仕事もないし、終わったらあいつのところにいくか・・。」

 時計を見ると朝の7時だった。朝の支度をしつつ今日の予定をチェックする。基本は家にいてできる仕事だけだったので、すぐに作業に取り掛かる。夕方には全てが終わったので、出かける支度をして家を出た。


「よう・・・。また来たぞ。馬鹿野郎。」

 俺が来たのは病院の一室。病室には俺の親友である中村慎太が眠っている。変な夢を見たので実は亡くなっている可能性も考えたが、そうではないことに安堵した。

 こいつは自分勝手な大馬鹿野郎だ。高校の時、何を血迷ったのか、当時接点もなかった大谷さんにいきなり中間試験の点数で勝負を挑んだ。

 学園のアイドルと言われるくらい可愛い人だったから気になるのはまだわかる。だが、中学入学からずっと学年1位を取り続けている彼女に対し勝負を仕掛けるのは無謀としか言えなかった。勝ったほうが1つ願い事を聞くという賭けまでつけて。

 勝てるわけないと呆れていたら、あいつは勝ってしまった。そして賭けの権利を行使し、その日から毎日一緒に帰るようになったのだ。彼女が好きでもないのに、ただ一緒に登下校することを望んだ。意味が分からなかった。


 最初は不審そうな顔をしていた大谷さんだったが、あいつに繰り返しリベンジしているうちに、あいつに惚れたようだった。どういう経緯で恋心を持ったのかはわからなかったが、2人が楽しんでいるならいいかと思い静観していた。そんな日々が日常となり、いつのまにか大谷さんがあいつに挑んで返り討ちにあって悔しがる姿がクラスの風物詩になっていた。


 そんな日がずっと続くと思っていた。だがあいつが勝負を持ち掛けてから、1年近く続いたある日、日常は唐突に崩れ去った。2人が交通事故にあったのだ。大谷さんは無事だったが、彼女をかばったあいつは大けがを負い、植物状態となった。

 事故の話を聞いた時は頭が真っ白になった。慌てて夜病院に駆け付けると、病室には眠っているあいつと、泣き崩れているあいつの両親だけがいた。大谷さんは既に帰宅していたのかいなかった。

 あいつの両親になんて声をかけていいのかわからず、何もできない自分の無力感に打ちひしがれながら家に帰った。現実を受け入れられず、自分の部屋で座り込んでいると、ふとあいつから受け取った封筒が目に入った。


 その封筒は数か月前、「俺に何かあったらこれを読んでくれ」とあいつから渡されたものだった。意味が分からなかったが、あいつの思い詰めた表情に何も言わずに受け取った。あいつは何かを予期していたのだろうか。封筒を開けて中身を見る。中身は俺宛の手紙と何かを纏めたレポート、そして大谷さんとあいつの両親に向けた手紙が入っていた。まずは俺宛の手紙を読み進めた。


 しかし手紙を読んだ俺は書いてある内容が理解できなかった。

 手紙には、あいつにとって今の人生は二周目であること、そしてレポートに書いてある災害等からできる限り多くの人を守ってほしいというお願いだった。レポートには、これから発生する災害などの未来の情報、そしてできる限り人を助けるための手段が事細かに書かれていた。

 こいつはとっくの昔に頭がおかしくなっていたのか?それとも実は小説家志望でこれを投稿してほしいのか?など色々な事を考えた。だが、手紙の最後のページを読んで違うと確信した。最後には震えたような字でこう書いてあった。


「死んでもなお、お前を縛ることを許してくれ。頭がおかしくなったのかと思うだろう。だから怖くて直接頼むことができなかった。俺は前の人生の時もずっとお前に救われてきた。両親が事故で亡くなり、自暴自棄になった時も、俺が医者を目指すと言い出した時もお前はずっと離れないでいてくれた。死ぬ前にお前が言ってくれたんだ。「俺は何があろうとお前を裏切らない。お前を信じ続けてやる。だから好きなように生きろ。」と。その言葉とお前だけが俺の支えだった。そんなお前にだから頼む。俺の最後の我儘を聞いてほしい。」


「何が最後だ・・・。この・・馬鹿野郎が。」

 両手に力が入る。紙を握りつぶしそうになって慌てて広げる。最初に感じたのは強い怒りだった。今すぐにでもあいつの病室に駆け込んで罵声を浴びせたかった。

 だが確かに言われても信じなかっただろう。というか信じられる人間がいるだろうか。言われても、小説や漫画の読みすぎだ。疲れているんだ。家に帰って早く寝ろと言うだろう。

 しかし読んで納得するようなことも多かった。成績上位者でもなかったあいつがいきなり1位になった理由。そしてその後も勉強を続け、大谷さんの傍にいた理由。あいつはあいつなりに大谷さんを助けようと必死にもがいていたのだ。

 

「そうだ・・・。あの時決めたんだ。俺は何があろうとお前を裏切らない。お前を信じ続けるって。」

 あいつはただ頭がおかしくなっただけかもしれない。それでも俺は決めたんだ。あいつの事を信じ続けると。なによりあいつはまだ死んだわけじゃない。皆が信じなくても、俺だけはあいつが戻ってくると信じなければ。そして戻ってきたら、信じてやったぞと胸を張って言えなければ俺は自分を許せないだろう。

「よし!!」

 俺は自分の両頬を思い切り叩いて気合を入れ、再度あいつが残したレポートを徹夜で読み続けた。


 事故の翌日、俺はすぐに行動を開始した。あいつの両親に2人宛ての手紙があると連絡し、放課後大谷さんと一緒に行くので家にいてもらうようお願いした。そして放課後大谷さんを連れてあいつの家にいき、大谷さんとあいつの両親にあいつからの手紙を渡した。

 手紙を読んで号泣した彼らが落ち着いた後、あいつの部屋に行き、レポートに書いてあった論文を回収した。

 驚いている彼らを見渡して俺は言い放った。

「あいつはこれを俺が開けるとき、自分は死んでいる想定だったようです。ですが、まだ死んではいない。死んではいないんです。俺はあいつが何年、何十年かかろうと目覚めると信じています。そして起きたら思いっきり殴ります。」

 これは俺自身にも言い聞かせる言葉だった。皆が絶望しているのであれば誰かが無理してでも立ち上がり、前を向かせなければいけない。そしてそれは全てを託された俺の役目だと信じて。


 そしてその日からは怒涛の日々だった。まずはあいつの論文を整理し、各研究機関へ送付した。すると海外からも含めて大量のメールがきたのでその対応に追われた。俺はあいつとは違い、ただの高校生だ。論文の内容も理解できないし、英語なんて得意科目でもない。メールの内容がわからず頭を抱える日々だった。メールを印刷して英語教師に「読んでください!!」とお願いしたのも1度や2度ではない。その度に「お前絶賛されているけど何してんの?」と不思議がられた。それでも俺1人では限界があったので、あいつの両親にも手伝ってもらった。


 大学に進学してからは、自由時間を行使し、あいつが指示された通りに人を助けるために奔走した。レポートには時系列順に未来の事が事細かに記載されており、災害が起きる日時や場所などもあったため、準備の時間はたくさんあった。

 しかし、人助けは難航した。当たり前だ。「これから災害が起こります。避難してください。」などと言っても信用されるわけがない。だが幸い金だけはあった。あいつが残してくれた資料には、今後の世界で成長する企業、一時的にだが爆発的に伸びる株、再開発などで地価が急騰する場所、仮想通貨の情報等も書いてあった。

 それだけでは元手がないとすぐに金は作れないが、レポートには万馬券の番号。数字を記入するタイプの宝くじの当選番号までもあった。これだけ大量の情報を覚えていられたのもすごいが、よく調べる時間があったものだ。おそらく俺をこき使ったのだろう。文句を言いつつ手伝っている自分の姿が容易に想像できた。ギャンブル関連に関しては多くはなかったが1つ1つの賞金が膨大だった。それでもギャンブルに金をつぎ込むときは手が震えたものだ。

 それらの情報をもとに金策にも走り続けた結果、大学を卒業するころには、手元には一生遊んで暮らせるような金と不労所得があった。


 得たお金は惜しみなく人助けのため使った。川が氾濫すると書いてあれば、前日に避難場所に集合したら10万円。避難場所で一夜を過ごしたら50万円渡しますなどと言って、金で釣った。市の職員や偉い人にも協力してもらうために多額の金を積んだ。勿論、詐欺を疑い信じない人も多くいたが、そういう人は問答無用で切り捨てた。選択肢を与えたのに選ばないのであればそれはその人の責任だ。

 そもそも俺はあいつみたいに聖人ではない。言ってしまえば誰が死のうが興味がない。むしろ死ぬ運命だったのなら死ねばいいとすら思っていた。罵声を浴びせられることも数えきれないほどあった。それでも投げ出さずに続けたのは、あいつの願いだからだ。俺があいつを信じ続け、行動で示し続けると誓ったたからだ。


 そんなことを続けていたある日、風向きは唐突に変わった。俺の行動が色々な人の目に留まるようになったのだ。ネット社会なので情報は早い。まあ事前に災害を予見し、無償で人を助けようとする変人なんて注目を浴びるに決まっている。

 一度噂が広まれば、色々な人が俺にすり寄ってきた。だが俺はそれを察知するとすぐに金を積んで護衛を数人雇い、セキュリティ万全の場所に引っ越した。テレビの取材も来たが、1度だけ受けそれ以降は興味はないと一蹴した。助けた誰かがあいつを救おうと思ってくれればの行動だ。


 それでも災害等を毎回的中させ、人々を助ける姿は注目の的となった。噂はどんどん広がり、「奇跡の人」や「未来人」なんて言われることもあった。だが他人の評価など俺にとってはどうでもよかった。信じてくれる人間が増えたことによって助けやすくなったので、あいつが喜ぶかなと思ったぐらいだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まったく・・・・。早く起きろよ。この寝坊助野郎。」

 俺は呟きつつ病室の中の椅子に座った。

 大谷さんは既に帰ったようだった。彼女も必死に前を向いて生きている。俺が人助けに奔走しているため、会うことはほとんどないが、彼女の事は彼女の親友である遠藤加奈さんに全てを任せていた。

 遠藤さんとは定期的に情報共有をしつつ、俺が動きづらい時には裏方として時々手伝ってもらっていた。勿論謝礼はたくさん渡した。遠藤さんは拒否したが、大谷さんのフォローとして使ってくれと言って無理やり渡した。大谷さんはあいつが命を懸けて救った人だ。多少無理矢理にでも彼女が折れないようにフォローしてもらわないといけない。

 そんなことを考えつつ病室で親友の顔を眺めていたら、病室の扉がいきなり開いた。


「あれ?先客?」

「遠藤さん?」

 病室に入ってきたのは遠藤さんだった。直接会うのはどれくらいぶりだろう。何かをお願いする時に、必要な情報を謝礼と共に渡しているが、それ以外連絡することはなく、直接会うこともほとんど。


「太郎君?久しぶりだね。」

「本当にお久しぶりです。最後にお会いしたのはいつでしたっけ。」

「ずいぶん忙しいみたいだね。」

「ええ。まあ。ですが最近は少し落ち着いていますよ。明日は休みにするつもりですし。」

「本当?だったらこの後飲みにでも行かない?いいところ知っているんだ。」

「いいですね。いきましょう。」

 誰かと飲むのも久しぶりだ。明日は休みだし、たまにはいいだろう。話を早々に切り上げて病室を一緒にでる。出る前にあいつの顔をもう一度見る。


「また来るよ。馬鹿野郎。」


 遠藤さんが連れて行ってくれたのは病院から近くにある個室の居酒屋だった。綺麗でいい雰囲気のお店だ。お酒とつまみを頼み、乾杯をする。

「カンパーイ。」

「乾杯。」

 飲んだ酒が身体に染みる。考えてみれば酒を飲むのも久しぶりだ。それどころかプライベートで誰かと食事をとるのも久々かもしれない。


「ねえ。最近どうなの?そっちは?」

「特に変わったことは・・・。いつも通りあいつのお願いをこなしていますよ。」

「いやいや。今や時の人じゃない。「奇跡の人」や「未来人」だってね。」

「全部あいつの指示ですから。俺自身には特に何もないですからね。」

 俺はあくまであいつがくれた未来の情報をもとに、人を助けているだけだ。俺自身は何もない。虚しくなる時もあるが、その分の感情はあいつが帰ってきたときに叩きつけてやると言い聞かせて踏みとどまっている。


「ねえ・・・・。どうしてそこまでしてあげるの?」

「?何がですか?」

「いくら親友の頼みだと言っても、普通彼のためにそこまでしないんじゃない?」

「まあ・・・・そうでしょうね。」

 遠藤さんの疑問ももっともだろう。自分の時間を極限まで削り、人助けに翻弄するなんて端からみたら異常だ。俺もあいつの事は言えないなと自嘲する。


「簡単なことですよ。俺はあいつの事を何があっても裏切らない。信じ続けるって決めたんです。だから託されたなら信じて行動するだけです。」

「普通誰かを信じてそこまで行動なんて出来ないよ。何かきっかけがあったの?」

「そうですね・・・。」

 誤魔化すことも考えたが遠藤さんの目はいつになく真剣だった。まあお酒も入っているし、たまには思い出話もいいか。あいつとの思い出を誰かと共有するのも悪くない。


「たいして面白くもない話ですよ。小学生の時の話です。当時、俺はプライドが高くてですね。気に入らないことがあれば、すぐに誰かと衝突していました。手が出て喧嘩することも多くて学校では孤立していました。そんなとき、あいつがうちのクラスに転校してきたんです。」

 第一印象は平凡だった。どこにでもいそうな普通の男の子。まあ関わることはないだろうなんて風に思っていた。


「関わらないだろうと思っていたのですが、ある時から急にあいつは俺に付きまとい始めてですね。目障りだったので何度も近寄るなと言ったのですが、あいつは無視して俺に関わり続けました。ある時どうしてそこまでするのかを聞いたんです。」

「そうしたらなんて?」

「君はよく誰かと衝突するけど、それには必ず理由がある。その理由は正しいけど独りぼっちは寂しいと思う。だから僕は君の傍にいて、暴力は駄目だけどやっていることは正しいって言い続けてあげたいんだって。」

「それはまあ。小学生でしょ?」

「ええ。お互い生意気なガキでしたよ。でも当時は孤独でしたし、自分を分かってくれるのが嬉しかったんでしょうね。それを聞いてからは一緒にいる事を拒絶しなくなりました。そんなある日、上級生に呼び出されました。いじめをすることで有名な上級生だったんで、返り討ちにしてやると意気込んで行くと、上級生が10人近く待っていましてね。ああこれは終わったなと思ったんです。」

 俺は上級生ともよく衝突していた。下級生へのいじめ等見過ごせないものが多かったからだ。だが向こうからしたら下級生に舐められているように思えて我慢ならなかったのだろう。今思えばひどい小学校だったなと思う。


「取り囲まれて殴られそうになった時、急にあいつが飛び出し来ててこう言ったんですよ。「殴るなら僕を殴れって」。最初はあいつが何を言っているのか理解できませんでした。」

 皆が困惑する中、あいつは上級生を前にしてもひるまず、俺を庇おうとしていた。


「そのうち一人がむかついたのか本当にあいつを殴りましてね。それでもあいつは俺の前からどかなかった。俺が手を出そうとしたら手を出すなって怒鳴りましてね。結局あいつは何度か殴られましたが、上級生も白けたのかあいつを殴るだけで帰っていきました。あいつは殴られて痛そうでしたが、俺は無傷。我慢できずに、どうしてそこまでするんだって聞いたんですよ。」

「彼はなんて?」

「ただ友達を守ろうとしただけだって。僕は君みたいにたいして知らない誰かのために行動する事なんかできない。でも友達を信じ続けることは出来る。だから信じて行動し続ける。必要があれば友達を守ることにためらう事なんかないんだって。」

 そう言った時のあいつの顔は今でも覚えている。あいつは笑っていた。こんなもの友達を守るためなら気にならないと言っていた。


「彼・・本当に小学生?」

「俺もそう思いますよ。転校してくるまで接点なんかありませんでしたからね。転校してきて気づいたら付きまとい始めて、友達扱いですからね。信じてくれるのは嬉しかったですけど正直不気味でもありました。でもあいつはその後も変わらず俺に付きまとっていました。そして言うんです。暴力に頼るのは簡単だ。でも僕としては暴力を使わずに戦ってほしい。僕でよければ手伝うからって。」

 あいつは俺を庇ったときから遠慮がなくなり、俺がプライドを刺激され怒りそうになった時は全力で俺を止めてきた。そして暴力以外で解決できないか色々な案を出してきた。

 最初は納得できなかったが、案を出し合い、それがうまくいったときは本当に楽しかった。いたずらが成功した時の感覚に近い。


「そんなことをしている時に気づいたんです、周りを気にしすぎて突っかかるより、あいつと二人で遊んでいる方が楽しいって。それからは周りで何を言われようとも、何が起きても気にならなくなって、二人で遊ぶことが増えました。それでも気に入らないやつがいた時は二人で力を合わせて懲らしめていましたけど。」

「・・・・それが二人が仲良くなったきっかけなんだね。」

「ええ。あいつがなぜ俺と一緒にいたのかはわかりません。別に誰にでもしたわけでもなく、俺一人でしたからね。でも少なくとも俺は言葉だけではなく行動で示し続けるあいつに救われたんです。あいつのおかげで喧嘩をすることもなくなり、少しずつですが友人もできましたしね。少なくともあいつがいたおかげで一人ではなくなりましたから。」

 今思えば俺はただ寂しくて注目を浴びたくて突っかかっていたのかもしれない。そんな俺を見ていられなかったのかもしれない。あいつに聞いてもなんとなくとか言って笑いそうだが。


「まあ色々話しましたが、今度は俺の番なんですよ。俺はあいつが帰ってくると信じて行動し続けます。万が一帰ってこなかったとしても忘れてなんかやりません。あいつが助けようとした命、願い。それを受け継ぐことであいつが生きていた証を残してやります。」

「彼のためにそこまでできるなんてすごいなあ。でも辛くない?」

「勿論辛いですよ。でも一人じゃないんで耐えられます。大谷さんにあいつの両親。それに遠藤さんだっています。それだけいれば、俺にとっては充分ですよ。」

 そう。あの時と違い俺は一人じゃない。辛いときは誰かと分け合えばいいと教えてもらった。だから耐えられる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうしてあいつが眠りについてから10年近くの日が経過した。最近は未来の情報はほぼなくなっていて暇を持て余すことが増えた。だからあいつがいつ戻ってきてもいいように、余った時間は株や不動産等を運用して資産を増やすように注力した。1を1000にするのは厳しいが、500や800を1000にするのはそこまでではない。リスクを最小限に、堅実に金を増やしていった。

 俺が表に出なくなり、人を助けなくなると、そのことに対して非難されることもあった。だが全てを無視し続けると、興味を失ったのか、俺の事を嗅ぎまわる人はいなくなった。


 そんなある日、珍しく大谷さんから電話がかかってきた。あいつに何かあったのかと思い慌てて電話をとる。

「工藤君!!いまちょっと大丈夫!!」

「大丈夫!!あいつに何かあったのか!?」

「目覚めたの・・・。」

「え?」

「慎太が目覚めたの!!」

「!?」

 そこから病室に着くまでの事はよく覚えていない。気がついたら俺は勢いよく病室の扉を開けていた。

 病室に着くと、既に皆が集まっていた。皆泣いている。慌ててあいつのベットに近寄ると、あいつは視線をこちら向け、弱弱しく笑った。


「よう・・・。久しぶり?・・・なのかな。」

「久しぶり・・じゃねえよ・・・。この・・・寝坊助野郎。散々待たせやがって。」

 減らず口に対して減らず口を返す。ああ・・帰ってきた。帰ってきたのだ。

 ・・・もういいよな。俺頑張ったよな。泣いても・・・いいよな。

 誰に了承されたわけでもないが、一度決壊したものは止まらなかった。押し殺してきた感情と涙が溢れだす。俺は大声で泣き続けた。


 大谷さんの献身的な介護もあってか、あいつはみるみる元気になっていった。そしてあいつが退院して、状況が落ち着いたころ、俺は快気祝いと称して、皆を集めた。高級ホテルのイベントスペースを貸し切り、様々な料理を用意した。皆が笑顔で笑っている。あいつも笑顔で笑っている。こんな日が迎えられるのは本当に幸せだ。だが、これで終わりと思ってもらっては困る。メインイベントはここからなのだ。

 俺はマイクを持ち、ひな壇にのぼる。係の人に合図をして椅子を持ってきてもらった。

「さて、ご歓談中のところ申し訳ありません。本日のメインイベントを始めたいと思います。」

「?」

 皆が首をかしげる。まあこんな事をするとは伝えていないからな。


「慎太。ちょっとこっちに来てくれるか。」

「?ああ。」

 何か挨拶でもさせられるとでも思ったのだろう。のこのことこちらにやってくる。

「ここに座って。」

「うん。」

 あいつが座ったのを確認し、係の合図をする。すると係の人がそそくさと現れ、あいつを椅子に縛り付けはじめた。

「!!」

 全員が驚愕して俺を見る。それを無視して俺は再び合図をだす。別の係の人達が皆に封筒を配りはじめた。

 慎太は何が起こるのかわからず困惑している。だが俺を信じているのか抵抗はしなかった。今回ばかりはそれを後悔してもらおう。なにせ約10年分の恨みだ。


「さて。し~ん~た~くん?君は俺が怒っていないと本当思っているのかい?」

「な、なんかその問いかけ方を聞くのも久しぶりだな。何の事だ?」

「俺は君のためにずーっと頑張ってきたんだ。何を言われても何をされてもずっと。」

「それは本当に感謝しているって・・・。」

「そうか。それなら少しぐらいは復讐してもいいよね?これからすることも許してくれるよね。」

 俺は満面の笑みを浮かべる。笑顔で怒っているのが伝わったのかあいつの顔が引き攣っていた。それを無視して皆を見渡す。

「それではこれから彼の裁判を始めます。」

「!?」

「彼が戻ってきたことは素直に嬉しい。でも皆さん、彼や俺に対して様々な疑問がおありでしょう。ミステリーと言ってもいい。」

 皆が頷く。まあ、そうだよな。端からみたら俺らの行動は常軌を逸している。


「その疑問を解決したいと思いませんか?」

「!?まさか!!お前!?」

 俺が何をしようとしているのか理解したのだろう。慌てて止めようと暴れ始めるが拘束してあるため動くことは出来ない。残念だがもう遅い。

「被告人は後で勝手に釈明してください。ミステリーに解決編はつきものです。それでは皆さん、解決編を始めましょう。」

 そして俺はあいつが残した手紙の暴露と今までの事振り返り始めた。


「ひどい・・・。ひどすぎる・・・。」

 あいつが泣き崩れている。といっても本当に泣いているわけではない。いじけているだけだ。まあ自分の黒歴史を公開されたようなものだからな。俺からしてみれば10年近く人をこき使って、これで許してくれただけ感謝してほしいと思う。

「いいじゃねえか。皆大体の事は信じてくれたんだし。」

 最初は俺と同じように疑っていたが、話を続けるにつれ皆が大体の事は信じた。なにせ俺が実際に色々な人々を助けてきたのだ。俺が生きた証人のようなものだった。

 それでも裁判の結果は全員一致で有罪だったが。刑は現在大谷さんを中心に検討中らしい。でもまあ生きて帰ってきたのだから情状酌量の余地はあるだろう。

「でも感謝しているよ。本当にありがとう。信じて動いてくれて。」

「お前が前に言ったことだろ。友達を信じ続けることは出来る。だから信じて行動し続ける。必要があれば友達を守ることにためらう事なんかないんだってな。」

「そんな昔の事よく覚えてるな・・・。」

「忘れるかよ。」

 その言葉が俺とお前との友情の原点なのだから。


 それから1年もたたず、あいつと大谷さんは結婚した。元々入院中に大谷さんからプロポーズは受けていたらしい。結婚式・披露宴の2人は本当に幸せそうだった。

 彼らの幸せな姿を見た時、満足感とともに何かが自分の中から抜けていく感じがした。なんだろうこの感覚は・・・・。何かが燃え尽きたとかそういう感じではない。何かの未練が消化されたのだろうか?言葉ではうまく表せないが、すっきりした形だ。謎の少年の笑顔が脳裏に浮かんだが、誰なのかはわからなかった。


 披露宴が終わり、帰ろうとしたところで背中を叩かれた。振り返ると遠藤さんがそこにいた。髪を纏めていていつもとは雰囲気が違う。

「お疲れ様。」

「遠藤さん。お疲れ様です。」

「良かったらこの後もう一杯付き合わない?」

「別にいいですけど・・・。」

 特に断る用事もなかったので行くことにした。場所は決めていないと言うので俺のお気に入りの場所に連れていくことにした。



「すごーい!!こんないいところに連れて行ってもらっていいの?」

「まあ、今日は特別な日ですしね。今日ぐらいはいいじゃないですか。奢りますから遠慮しないでくださいね。」

 俺が連れて行ったのは高級ホテルの上の階にあるバーだ。個室もあり眺めもよくてお気に入りの場所である。値段も結構するので頻繁にはいけないが。結婚式の帰りなのでお互い正装だからマナー的にも問題はない。食事はすんでいるので、飲み物とつまめるものを頼む。


「カンパーイ。」

「乾杯」

 二人で乾杯する。前回飲んだ時とは違い祝い酒だ。俺も少し強めの酒を頼んでいる。お酒を飲んで一息つく。

「これでようやく一段落だね。」

「そうですね・・・。本当に・・・長かった。」

 何も考えないようにして走り続けてきた。一人ではなかったとはいえ、止まったり振り返ってしまったら心が折れそうな気がしたから。でもあいつも結婚して、皆が幸せそうに笑っている。これで大団円だ。


「これからどうするの?」

「別に変りませんよ。今まで通り生きていくだけです。ただ少しのんびりしようかなとは思っていますが。」

 もう入院費もいらないし金を貯めようなどと考えなくていい。生きていくだけなら十分すぎるほどの金はあるのだ。少しくらい休んでもいいだろう。世界を旅行してみてもいいかもしれない。


「中村君は?」

「とりあえず医者になるのは禁止にして、俺の会社に引き込んだので金と時間はあります。それらを全て大谷さんに使わせるつもりですけどね。」

 あいつは俺が不動産で法人化した会社に社員として引き込んだ。詳細は税理士とか色々な人と話していくことになるだろう。いくら大谷さんが働いているとはいっても今後もお金は必要だしな。

 そもそものきっかけは、退院後、今後どうするのかをあいつに聞いた際、「知識を活かして医者か医療関係かなあ・・」などと寝言を言いだしたからだ。

 問答無用であいつの腹に一発入れた後、無理やり正座させ、1時間近く説教した。前の人生の時は知らないが、今のあいつは高校を卒業していないただの無職だ。いくら知識があっても、これから就職するとなると何年かかるかわからない。うまく働けたとしても前みたいに誰かを助けようとして、またボロボロになる可能性がある。

 そんなことをする暇があったら大谷さんと一緒にいる時間を増やして二人で幸せな時間を積み上げていけと説教した。後その考えは絶対に大谷さんに言うなとも。暴露大会の後、笑顔であいつに詰め寄っている大谷さんは正直怖かった。下手なことを言うと冗談抜きで、笑いながら血祭りにされる可能性がある。


「まあ、大谷さんがいればあいつはもう大丈夫でしょう。」

「そうだね。」

 遠藤さんもワインを一気に飲んでお代わりを注文していた。前回と比べてだいぶ飲むペースが速い。まあ帰りはタクシーを呼んであげればいいだろう。今日くらいは許されるはずだ。そんなことを考えていたら、ふと遠藤さんがじっとこちらを見ていた。


「?なんですか?」

「・・・・工藤君は結婚しないの?」

「知っているでしょうに。そんな事を考える暇なんかありませんでしたよ。ただ・・・まあそうですね。今日の式を見たら結婚も悪くないなと思いました。」

 今日までただ必死だった。でも、もう人助けなんてする必要もない。そもそもここから先の未来は誰にもわからない。今までが奇跡であり本来それが当たり前なのだ。ただ彼らの幸せな姿を見ると、未来を共に歩く人を探してもいいかもしれないとは思った。

 ただ今までの弊害で、どんな相手と会っても金目当ての人間にしか見えなかった。なかなか探すのは苦戦しそうだ。大谷さんの職場にいい人がいないか聞いてみて、いい人がいれば紹介してもらうのもいいかもしれない。

 そんなことを考えていたら、加奈さんがおずおずと手をあげた。


「・・・それらなら私が立候補してもいい?」

「加奈さんがですか?嬉しいですけど、俺・・・イケメンでもないですし、いいところなんてないですよ?」

「私は外見なんて気にしないよ。それにずっと前から気にはなっていたんだ。」

 そこはイケメンだよと言ってほしかった。だが気にはなっていると言われるとは思わず少し驚く。


「いったいいつから?」

「最初に気になったのは中村君が入院した次の日、皆の前で彼の手紙を渡した時かな。皆が絶望している中、工藤君だけは自分は信じるって言い切る姿が眩しかったの。」

「あの時はただ必死なだけでしたけどね。」

「それでもだよ。君がいなければ皆が絶望に打ちひしがれて未来は全く違うものになっていたと思う。それでその後も色々連絡を取り合ったりしたじゃない?いつも私の事を気にかけてくれていてさ。本当に嬉しかったんだ。」

「そうですかね。あれくらいは当たり前だと思いますが。」

 遠藤さんに倒れられたら、大谷さんも潰れてしまう。だから細心の注意を払っていただけなのだが。まさかそんな風に思われていたとは思わなかった。


「そんなことないから。最後の決め手となったのは快気祝いで中村君の事を暴露した時かな。いくら親友とはいえ、僕は2周目の人生を生きていますなんて書かれていても普通は信じないよ。頭がおかしくなったか。漫画や小説の読みすぎだと考えるが普通だと思う。」

「でしょうね。俺も最初はそう思いました。」

 我ながらあれを信じたのは頭がおかしいと思う。ただ信じたことは今でも後悔はしていない。今だから言えるのかもしれないが、例え見当違いだったとしても、あいつが死んでいたとしても俺は変わらずあいつのために行動しただろう。


「でも工藤君は彼の事を信じて行動し続けたでしょ。工藤君の暴露話や中村君の話を皆がある程度信じたのだって、君が実際に証明し続けてきたからだよ。そしてその結果が今日の結婚式。皆が笑える世界をつかみ取った。そんな強くて優しい心の持ち主だって知ったら惚れちゃうよ。」

「そんなもんですかね?」

「それに・・・気づいてる?君自身も結構危ないと思うよ。ある意味今は目標を失った状態じゃない。気がついたら消えちゃいそう。」

 遠藤さんが急に真剣な顔になってこちらを見てきた。確かに端からみたらそうなのかもしれない。だが俺は満足感と達成感でいっぱいだ。燃え尽きたという感覚はなく、ようやく自分のやりたいことができるという思いの方が強い。


「俺はあいつみたいにいなくなったりしませんよ。」

「うん。知ってる。工藤君は強い人だから。でも私って結構ずるい人間なんだよ?目標を達成して油断している時に入り込ませてもらおうかな・・・・って企んでいます。今度は私と一緒に生きるっていう目標を作ってくれたら嬉しいかなあ・・・って。」

 よく見ると彼女の顔が真っ赤になっている。最初はお酒のせいだと思っていたがどうやら違うようだ。彼女はもっとさばさばした性格だと思っていたが意外だった。冷静になって考えてみる。交流もあるから彼女の人となりは知っている。お金目当ての人間ではないし、好感ももてる。あれ?そう考えると彼女はかなり優良物件ではないだろうか。といっても今は特に恋愛感情を抱いてはいないが。少しずつそれをはぐくんでもいいかもしれない。なにせ時間はいっぱいあるのだ。


「お互いを知っていくぐらいから始めるのでよければ。俺としても遠藤さんは好感が持てますし。」

「!!やったね。今はそれだけで充分。いつか振り向かせて見せるから。さ、今日は飲もう飲もう。」

 遠藤さんが嬉しそうに俺のグラスに酒を注ぎ始めた。これは帰りはタクシー確定だな。でもどうやら俺にも幸せのお裾分けがきたようだ。今までが波乱万丈な人生だったんだ。少しくらいのんびり生きても罰は当たらないだろう。

 それに俺は今までも、そしてこれからも何も変わらない。俺は何があろうとあいつを信じ続けて行動し続ける。必要があればあいつを守る。それは何があろうとも変わらないのだから。

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俺は何があろうとお前を信じ続ける。 川島由嗣 @KawashimaYushi

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