こんどこそ おやすみ


 決まりだ。



 今日、家の近くの商店街に行ったんだ。

 いつもは通らない道を通って、初めて見るお店なんかを見つけて「へーこんな店あったんだ」って楽しく冒険していたんだけど、しばらく歩いたところで青ざめるハメになった。


 とある、縦長のスーパーを発見した。

 建物自体に特徴があるわけでも、外装に何か気を惹きつけるキャッチが貼られていたわけでもない。

 それなのに僕は、そこで立ち尽くしてしまった。



 そのビルは、数ヶ月ほど前に夢の中で見た建物と瓜二つそっくりだったんだよ。

 全身から汗がぶわりと湧くのを感じた。既視感デジャブなんて言葉じゃ処理できなかった。それくらい、夢で見たそれと全く同じ見た目だったんだよ。



 心中を渦巻く恐怖を必死に抑えて、僕は建物の中に入ってみた。

 季節感がバグりそうなほどキンキンに効いた冷房。その涼しさをより助長させたのは、その内装だった。

 通路から、柱の位置、商品棚の配置まで何もかも同じ。初めて来た場所なのに、エスカレーターやトイレの位置まで既に把握していた。



 僕はそこで思ったよ、これは決まりだって。




 この街には、僕が二人住んでいるのか?

 もう一人の僕が経験した記憶なんかを本体に共有したりしているのか?


 こんなことがありえるのか?

 実はみんな、誰だってこんな経験があったりするものなのか?


 恐怖だった。

 恐怖が、僕の影を濃くしていく。


 でも僕は、もし精神科医に「君の方こそ影なんだ、影こそが本体なんだよ」と言われてしまったら、抗弁できる自信はない。

 それくらい、怯えてしまっていた。




 こんな想いさせないでくれよ。

 こんなことなら、幽霊に追われるみたいな直接的な怖い夢を見せられた方がずっとマシだ。

 夢を見て、現実が怖くなるなんて。



 今日の夢は現実離れしたファンタジーであってれ。空を飛んで、ドラゴンと対峙するような夢で、あってくれ。




 おやすみ。







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わたしのあたまのなかからでていけ JACK @jackkingslave

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