紫陽花が映える吸血鬼な月永さん

香澄すばる

全ての始まり

 雨がザーザー降り、湿っている夕方近くのことだった。滝のように降りかかる無数の雫が僕の持つ傘に打つ。音は大きく、スティックで叩かれたドラムのようだ。

 雨の線で、周りの光景は淡く白く霞む。街路樹側に植えられている紫陽花だけは、例外だった。

「存在感放っているなあ…」

 空色、青紫色、淡紅色のグラテーションが特徴的で、はっきり存在感を示している。三色のグラテーションは、移り変わる空のようで美しい。今日みたいな日には、晴天の役割を代わりに果たしている気がした。眺めることが好きで、この時期の楽しみだった。

「綺麗だな…写真撮ろうかな」

 僕は、風景の写真を撮るのが好きだ。美しい日々の瞬間を納めることができる。記録としても使えた。僕はスマホのカメラを起動させ、画面に捉える。

 パシャッ

 撮った写真を確認した。

「うん、いい感じだ」

 紫陽花は鮮やかに映えており、天気の鬱蒼さを感じさせない。ついている数滴の雫が宝石のように煌めいていた。濡れた紫陽花は芸術品を想起させる。

 この写真を今度プリントしたいな。

「今日も写真撮れたし…ん?」

 満足して帰ろうとしたが、足音が響いた。水にバシャンと何かが落ちた音のようにも思える。僕は疑問に感じ、音の元であろう紫陽花の向こうに目を移した。

 紫陽花の葉っぱの向こうには広場があった。そこで、少女が傘を差さずに踊っている。

「〜〜〜♪」

 ずぶ濡れにも関わらず、彼女の表情は楽しげに満ちていた。雨の中踊る姿は、晴れを願う巫女のようで、太陽みたい。ん?どこか見覚えがあった。

(…藤色の髪、まさか)

 知っている人の中で一人しかいなかった。クラスメイトの月永斗亜さんだ。藤色の美しい長髪が特徴で、「可憐」という言葉が似合う可愛い人である。人を惹きつける美貌と頭脳の高さを持つことから、『学年一の美少女』と呼ばれていた。

(月永さんが元気な姿初めて見るなあ)

 普段の月永さんは、授業中だけでなく割と静かな人だ。でも、美容には気を遣っているようで日焼け止め+日傘を忘れずに所持している。そういう意味で、人を惹きつける完璧な人だ。彼女の踊りは、自由そのままで親しみがある。

「……綺麗」

 僕はどことなく、ポツリと呟いた。呟きに反応した月永さんは、僕の方を向く。

「日野下くん…?」

 

 

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紫陽花が映える吸血鬼な月永さん 香澄すばる @Subaru_glass

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