どうも、説得屋さんです。
大鐘寛見
第1話 ようこそ、説得屋さんへ
性格を一言で表すとしたら、
優しいとか、怒りっぽいとか、寡黙とか、いろいろあるけれど、
それでいうと僕はKYだ。
「お前、もう何もしなくていいよ。」
「すみません...。」
新しいバイトを始めて今日で4日目。
僕の何がいけなかったかと聞かれたら、多分全てが悪かったのだろうけど、もうここもダメみたいだ。
僕は昔からバイトが長く続かない。
みんな初めは優しいんだけど、だんだんと僕の仕事のできなさに呆れてきて、こうして諦められる。
一つ目のバイトは無難にコンビニを選んだ。
要領が悪くて、作業の同時進行ができなかった。
あと今やらなきゃいけないことと、あとでもいいことの優先順位をつけるのが下手くそすぎた。
怒られすぎてやめた。
二つ目は、仕分けのバイト。
もう接客は無理だと思って始めた。
作業が遅すぎて怒られたり、逆に早く頑張ろうとするとミスばっかりになって怒られた。
結局どうすればいいのかわからなくなって自分なりに頑張ったんだけど、怒られすぎてやめた。
今思えば学生時代からそうだった。
僕は物事の流れを読むとかそういうのが苦手で、クラスメイトたちや先生との会話についていけずに孤立していた記憶がある。
そして今回、引越しのバイトでもう心が折れた。
僕は何だったらできるんだ。
何をやったら人に迷惑をかけずにうまくやれるんだろう。
とりあえず生活費のために、帰りの電車で次のバイトを探す。
しばらく携帯をながめていると、イヤホンのノイズキャンセリングを貫通するほどの怒鳴り声が聞こえた。
その方向に目をやると、短髪の大柄な男性が高校生くらいの男の子の胸ぐらを掴んでいる。
(すごい怒鳴ってる...、高校生の子、かわいそうに...。でも絶対関わりたくない...。)
僕は傍観者になることを決意した。
男性はずっと怒鳴っている。
「お前ジロジロ見てきてんじゃねえよ!」
なんか変な言いがかりつけて怒ってるなあ。
しばらく様子を見ていると、あることに気がついた。
怒鳴っている男性の口から、かすかに黒い煙のようなものが出ている...ような気がする。
いや、出てる。ていうか量が増えてきた。
明らかにおかしい、みんな見えてないのか?これ。
「はい、ストップストップ。お兄さん、そこまでにしとこう?」
黒髪の小柄な女性が仲裁に入った。
すると、今度は標的がそちらに移ったようで、
「お前誰だよ、つーかてめえもジロジロミテンナアアアア?」
煙の量がやばい。本当に大丈夫か、あの人。ていうかあの女の人も大丈夫なのか?
「うるさいなあ...。静かにしろ。」
ガチン!!という痛そうな音と共に勢いよく怒鳴っている男性の口が閉じた。
どうなってるんだ...?とうとう僕の頭がおかしくなったのか?
「次の駅で降りろ。」
小柄な女性がそう言うと、怒鳴っていた男性はそれまでの騒がしさが嘘だったかのように、静かになった。ていうか生気がなくなった。
そして、小柄な女性は僕に近づいてきて、
「君も次の駅で降りてね。」
と言った。
僕は何がどうなっているかもわからず、無我夢中で首を縦に振って肯定の意をなんとか小柄な女性に伝えた。
次の駅で降りて、小柄な女性についていく。
改札を出て、人気のない路地裏に入っていく。
「口を開け。」
女性がそう言うと、男性の口がガバッと大きく開いた。
女性がその口に手を入れ、真っ黒い舌?のようなものを一気に引きずり出す。
黒いヘドロから黒い煙が立ち上っている感じの気持ち悪い物体がボトっと地面に落ちた。
「これ見えてるよね?」
女性が僕に聞いてくる。
「み、見えてません...。」
僕は見てはいけないものを見てしまっているような気がして咄嗟に嘘をついた。
「正直に答えろ。」
「見えてます!」
口が勝手に動いた。ていうか、動いたと認識した時にはもう動き終わっていた。
「だよね、さっきの電車でこの人の口元すごい見てたもんね。」
そういって、彼女は黒いヘドロに消えろとつぶやいた。
すると、黒いヘドロは少しずつ灰のようになって消えていった。
ああ、僕もこの人に舌を引っこ抜かれるんだ...。この人は多分人間の舌を引っこ抜いて回る妖怪なんだろうな...。僕が現実逃避をしていると、
「おーい、聞いてる?」
という声がギリギリ僕の無駄な思考をかき分けて脳に届いた。
何か話していたらしい。
「す、すみません。なんでしょうか?」
恐る恐る聞き返す。
「君さあ、うちで働かない?説得屋って言うんだけど。」
説得屋?聞いたことのない職業だ。
「えと、まずちょっと質問いいですか...?」
「ん、なに?」
「月給いくらくらいですか...?あと、説得屋ってなにするんですか?」
「新しく入ってくれました〜、佐藤くんで〜す!」
あの後、結局OKを出してしまった僕はそのまま説得屋の事務所なるところに連れていかれ、あの謎の物体のことも謎の力のことも聞けないまま、新人として採用されてしまった。
「さ、佐藤です...。よろしくお願いします...。」
ちなみに僕をここに連れてきた女性は姫神さんというらしく、説得屋のリーダーなんだとか。
事務所内には姫神さんの他に5人のおそらく社員であろう人がいて、みんな僕によろしくと挨拶してきた。
「いろいろ佐藤くんに聞きたいことあると思うんだけどさ、とりあえず歓迎会やろうよ!」
どうやら今から僕の歓迎会をやるみたいだ。一旦帰りたいんだけどなあ...。
どうも、説得屋さんです。 大鐘寛見 @oogane_hiromi
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