クラスのDQN男子に騙されて海の家でのバイトに担ぎ出された!!  ひと夏の思い出が永遠になっちゃうことってあるよね

武 頼庵(藤谷 K介)

ひと夏の思い出が永遠になっちゃうことってあるよね





 特に自分の事を『暗い奴』だとは思ってないけれど、周囲からはそういう印象を持たれてしまう事ってあると思うんだ。


 普通に学校へと登校し、普通に過ごしているだけのはずなのに、『陽キャ』と周りから思われている奴らと比較される様に、大人しくて自己主張をしない、クラスに居ても名前をちょっと聞くくらいで存在感が無い。


 そういう人って割と多いと思う。友達? 友達は確かに数名だが存在はする。でも結局類は友を呼ぶじゃないけど、周囲に集るのは似たモノ同志なわけで、更にその友達以外からの認知は『陰キャ』と分類されてしまう要因になっているんだと思う。


「なぁなぁ夏休み暇ぁ?」

「俺は海に行くぜ!!」

「いいな!! そこでひと夏の……」

「ばぁーか!! お前じゃうまくいくわけねぇベ!!」

「なんだと!!」

「「「ぎゃははは」」」


 夏休みが1週間後に迫ってきたクラスの中では、特に普段から目立っている男子数人が夏休み中にしたい事などを大きな声で話し合っていた。


 それだけではなく、クラスの色々な場所でその他の男子も女子も、高校生になって初めての夏休みに向けて異様なほどに雰囲気が明るい。


 俺、引越泰蔵ひきごしたいぞうはそんなまだ見ぬ夏休みに夢を見ているクラスメイトの事を眺めながら、ちょっと大きめのため息をついた。


 実の所、俺自身もこの夏休みは密かに楽しみだったりする。中学校を無事に卒業した俺は、父親の転勤でこの春から今住んでいる街に戻ってきた。そう、戻ってきたのである。


 父親が務めている会社は全国各地にある飲食チェーン店なので、数年ごとに任務地が変わる。その都度母親と2歳年下の妹と一緒に引っ越しを繰り返し、小学生の時に住んでいたこの地に数年ぶりに戻ってきたのだ。今回は昇進した父親がエリアの担当になったという事でしばらくは引っ越しをする事は無いらしいのだけど、それもまた会社の都合でどうなるかは分からない。


 そんな中、辞令が出て引っ越す事が分っていたので、俺は事前に引っ越し先にある学校を受験することにしていた。

 何とか無事に合格することが出来たので、その学校に合わせて住む家なども決めなくちゃいけないという事情もあり、俺や妹の祥香しょうかはなるべく通う学校が近くなるようにと話合って、両親に相談し今の場所へと引っ越す事になった。


 それに前に住んでいた時とは住む場所も家も違うので、一から周辺の事を覚えなきゃならないという事もあり、夏休み前になってもまだまだ知らないことが多いのだ。周囲には相談できる友達は住んでは居ない。


 引っ越しをする事に慣れたくは無いけど、慣れてしまったはずなのだが、周囲に知っている人がいない所で一からというのは割と労力が必要で、俺はまだ高校進学体からマシなのだが、祥香はすでに出来上がっているコミュニティーの中へ入っていくのだから大変なようだ。

 しかし祥香は俺とは違い、持ち前の明るさと人当たりの良さで、既に仲の良い友達が何人もできていると食事の時に楽しそうに話をしていた。


 と、ここ数年の出来事について考えていると、いつの間にか俺の机の前に数人の男子生徒が立っていた。


「なぁ引越」

「え?」

 声を掛けて来たのはクラスの陽キャ代表とも言われる目立大弥めだちだいや。校則では禁止されている頭髪の染色を堂々と破り、金髪に近い髪色に染めていて、耳にはピアス――これも校則違反だが――が何個もついているという、まぁそうみても優等生には見えないタイプの男子だ。でも母親が欧米人という事もあって顔立ちがすっきりとしているので、かなり女子人気は高い。


「大弥の爺さんが海の家を経営してるんだけどよぉ~」

「は? 何の話?」

 次に声を掛けて来たのが側出隆琉そばでたかるという、良く大弥と共に行動をしている人物。


「俺達バイトしてくれる人探してんのよ」

「いやだから話しを聞けよ」

「あん? 俺達が今話をしてるだろ?」

「…………」

 黙って聞けよと言わんばかりに、最後にちょっと俺を睨んで話すのが本戸正真ほんとしょうしんという、これまた大弥のグループに顔を出している男子だ。


「で、だ。俺達も夏休みに手伝う事になってるんだけどよぉ~、人が足りないわけよ。そこで引越の出番ってわけ」

「どうせやること無いんだろ? 夏休みなんてあってもよぉ」

「だから引き越しのお友達? 誘ってきて一緒にバイトしねぇか?」

 俺の方をニヤニヤと見ながら話す三人を見ると、どうも話自体がうさん臭く感じてくる。


「そのバイトする場所ってドコ?」

「ん? あぁ……汐ヶ浜の『祭り屋』って海の家」

「汐ヶ浜……か」

「そうそう。で? どうよ?」

 初めはこの三人の話なのでどうかとも思ったけど、バイトの場所とお店の事を聞いて少しだけ考える。

 この汐ヶ浜とは地元では有名な海水浴場がある浜で、その中でも祭り屋という海の家は評判がいい事で名が知れている。


 そこの従業員さんは皆いい人なのだけど、そんな海の家を大弥のお爺さんがやっているなんて思ってもみなかったので驚いた。


――汐ヶ浜か……。まぁいいかもしれないな。お金も稼げるし何よりも……。


「いいよ」

「え!? マジで!? あとになってやっぱ無理とか無しだぞ?」

「あぁ。そんな事しないよ。あれで良ければその話受けるけど……」

「けど?」

 大弥が目を細めつつ俺の事を見てくる。


「友達って何人くらい誘っていいんだ?」

「へぇ~……」

「陰なお前に友達なんて誘えんのかよ」

「ばか!! 余計なこと言ってんじゃねぇ!! 計画が――」

「あ!! わりぃわりぃ」

 手を合わて謝る本戸と、そんな本戸を引き離していく側出。


「まぁそうだな……引越を併せて三人いればいい感じ……かな?」

「そうか分かった。俺から声を掛けてみる」

「おう!! 悪いな!! 詳しい話はアプリでしようぜ」

「あぁ。何かあったら連絡してくれ」

 そう言いつつ俺と大弥はメッセージアプリの連絡先を交換した。

 俺との話を終えて去っていくときに、大弥野口角が少しだけ上がったのを俺は見逃さなかった。


――まぁいいか。

 何かあるのかな? とは思いつつも、用心するところはしてバイトの話を誰に振ろうか考え始めていた。







 数日後――

 無事に夏休みに入った俺達は、アプリで連絡を取り合った大弥野言う通りの日、時間前に汐ヶ浜にある指定された祭り屋さんという海の家の前に集合していた。

 そこには俺と一緒に来た友田、達野の他には誰もおらず少し遅れてくるんだろうと待っていたのだが、集合時間の5分前になっても大弥が現れる様子がみられない。仕方が無いので三人と話をして先にお店の人に挨拶をしに行く事にする。


 おっと紹介少しだけ紹介ししておくと、この二人は元々おれが前にこの辺りに住んでいた時の友達だったりする。そうなんと俺が住んでいたのは、この浜が有る場所の隣の市なのだ。だからちょっとだけこの辺りにはくわしいのだが、だからこそ大弥野お爺さんが――というのが信じられなかった要因でもある。


「こんにちはぁ」

「はぁ~い!!」

 開店前の時間だったのだろう、お店の中はバタバタと忙しなく動き回る足音がしていて、そんな中から元気な返事が聞こえて来た。

 すると奥の方から同じ歳くらいの女の子三人が俺たちの方へと向かって歩いて来る。


「すみません。お店はまだやって無いんです。三日後に開店予定なんですけど……」

「あ、はい。その辺りは聞いてます。俺は……いえ、俺達はそのバイトに来たものなんですけど……」

「え? バイトに? あぁそれじゃぁこれから大弥くんも?」

「え? いえ大弥はまだ来てなくてですね、俺達はその大弥にバイトに誘われたんです」

 三人の女の子は互いに顔を見合わせている。


――あれ? 女の子達が不思議がってるな。もしかして……。

 何となくだけど、あの時に感じた嫌な予感がよみがえってきた。


「ちょっと待っててくださいね。店長に聞いてきますから」

 そういうとお店の中に一人ぱたぱたと走り出した。


 その場で残された俺達はどうしたらいいのか分からずにその場で待つことしかできない。ちょっと出来た時間に時折目が合った女の子達と苦笑いをしながら待っていると、奥の方かから少し年配の男性と四尾に行ってくれた女の子が戻ってきた。


「君達がバイトに来てくれた子達かな?」

「は、はい。そうです。大弥君からバイトに誘われまして、一緒に働くことになっている引越泰蔵と言います。そしてこっちの二人が友田出雲、達野仲哉です」

「そうかバイトは君達が……大弥のやつめ……」

「あのぉ……俺達じゃまずかったですか?」

「あぁいや……。まぁ店先じゃなんだから奥に入って座ってくれ」

「は、はい」

 ごほんとと咳ばらいをして、店長と思わしき男性が中へと招いてくれた。


「華ちゃんすまんが休憩しよう。みんなで飲めるものを持ってきてくれないかな」

「はい」

 華ちゃんと呼ばれた女の子がお店の奥の方へと入っていく。その後を追いかけて二人の女の子もお店の奥へと入って行った。


「ふぅ~。あのバカが……」

 近くに有った椅子に腰を下ろすと、店長さんがぼそっと愚痴をこぼした。


――これってもしかして俺達……。

 俺達三人は顔を見合わせる。


 奥から缶ジュースを人数分持った花さん達が戻ってきて、俺達の前へと置いて行ってくれ、プシュッといい音をさせて栓を開けた店長さんがまずはごくごくと飲んでいく。俺達もその後にジュースへと口を付けた。真夏の浜辺という事もあり、暑さを感じて汗をかいていたのでジュースが凄くおいしく感じる。


「すまんなぁ君達」

「えっとなんの事ですか?」

 また大きなため息をついた店長さんが静かに話し出す。


  元々この海の家を運営するにあたって、大弥野両親を通じバイトしないかと大弥に打診したところ、三人でなら受けてもいいと承諾を貰っていた。なので今の今までバイトに来るのは大弥とその友達だろうと思っていたそうだ。事前に大弥にも確認したのだがちゃんと三人で向かうと言われていたらしい。


  しかし、実際に運営の準備をする為にバイトを頼んでいた初日――昨日の事らしいが――大弥は姿を現さず、連絡すると勘違いで日にちを間違えていたと返答し、明日はちゃんと向かうと言われた。ただその言葉がどうにも信じられなかった店長さんは、知り合いの人に相談し、本日から別のバイトの子を雇う事にしたそうだ。

それが俺達を出迎えてくれた華さん達女の子三人組。

この三人は近くの高校1年生で高峰華たかみねはなさん、本荘良子ほんしょうよしこさん、前野知理まえのちりさんという仲の良いクラスメイトみたい。三人とも地元の出身で小さい頃から仲良く、この海の家の店長さんとも親や知り合いを通じて顔見知りだったようで、バイトを頼まれた時は直ぐに了承の返事をして、さっそく今日から働き始めた所だったみたい。

 

「そういうわけで、君達はたぶんアイツに騙されたんだな。そういう私も騙されたようだしな……」

「なるほど……。つまりは俺達三人は大弥達の代わりにここに送り込まれたって事です……よね?」

「そういう事になるな」

「「はぁ~」」

 俺と店長のため息が重なる。


「さて、これから君たちはどうする?」

「どうするとは?」

「このまま家で働いてみるかい? もちろんそのまま帰ってもらっても構わないよ」

「え? でも人数は足りてるんですよね? それでも働けるんですか?」

「男手はあっても困らんし、何よりお店の店員さんが女の子だけじゃ色々あるだろうから、少ししたらバイトを探そうとは思ってたんだよ。どうかな?」

「そうですね……」

 俺は三人と顔を見合わせる。


「実は働くにしても、大弥が居ないと泊る場所が無いんですよね。知り合いの所に留まるから心配するなと言われていて……」

「あぁ心配しないでいい。大弥が言っていた知り合いとはたぶんうちの事だろう。ウチは旅館なんでな一応バイトに来る大弥達の為に、部屋は取ってある」

 店長さんにそう言われて、俺は二人に視線を向けると二人はこくりと頷いた。どうやら俺が考えていることが分かったらしい。


「じゃぁ、今日から三人ともよろしくお願いします」

「おぉ!! 働いてくれるか!! 良し決まった!! じゃぁさっそくで悪いが働く準備をしてきてくれるかな?」

「「「はい!!」

 俺達が立ち上がると、本荘さんに連れられ店の奥へと向かう。


「良かったね華。来ないんだって」

「うん。本当に良かった……」

 奥に行く前に高峰さんと前野さんが話している会話が聞こえて来たけど、大弥達が来ない事を安心している様に感じたけど、それが何故なのかは考える余裕はなかった。







それから数日間は開店準備に追われながら仕事を覚えなくちゃいけないので毎日くたくたの状態になってしまい、仕事終わりに店長と共に旅館へと戻るとご飯を食べてお風呂に入り、おしゃべりを楽しむ事も無く爆睡する毎日。


 しかし一緒に働くうちに女子三人とも仲良くなってきたので、バイトしている時間は楽しい時間となっていた。


 開店した初日はあまりお客さんが来る事も無く、割と『こんなモノか』と楽に考えていたのだけど、数日もするとさすがに人気な海の家という事もあって大繁盛。お店の外にも中で休もうとする人や、食べ物飲み物などを求める人で列ができるほどになった。


 そうなって来るともうお店の中は戦場になる。

 バイト同士で話をする暇もなく、休憩時間は本当に体を休める休憩時間になって、短い時間にどれだけ休むことができるかが大事。


 重いものなどを運ぶ時や、暑いキッチンなどはもちろん俺達男の役目になって、女子組は給仕や店先での商品の販売が主な仕事と自然と役割分担が出来た。


 自然とそういう種ラバ的な物を潜り抜ける事を経験すると、その場にいた人たちには一種の連帯感のようなものが生まれて、俺達は女子組三人とも仲を深めていく事になる。


 店長のご厚意で、時折お店を休みにしてもらったりすることが有るけど、その時はなんとお休みになったもの同士で出掛けたりすることもできた。


 俺は高峰さんと一緒にお休みになったので、一人如何しようか考えながら町の中を歩いていると、偶然町の中で高峰さんと遭遇し、二人でそのまま町の中を歩くことになった。


「でも良かった」

「え?」

「大弥君が来なくて」

「……もしかして何かあるの?」

「………」

 楽しい時間は過ぎていき夕方になり、小さな公園に入ってソフトクリームを食べながらベンチに座って話していたら、高峰さんがぼそりとこぼした。


「えへへ……。正直に言うとね、大弥君の事あんまり好きじゃなくて……」

「そうなんだ」

「うん。小さい頃から大弥君くんとは顔を合わせる事もあったんだけど、その度にすっごく絡まれちゃって」

「あぁアイツらしいというかなんというか……」

「うん。で、中学生になったころからかな? 付き合っているわけでもないのに、会うと『俺の彼女感』みたいな感じで接してくるようになって、いや……本当に無理……」

「あははは……」

 今の俺が知っている大弥を思い出すだけで想像できてしまうのが怖いところで有る。


「でね、今年はそんな大弥君じゃなくて泰蔵君と出会えた。本当に楽しいし嬉しいんだ!!」

「え? ソレって……」

 俺が聞き返そうとしたとき、今は聞きたくない声が聞こえて来た。


「よう華、久しぶりだな!!」

「え? この子が大弥が言ってる子か?」

「ヒュー!! 可愛いじゃねぇか!!」


 声をする方へと顔を向けるとそこにはニヤニヤとうすら笑いを浮かべながら近寄って来る男子三人の姿が有る。


「大弥……くん」

「大弥……」


「おいおい!! 誰が一緒に居るのかと思ったら引越じゃねぇか。なに俺の彼女に手を出してんだよ!!」

「あはははは。なになに大弥の彼女って知らないで口説いてたわけ?」

「めっちゃウケるぅ~」

 大弥はキレ始めるし、二人は煽って来るし、場に重い空気が漂い始めた。



 スッっと立ち上がる高峰さん。


「やめて!!」

「あん?」

「もうやめてよ!! 私はあなたの彼女じゃない!!」

「何言ってんだよ華。お前とは昔からずっと一緒じゃねぇか。だから――」

「ずっと一緒? 顔見知りなでしょ!!」

 大弥の言葉に被せるように高峰さんが大きな声を出した。


「もういや!! もうほんっっっとうに無理!!」

「は? え?」

 大弥ガ少しばかりうろたえる。


「私は全くこれっぽっちもあなたの事なんて好きって思った事も無いわよ。ううんというか嫌い、大っ嫌い!! もう金輪際近づかないで欲しい!!」

「高峰さん……すごい……」


「まさか……華お前……」

 大弥は俺の方をキッと睨みつけると、そのまま俺の方へと近づいてきて、そのまま俺のシャツの首元をグイっと引っ張る。


「ぐっ!!」

「おいこらぁ!! 何勝手に他人の女たらし込んで――」


 そのまま拳を振りかぶろうとした瞬間。


「そこまでにしなさい大弥」

「あん? 邪魔すんじゃねぇ!! って爺ちゃん……?」

 大弥に声を掛けたのは店長こと大弥のお爺さん。

 そしてその店長の後ろには俺のバイト仲間の皆が俺たちの事を見ていた。手にはそれぞれが花火の入った袋を持っている。


「聞き覚えのある声がすると思ってきてみたら、お前ってやつは……」

「爺ちゃん……」

 店長は大弥の方へと静かに歩いて来た。


「お前はなんだ? 身内を騙すだけじゃなく、人様を騙し、挙句の果てには勘違いで人様に手を上げるのか?」

「い、いや、これはその……」

「言い訳はいい。それにどういう風の吹き回しだ? 私がお前の両親に頼んだ伝言も連絡も無視してたのに、なぜこんなところにいる?」

「あ、いや俺は華に会いに……」

「はぁ……まずはその手を離しなさい」

 大弥ガ俺の服から手を離す。ちょっと息苦しかったものが急に解放されて俺はそのまませき込んでしまった。心配して俺のそばに来てくれる高峰さん。


「いいか大弥。お前はフラれたんだよ。たった今、完全にな」

「そんな事はない!! そんなはずはない!! だって華は俺の事を――」

「大っ嫌い!!」

 大弥に大きな声で拒否の宣言する高峰さん。

「私は泰蔵君の事が好きなの!! もう私に付きまとわないで!!」

「え?」

「へ?」

 あまりの衝撃に同じ言葉が漏れる俺と大弥。


「そういう事だ。まぁ私は華ちゃんの気持ちには気付いていたけどね。お前は結局自分さえよければいいという考えなんだろ? バイトの件もそうだし、華ちゃんの事もそう……。そんな自分勝手なやつが今後も人に本気で好きになってもらえると思うなよ? しっかりと考えるんだな」

「…………」

 大弥は黙り込みそのまま動かなくなってしまった。そんな大弥を側出と本戸が様子をうかがう。


「行こう泰蔵くん!!」

「え? あ、うん」

 先に歩き出していた店長をはじめバイト仲間の後を追い、俺も高峰さんに手を引かれその場を後にした。

 


 俺達はその後、店長さんの家でご飯をごちそうになり、バイト仲間たちみんなで花火を楽しんだ。


 そして俺は。

「あなたが好きです!! お付き合いしてください!!」

 目の前で俺に手を差し出す高峰さん。

「こちらこそ。俺で良ければお願いします」

 差し出された手を握り返す。



 

 この夏、俺は彼女の事が大好きだった。








 少しだけこの後の大弥の事を話そうと思う。


夏休みが明け学校へと登校すると、大弥の髪色が黒くなっており、それまでしていたピアスすらも無くなっていた。

 そしていつも一緒にいた二人とも距離が出来たようで、クラスの中でもその他でも一緒にいるところを見ることが無くなり、クラスの陽キャ代表格だった姿はもうどこにもなく、静かに独り過ごす毎日を送っていた。


 しかし冬休みが明け学校へと登校すると、もうすでにクラスの名簿に大弥の名前は無く、独り誰にもその事を伝える事も無く学校を去っていた。


 その後は誰も大弥の事を話題にする事も無く、いつの間にかみんなの記憶から存在は忘れられることとなる。






時は過ぎ、あの夏から十年後――



「そうかあれからもうそんなに経つのか……」

 俺は思い出の海岸である汐ヶ浜に来ていた。


 あの夏にお世話になった海の家はもう知らない人の手に渡っている様で、店長の姿は無いけれど、今もなお夏になると元気な店員さん達野声が響き、海水浴に訪れた人たちの憩いの場を創り出している。


寄せては返す波の音を聞きながら当時の事を思い出すと、足音が近づいて来る。


「パパぁ~!! なにしてるの?」

「うん? ちょっと思い出してたんだよ」

「おもいだして?」

「そうだよぉ~」

 スッと娘を抱き上げるとそのまま高いたかいをする。


「もういいかしら? そろそろ帰りましょう?」

「そうだね」

 そんな俺達に背中越しから優しく声を掛けてくれる女性。


「帰ろうか瀬奈」

「うん!!」

 にこりと微笑む娘瀬奈。


「帰ろうか華」

「そうね……」

 


 あの夏、好きだった女の子ひとと今は夫婦となって仲良く暮らしている。






※あとがき※

御読み頂いた皆様に感謝を!!


今回の登場人物は――

引越泰蔵=ひきこしたいぞう=引っ越したぞ!!

引越祥香=ひきこししょうか=引っ越ししようか

高峰華=たかみねはな=高嶺の花

目立大弥=めだちたいや=目立ちたいや!!

側出隆琉=そばでたかる=側で集る

本戸正真=ほんとうしょうしん=本当に小心


友田出雲+達野仲哉=ともだいつも+たちのなかや=いつも友達の仲や


 という感じで命名しました。


 

 最後まで(後書きまで)お読みくださりありがとうございます。

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