第42話「学生だけど学生じゃない!」
「えー、今日は北海道の方から交換学生が3人来てくれている。交換学生とは相互に学生を派遣して文化の交流を――」
扉越しに担任らしき教師のしわがれた声が漏れ聞こえた。頭上には2―Cと書かれたプレートがかかっている。つまり、今僕達は教室の前にいるのだ。
何を隠そう、僕達は今潜入先の学園である白陵学園に来ていた。呼ばれるまで廊下で待機していてほしいとのことだったので待っているのだ。
「しかし全員同じクラスってのも芸がないね。どうせなら3人別々にすればいいのに」
「その方が何かあった時動きやすいでしょ。それに真衣華は学園に通うこと自体初めてなのよ? 私達二人がカバーしてあげないと」
初めて見る月野さんの学生服姿は大変眼福だった。
普段スタイルの出ない服しか着ない彼女が、スカートという初めて足のラインがわかる服装をしている。ボン・キュッ・ボンが丸わかりだぜ。
最後の意地なのかなんなのか知らないが、タイツを穿いて生脚は見せていないが、ミチミチッという擬音が聞こえてきそうなほどにパツパツなそれは逆に興奮する。
そんな彼女の美しいおみ足を瞳孔ガン開きで観察しながら、
「一応、一日の基本的な流れとかは説明したけど、確かにちょっと不安は残るね」
「そうよ。ていうか目が怖いんですけど。どこ見てんのよ、エッチ」
「そんなエロい格好をしているのが悪い」
このままでは眼球に目突きが飛んできそうだったので視線を真衣華にやると、彼女にしては珍しくソワソワした様子だった。
「やっぱり緊張してるのかい、真衣華」
「そうね。初めての学園だもの。司さんもこういうところに通っていたのよね?」
「そうだね。任務の方は僕達がやるから、真衣華は初めての学園生活を楽しんでくれ」
「いいの?」
「もちろんさ。ね、月野さん」
「そうね。正直、真衣華には期待していないっていうと言い方があれだけど、一番は怪しまれないように溶け込むことね」
僕と月野さんは溶け込むどころか違和感は生じないだろうけど、真衣華の場合は見るもの全て初めてだ。まずは目立たないようにするところから始めてもらうのがいいだろう。
「わかったわ。なるべく驚かないようにするわね」
「それがいい」
「3人とも入ってきてくれぇー」
「おっと、呼ばれたみたいだ。行こうか」
ガラガラと扉を開けて教室に入る。
「順番に自己紹介するように」
こういうのは最初の印象が大事だからな、僕はチョークを手にして黒板に「九条司☆」とデカデカと書いた。
「えー今日からテメエ等のクラスメイトになる九条司だ。なんか文句あるやついるか?」
「文句しかないわよっ!」
「痛いじゃないか、月野さん」
思い切り頭を殴られてしまった。
「なんで九条君はそう突拍子もないことしかできないの!」
「いやこういうのは最初が肝心だと思って……」
「だからってもっとやりようがあったでしょう? せっかく色々考えてたのに、ほんともう……最悪……」
「でも見てごらん、クラスメイト達は笑っているぜ?」
「どこがよ! あら? ほんとに笑ってるわね……」
クラスメイト達はいきなり始まった夫婦漫才に度肝を抜かれたようだったが、次第にクスクスと笑い始めていた。やったぜ。ツカミは大成功だ。
「とまあ、僕はこんな調子だけど仲良くしてくれると嬉しいな。よろしくね」
パチパチパチと拍手が起こる。
「なんで今の挨拶で拍手が起こるの……?」
「ほらほら月野さん、自己紹介しなきゃ」
「もうっ……
「おいおい月野さん、流石にそれだけってのは寂しいだろう。趣味とかは?」
「え、そうかしら? えーとえーと、趣味は、女子会……?」
テンパってる月野さんも可愛いなあ。しかしこのままだと趣味が女子会という少々残念な子になってしまうからフォローを入れるか。
「月野さんは料理が得意でね、それはもう美味しい料理を作ってくれるんだ」
「あ、そう! 趣味は料理です!」
「はい可愛いー! みんな拍手!」
僕の掛け声と共に教室に拍手の音が鳴り響く。
「次は私かしら。黒鉄真衣華よ。趣味はゲームと女子会。外国暮らしが長かったからこちらの文化に慣れるまで時間がかかるかもしれないけど、よろしく頼むわね」
そう、月野さんと相談し、真衣華には外国で暮らしていた設定を付けたのだ。こうすれば多少頓珍漢なことをしても外国ではそうだったというゴリ押しができる。
「はいはーい! 質問! 月野さんと黒鉄さんは彼氏いるの?」
拍手が終わり、早速お調子者がお決まりの質問をしてきた。まあ仕方ないだろう、誰だって自分の通う学園にこれほどの美人が現れたら聞きたくもなる。
しかしだからと言って、率先してそんな質問をするなんて飛び抜けたお調子者であるのは間違いない。彼の名前はバカとでも覚えておこう。
「はぁ……そういった人はいません」
「私も彼氏はいないわ。けど、司さんは彼氏以上に大事な存在よ」
とんでもない勢いで沸き立つクラス内。思春期真っ盛りの人間にそんなことを言ってしまえばこうなるのは目に見えていたが、真衣華は予想していなかったようで驚いていた。
これは事前に口止めをしておかなかった僕達のミスだ。さて、どう火消しをしたものかな。
「あー君達、僕と真衣華の関係はだね」
「うるせー! 野郎は黙ってろ! 俺は黒鉄さんに聞いてんだー!」
なんてやつだ。あのお調子者ほんとにバカだ。こうなってしまえば真衣華に火消しを頼むしかない。そう思っていると、
「私の口から説明します!」
と、月野さんがフォローに入ってくれた。
「私達は色々な学園に交換学生として行っているんだけど、その過程でルームシェアしてるのよ。言ってしまえば家族みたいなものよ。真衣華が言っているのはそういう意味」
「ちぇ、なんだよー。そういう意味かよー。あでも、てことは俺にもチャンスがあるってことか!」
「残念だったなバカ野郎、お前みたいなバカと真衣華は付き合わないよ!」
「言ったな転校生! そういうお前は彼女いるのかよ!」
「いない! 絶賛カノジョ募集中なので、クラスメイトの女の子達頼むぜ!」
僕がそう言うと、皆に見えない位置から月野さんが僕のお尻を抓ってきた。とても痛い。
「みんな、仲良くやるように」
という担任の言葉と共に自己紹介を終わった。
「席は~空いている席に座ってくれればいいから」
とのことだったので、僕は迷わず窓際の席を選択した。なぜかって? エロゲの主人公がよく座っている席だからさ。
こういう場合、前の席に座ってる子は女の子で長いこと会っていない幼馴染だったりするのがお決まりなんだけど、残念ながら男子だった。
「さて、ホームルームを始めます。今日は――」
担任の言葉を耳に入れながら、ざっとクラス内を見回す。
いじめや犯罪行為が横行しているという事前情報がなければ、どこにでもある普通のクラスにしか見えなかった。
欠席が目立っていたり、髪色がやけに明るいだとか、そういったこともない。本当にごく一般的な教室の風景だ。
僕達が配属されたクラスがたまたまそうなのか、それとも影に隠れて悪いことをやっているのか、判断をつけるためにもまずはクラス内に友人を作る必要があるな。
そんなことを考えながら1限目の講義を受けていた。
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