第26話「はじめての調整 後編」
そうして種々のテストを終えた結果、
「結果はっぴょお~。ドンドンパフパフ~」
どこから持ち出してきたのかタンバリンを振りながら倉石さんはそう言った。
「さて結果を発表する前に数値の指標を言っておこう。80点がイドと戦うに当たって最低のライン、100点が平凡な結果。それ以上はベストパートナーといった感じだよ」
なるほど、100点を基準とした偏差値方式とみた。
「さて、その上で君達の点数だが、98点だ」
「あれ? 思ったよりも低いな」
「ウチとしても想定外の数値だよ。君達なら軽く100点は超えると思ったんだが……点数が低い主な要因として考えられるのは、君達は相互理解がまだ浅いようだね。というよりも、主に九条君、君のせいだ」
「え、僕のせい?」
「そ、君のせいだね。というのも、君は黒鉄君に対して思いやりを抱きつつも、どこか遠慮している素振りがある。加えて何よりも大きいのが、君は黒鉄君の好みを何も理解していないってことだね。例えば、黒鉄君が大根サラダにかけたいのはマヨネーズらしいが、君は見事に外していた。君の答えは野菜ドレッシングだったよ」
なんてこったい。今朝ちょうど真衣華も大根サラダに野菜ドレッシングをかけていたからそう答えたのに、本当にかけたかったのはマヨネーズだったのか。
「反対に、黒鉄君は九条君の好みをしっかり把握しているようだ。彼女は同じ質問にしっかり野菜ドレッシングと答えていた。他にも味噌汁の具の好みだったりも正解している。まあ契約したてのコンビによく見られる愛の一方通行ってやつだね」
点数が低く出てしまった要因は、倉石さんも言った通り僕が真衣華を理解していないからだ。それ以外に考えられない。
「ごめん、真衣華。僕のせいだ……」
「司さんのせいじゃないわ。私がもっと主張するべきだったのよ」
「けど……」
「あっはっはっ! よくある話で、数値化された結果ショックを受けて、信頼関係にヒビが入って契約解除に至るというケースがあるんだ。君達はそうならないでおくれよ? 貴重なサンプルなんだから」
うーむ、この検査、百害あって一利なしなんじゃなかろうか。どう考えてもやらない方が良かったと思うんだけど。
「縁起でもないこと言わないでください、倉石さん。彼らは同居しているわけですし、時間が解決してくれますよ」
月野さんがフォローを入れてくれる。ありがたい話だぜ。
「ふむ。そういえば月野君と九条君の数値も計ってくれと言われているんだった」
「私と九条君の?」
「うん。八田君から直々にハンコ付きでね。ほれ、業務指示書」
ぺらりと投げ渡すように渡された一枚の紙を月野さんと一緒に見る。そこには、はっきりと八田さんの名前で僕と月野さんとでシンクロ度の計測をするようにと書かれていた。
「何考えてるのかしら? 九条君は黒鉄真衣華と契約してるのに……」
「うーん……あの人ことだし、意味のないことはしないと思うんだけど。謎だね」
「でも指示書は本物みたいだし、さっさとやって終わらせちゃいましょうか」
「だね。さっきのでやることはわかったし、時間かけずにいこう」
というわけで始まったツイスターゲーム。
「左手の赤」
「ほいきた。月野さん、お腹の下失礼するよ」
「触んないでよ?」
「善処します」
「左足の緑」
「ごめんなさい、身体またぐわね」
「ご褒美でーす」
やはり序盤はスムーズに進む。月野さんは真衣華よりも肉付きの良い身体をしているので、早い段階で身体が触れることになるだろうと期待していたのに。
「次、右手の赤」
その時が来た。どう転んでもこの姿勢から赤を右手で触るためには月野さんのお尻かおっぱいに密着するしかない。
「月野さん、お尻とおっぱい、どっちだったら触っていい?」
「どっちも嫌よ!」
「そうは言っても、態勢見てもらったらわかると思うけど触れずにいくのは不可能だぜ?」
真面目な月野さんにはここでわざと倒れて検査を終わらせるという選択肢がない。「う~~っ!」としっかり悩んだ結果、
「お尻!」
「ほいきた」
素晴らしい柔らかさと圧力だった。今僕は生まれてきたことに感謝している。
「ニヤニヤしないでよっ! エッチ!」
「これでニヤニヤするなは無理があるよ」
「次、右足の緑」
「嘘でしょっ!?」
またしてもアダルティな指示がきた。月野さんが今の姿勢から右足で緑に触れるには、どうやっても僕の足の間に彼女の足を突っ込まなければならない。
ムチムチと肉付きの良い彼女の足でそんなことされたら、必然僕の股間に触れることになるだろう。その時が待ち遠しいぜ。
「月野さん、僕の準備はバッチリだぜ」
「貴方が準備できてても私ができてないのよ!」
「僕はいつまでだって待つ所存だ」
「もういやっ」
覚悟を決めたらしい月野さんが僕の股間に足を挿入する。
「う~! 気持ち悪いいいいい……!」
「サイコーの気分だぜっ」
結局、僕と月野さんのペアは真衣華とやった時の実に倍以上の回数を耐えた。
続いて、相手の好みを当てるテスト。
(月野さんの得意料理ねえ……わかんないし、味噌汁にでもしておくか)
真衣華の時以上にわからなかったので、当てずっぽうで答えておいた。
「結果はっぴょお~。ドンドンパフパフ~」
そうして試験を終え、再びどこから持ち出してきたのかタンバリンを振りながら倉石さんはそう言った。
「えー、まずは点数をば……お二人のシンクロ度は、153点です!」
「「え?」」
僕と月野さんの声が被った。そりゃそうだ、契約を結んでいる真衣華との点数よりも50点以上高いのだから。
「君達、実は契約してましたとかそういうオチかな? 出会って一ヶ月足らず、更に未契約でこれだなんて、はっきり言って生涯に一人出会うかどうかってレベルのベストパートナーだよ」
「いや、僕が契約しているのは真衣華なんですけど……」
「なんでそんなに高得点なんですか? 前に別の人とやった時はひどい点でしたよね?」
「なんでと言われても、君達、自分が思っている以上に相手のことを理解してるみたいだよ? 好みを当てるテストなんて二人共8割以上正解してる」
「あれおかしいな、結構テキトーに答えたんだけど……」
「私もわからないから直感で答えたんだけど……」
「そこがミソさ。相性が良ければ良いほどテキトーに答えても当たるのがあのテストだ。ツイスターゲームの時も、口では文句言ってたけどそこまで嫌がってないみたいだったしね」
喜びよりも戸惑いの方が大きかった。結果が逆ならば誰もが納得しただろうけど、これでは真衣華の立つ瀬がない。
当然僕に大きな責任があるわけだけど、だからこそ後ろを振り返ることができなかった。明らかに冷たい視線が背中に突き刺さっている。言わずもがな、視線の主は真衣華だ。
「納得いかないわ。もう一度やらせてちょうだい」
真衣華がそう言うのもまた当然の話だった。
「やってもいいけど結果は変わらないと思うよ? このテストは何かキッカケがない限り数値に大きな変動はないように作られているからね」
倉石さんの言葉通り、何度やっても僕と真衣華の点数は100を下回った。
ショックを受けた様子の真衣華に、僕と月音さんはかける言葉がなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます