壱
「おばあちゃんここで良い?」
俺、水基カグラは、おんぶをしていたおばあちゃんと片手に持っていた10キロほどある荷物を下ろすと、しわくちゃになったおばあちゃんの優しい顔に笑顔を向けた。
「ありがとねぇ。重くて運べなかったのよぉ。」
ゆっくりと話すおばあちゃんに、俺は幸福に満ちた顔を向けると、「それじゃあ、気をつけてね〜!」と別れを告げる。
そして俺は知らないおばあちゃんの家を後にする。
「ふんふんふ〜ん」
鼻歌を歌い、スキップで学校へ通う。スキップの途中、たまにクルリと一回転も加えてみる。
ああ。実に愉快だ。
俺は、今、なぜ愉快なのか。
それは、今日の日にちに関係がある。
俺はポケットから手のひらサイズのスマホを覗くと、デジタル時計17時19分の下に7月21日と表示されていた。
7月22日。その日は、夏休み初日。
そう、俺が今、心を踊らせ、そして実際に体も踊ってしまっている理由。
それは明日から最高の連休。夏休みに突入するからだ。
明日から夏休み!という事実が俺の心を弾ませる。
50m先で信号が点滅しているのが見えると俺は、手に力を入れて、バッグをギュッと思いっきり握ると、足を全力回した。
3回ほど点滅した後、信号は赤に変わったが、俺はギリギリで渡ることに成功した。
「あっぶね〜」
夏休みになったら何をしようか?
そうだな。まずは夏っぽいことをしたい。
例えば、海に行くとか、旅行に行くとか、あ、そういえば、バイトがあったな…
俺は少し肩を落とす。
バイトいつあったっけ?と思い、俺はスマホのスケジュールを開く。
と、その時
「きゃああああああああああああ!!!!!!!!」
空高く女性の声が響いた。
「ん?」
俺が首を傾げて、声の響いた方向を見ると、そこには、ライフル銃を持ち、黒い布をかぶっている男たちが立っている。
今にも強盗をしそうな格好をしている。
その強盗達は3人で構成されており、銀行前に佇んでいる。
「よし。行け。」
一人のリーダー格のような男が銀行を指差して他の仲間に指示すると、別の男が、銀行内に入っていった。
まさか、昼間から堂々と犯行するなんて、物騒なもんだ。
俺は、そう思い、警察もどうせ来るだろうと、足を運ぼうと一歩踏み出すと、俺の前に、目に水を溜めた女の子がいることに気づいた。
「う、うぐぅ…」
足が止まる。
「お、おかぁさん!!!」
周りを見渡す。
大きな通りで、すぐ横には車が並木が並び、高層ビルが立ち上がる都会。
そして、騒めき始める群衆。
でも、警察もうちょっとで、来そうだし。
バアン!!!!
俺がそんなことを思っていると、唐突に銀行の中から一発の銃弾の音がした。
「お母ざん!!!!」
仕方ないな。
俺はそのばにしゃがみ、女の子の視点に合わせた。
「どうしたの?」
俺は優しく女の子に語りかける。
「お、おがぁさんが!!!!中に!!!!」
「銀行の中に?」
コクリと頷く。
「そっか。」
俺は女の子にその言葉を残すと、並木から小石を3つほど持ちだすと、銀行に向かった。
玄関の所には2人の銃を持った男が佇んでいる。
そのうちの一人の男が俺に向かって銃を向けた。
「おい。お前何してがやる!!!!下がれ!!!!」
「えーっと…ちょっと銀行に入りたいんだけど、駄目かな?」
男は、俺を睨むようにして、俺に「関わるな」と訴えかけてくるようだ。
「そうもいかないんですよね…所持金がもう少なくて…」
「撃つぞ。」
もう片方の男が、俺の頭の横に銃を突きつけた。
「本当に撃ったら死んじゃうよ、俺」
「死にたくなけりゃあ、下がれ。」
「だから、そうも…」
バアン!!!!俺が口答えをした瞬間、弾丸が一発放たれた。
俺はギリギリ背中をそわせることによって、回避すると、俺の頭の横に銃を突きつけた男の背後に一瞬で回り込み、コツンと、後頭部を叩き、脳震盪を起こさせる。
もう一人の男はぐったりとした仲間の姿を見て、瞳を大きく開けながら、俺に銃を突きつけた。
「じゃあね。」
俺がそういうと、男の後ろに一瞬で周り、俺は後頭部をコツンと叩き、眠らせた。
「あとは主犯格だけか。」
「おおい!!!まだかぁ?金はよぉ!!!!」
店内はエアコンが効いていて、とても涼しく、この猛暑の中ではここだけが、気温的には天国だ。
まあ、強盗がいる時点で、地獄は確定ではあるかもだが。
「ああ?なんだおめぇ?」
「はぁ…本当、小さい子には甘い俺が少し気持ち悪くなってくるよ…」
店内に入ると、俺に向かって一気に視線が集中する。
視線を向ける者の中には、怯えている者や、唖然としているもの。口が塞がらずにいる者などたくさんの人々が氷のように固まっている。
店の中にいる人の人数は、大体10人程度か?職員は5人くらいか?奥には居ないよな?まあ関係ないか。
「ああ?お前、あいつらはどうした?」
「あいつら?ああ。お仲間さんの事?今は眠ってもらってるよ。」
男はなんの躊躇いもなく、俺に向かって銃を向けた。
「撃つぞ。」
「どうぞ。まぁ、当たらないけどね。」
男は引き金を引こうと指に力を入れると、俺は手のひらにある小石を一つ、銃口に向かって投げた。
そして、銃口から、光が一瞬見えると、次の瞬間、バコン!!!!という音が銀行内に響いた。
床には、粉々になった石と潰れた弾丸が転がり落ちた。
そしてあらかじめ左手に握っておいた二つ目の石を男の持っている銃に向かって投げる。
見事、石は銃の銃口の中に入り、バキャン!!!!という崩壊の音が響いた。
今!!!!!
俺は地面を踏み切り、まばたきよりも早いスピードで、男のおでこに拳を入れる。
バン!!!と男は倒れると、俺は銃を片手で拾い、銃の端と端を持ち、ふたつにバキ!と折った。
「よし!武器破壊完了!」
俺は唖然とする客を置いて、外に出ると、玄関で倒れている二人の銃も同じように折った後、女の子の所に向かった。
俺は再び、しゃがみこむと、「もう大丈夫だよ」と声を掛けた。
口を開けたままだった女の子の頭を撫でると、涙を先ほどよりも流しながら、「お母さぁん!!!」と言って、銀行の中に入った。
さてと、帰るか。
「ただいま〜」
俺は家に帰り、玄関の扉の鍵を開けると、そこには年季の入った木の匂いが漂っていた。
奥には茶の間があり、そこには畳が敷かれている。
おじいちゃんが残した、広い和式の家。一人でいるには少し広すぎる家。
俺は靴を脱ぎ、家に上がると廊下の奥からチリンという音が聞こえた。
いや、一人と1匹か。
「ただいま。」
俺が優しく言うと、奥からのろりと出てきたのは、闇のように深い黒色をした1匹の猫だった。
猫は、「にゃーん」と鳴き声をあげると、俺の足に体を擦り当てた。
俺はその場に座った黒猫の顎を撫でると、黒猫は嬉しそうに、尻尾を振った。
「かわいいなぁ〜お前は〜」
この猫に名前はない。
決めようとも思ったが地味に良い名前が思いつかず、そのまま保留になっているので、今はとりあえず、「黒猫」と呼ぶようにしている。
俺はとりあえず、5年前にリフォームしたリビングに入ると、床に高校の荷物を広げ、座布団の上に座った。
ここはリビングではあるが畳が敷かれており、洋式と和式の中間あたりの微妙な部屋だ。
俺がそこで、スマホを取り出すと、胡座をかいた俺の足に黒猫が座る。
黒猫は、そのまま、俺の足の中で、丸くなった。
俺はその黒猫の背中を撫でると、黒猫はそれに反応するように耳をピクリと動かす。
「可愛いなぁ…」
するといきなり、ゴロロン!!!!という雷の音が外から聞こえた。
「あれ?」
スマホを開き、俺は天気を確認する。
どうやらこれから大雨が降るようだ。
それも、雷がなるほど激しい物。
「にゃーん…」
俺は弱々しい黒猫の鳴き声を聞き、黒猫が俺に寄りかかっていることに気づく。
黒猫は、爪を制服に引っ掛け、猫の弱点であるはずの腹を俺の腹につけるようにして、接着面積を多くするように、二本足で俺にくっついた。
どうやら、さっきの雷の音が相当効いたようで、ビクビクと震えているのがよくわかる。
「大丈夫だよ〜」
まだ黒猫はビクビクと体を震わせている。
そういえば、黒猫を拾った時もこんな風に雨が降ってったっけ…
それは、轟々となる雨の中で、金髪の制服姿の男たちの凶悪な笑い声が響く、とても暗い雨の日だった。
「オラァ!!!!何ひょろひょろしてんだよ!!!!」
俺はその時、中学生で、高校生のそういう人に関わることは滅多にしようとはしなかった。
俺は、自分からヒーローになるような器でもない。
「はーっははは!!!!!もっと鳴いたら????」
凶悪な笑い声が響くと俺は、不良たちの方を傘の中から覗く。
3人ほどいた、不良たちはどうやら、路地裏にこもって何かを踏んづけているように見えた。
俺は路地裏の地面に転がっている黒い物をよく見る。
「にゃああああ!!!!」
その時、弱々しい猫の声が聞こえた。
どうやら、不良たちは3人も集まって、猫を痛めつけているようだった。
「あ?なんだおめぇ?」
猫が俺に助けを呼ぶかのように鳴くと、不良たちは路地裏に向かって伸びる俺の影に気づき、俺の顔を覗く。
そして、その内の一人が、両手をポケットの中に入れて、こちらへと歩き、寄ってきた。
不良は、耳につけた銀色の柄の悪そうなピアスを揺らすと、少ししゃがんで、俺の身長に合わせて、「見せもんじゃねえ。帰れ」と小さな声で言った。
俺はその時、あることを決めた。
「なんか、その猫可哀想じゃない?」
「は?どこが可哀想だよ?こんな痩せ細った猫、この世にいてもしょうがねえから、今から天国に行かせようとしてるだけじゃん。」
路地裏の奥にいる一人の男が言った。
「俺はそう思わないかな」
「は?俺らの優しい気遣いを無駄にするわけ?」
「馬鹿だな〜それって気遣いって言わないよ。」
次の瞬間、前から拳が飛んでくる。
これだから不良は…
俺はその拳を手のひらで受け止めると、受け止めた手を路地の壁に勢いよくぶつけさせる。
「いっだぁ!!!!」
不良は、コンクリートにぶつけさせられた手を抱えると、その場でもがき出した。
一応、骨が折れるくらいにはしておいたが、まあ、鉛筆は少なくとも、握れるだろう。せめて、勉強くらいはできるようにしておく。
「お、おい!?何してやがる!?て、テメェ!!!!!」
一人の不良が俺に拳をあげる。
溜めがデカい。
俺は、鳩尾の少し下あたりを狙い、一発打ち込む。
「ごばぁ!!!!」
しばらく痛みはするが、まあ、今後に支障は出ないだろう。明日には治ってる。
大丈夫だ。
「てめぇ…慣れてるな。」
「おじいちゃんによく、しばかれてたもんで。」
不良は、死んだような目をしていて、どうやら、猫に直接手は出していないようだ。
ちょっとした、リーダーってところか?
「へぇ。おじいちゃん…ねぇ…そいつはすごいな」
「まあ、ちょっと前に死んじゃったけど」
「なるほど。もうお陀仏か。」
「ああ?」
俺は先ほど倒れた不良のような、柄の悪そうな声をあげて、俺よりも身長が10センチはある不良を睨む。
不良は、制服を着ている良いうだが、どちらかといえば、昔の軍隊のような制服に似ている。
まさに、これから戦いに行くと言っても違和感がないほどに。
「は。悪かった。怒らせるつもりはなかったんだ。」
男はそう言うと、倒れている不良を踏みつけながら、俺に背を向けながら、手を振り、「じゃあな。」と言葉を残して、豪雨の街に姿を隠した。
俺は一度しゃがみ、その場に倒れている猫を見つめる。
どうやらそれってほど怪我はないようだ。
見る限り、骨折もない。不思議なほどに無傷ではあるが、とても濡れている。
「ぷしゅん!!!」
猫は、一度毛を震わしてから、くしゃみをする。怪我の心配よりも、風の心配をした方が良さそうだ。
俺は猫を拾い、黒い毛の猫の頭を出したまま、片手に持っていたバックの中に入れる。
バックから顔を出す黒猫は実に可愛らしい。
俺は猫の頭を撫でると、猫は目を少し細くしながら、「にゃー」と鳴く。
すると、チリンと音がした。
「ん?」
俺はそっと、バックを目線あたりまで持ってきて、首あたりを確認する。
首には、鈴が付いている。
目を凝らすと、黒色の革の紐で、鈴が首に固定されている。
「飼い猫?」
俺がそう呟くと、猫は、首を横に振る。
え?言葉通じるん?
俺はとりあえず、バッグを手元に下げる。
まあ、とりあえず、タオルで拭かないとだな。
俺は家に着くと、猫はすぐに、バックの中から飛び降り、玄関で、身をブルブルと振って、水滴を落とした。
「にゃー」
猫はもう平気!と言うように、俺の目を見てきた。
「そんなわけないでしょ。今タオル持ってくるから。」
俺は一旦、風呂場に行き、タオルを持ってくると、そこに猫の姿はなかった。
「あれ?どこ?」
「にゃー」
猫はどうやら、先に家の中に入ったようで、リビングにつながる障子から顔を出した。
「先に入ってたのね。」
俺はリビングに向かい、リビングの畳に敷かれてある座布団に座ると、猫を膝の上に広げたタオルの上に置いた。
猫の毛は少ししっとりとしていて、やはりまだ濡れている。
「それじゃあ、拭くよー。」
俺はそう言うと、猫にタオルを押し付ける。猫は俺の手に頭を擦り付ける。
その姿はまるでかまってほしいと言っているようだ。
俺はタオルで、一通り猫についた水分を拭き取る。
「あ」
俺はあることを思い出し、猫を俺の膝から下ろして、俺は立ち上がる。
茶の間を通り、俺はさらにその向こうの、神棚と並べてあるおじいちゃんの写真に向かって合掌をする。
俺が少し合掌していると、横に猫も並び、猫も目をつぶっていた。
猫が目をつぶっている姿は、まるで合掌をしているようだ。
「合掌してくれたのか?ありがとう」
俺がそう言うと、猫は「にゃー」と鳴く。
なぜだろう。この猫はとは心が通じている気がする。
俺はもう一度、猫に手を伸ばし、頭を撫でた。
「俺の子になってくれるか?」
俺がそう言うと、猫は、「にゃー」と言いながら、頭をスリスリと押し付けてくる。
「それじゃあ、よろしくな」
「にゃー。」
ピンポーン。
家の中に古いチャイムの音が鳴り響き、俺はその音で、目が覚める。
いつの間にか寝ていたのか。
足の中では、黒猫が丸くなって寝ている。
俺は頬を緩ませ、黒猫の頭をそーっと撫でた。
ピンポーン。
どうやら玄関にいるのはせっかちな人らしく、早く来いと言わんばかりにチャイムを鳴らしてくる。
「はぁ…ったく!!!幸せな時間なのに!!!」
俺は少しキレながらも、黒猫をどかし、起立すると障子を開けて、玄関に向かった。
玄関の向こうでは、女の人の強い口調の声が聞こえる。
「はいはーい」と俺が声を出しながら、玄関にかかった鍵を外そうと扉へ近ずく。すると、扉に付いているガラス越しにうっすらと赤い光が見えた。
「ん?」
次の瞬間、俺は爆発音と共に、後方へ、茶の間の障子を壊しながら、壁に叩きつけられた。
「おい!!!!威力間違えてないか!?」
「知るか。これが俺の魔法だ。」
意識が薄れていく中、海のように透明感のある宝石を先端につけた棒を持った男が言った。
その棒はまるで、魔法の杖のように、異世界に出てきそうな見た目をしている。
そして、もう片方の男が、後方へぶっ飛ばされた俺に拳銃に向ける。
「動くな。動いたら撃つ。」
その言葉を最後に俺は気を失った。
タイトルはまだ決めていないけど、現代ファンタジーもんではある。 最悪な贈り物 @Worstgift37564
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