第33話 カフクは糾える縄の如し

《幕間》

「ナギサくんって、カフクくん好きじゃん? どの辺りがお気に入りなのかにゃ?」

「ミューはいつも唐突だね。困ったな……改めて聞かれると難しい質問かな」

「大衆の面前じゃ言えない爛れたやつ!? ボク、エログロナンセンスはイケる口だぜ」

「どこがと問われて、一つに絞らなければならない点って意味さ。親友だから好ましい。ミューは納得しないだろう?」


「うわー、冷静だなー。ちぇっ、もっと顔を赤らめて慌ててほしかったよん」

「子供の頃から、リアクション下手なんだ。感情の起伏が少なくて、よく何を考えてるか分からない不気味な奴ってイジメられたよ」

「勇者に悲しき過去あり……ってコト? ヒーローこそ、バックボーン盛らないとね!」

「仲間外れにされても特に気にしなかった。今振り返れば、村の子たちがおかしいと揶揄するのも頷ける」


「うわ、達観がすぎる! もっと人生楽しみなって」

「最初に同じようなことを言ったのが、カフク――物分かりが良いフリした、つまんねー奴。俺に付いてくれば退屈な日々とおさらばだぜ! ……あの瞬間、視界が晴れたんだ」

「プレイボーイに口説かれたと!」

「まあ実際は、田植えを無理やり手伝わされたんだけど。自分がサボるため、道連れが欲しかったらしい」


「カフクくんらしいね!」

「集団行動を諦めた僕に、人の輪へ入るきっかけをくれたんだ。今ではとても感謝している。最近はカフクの方が一人でこそこそ動いて、一抹の寂しさを感じるかな」

「ふーん? そういえば、勇者パに必要とか言ってたじゃん。ナギサが世界を取るためだ! って、息巻いてたよん。カフクくんもたいがい君に負けず劣らずだねえ」

「まだ僕を相棒だと言ってくれるなら、こんなに嬉しいことはない」


「あっ、でもちょっとマズいかも。近いうち、勇者パはギフテッド持ちだけのエリート集団になるから転職活動忙しくなると騒いでたっけ」

「杞憂だね。キミが焦る必要はないのにさ」

「カフクくんは特別枠ってことかにゃ? 幼馴染のえこひいきじゃんっ」

「僕の道標だし当然……いや、実はカフクもその条件なら満たしている」


「え? バックパッカーでしょ。普通のタレントじゃん」

「……昔、自称ニホンから転生した占い師と知り合ってね。仲間の運命を良くしてくれるとうそぶいたんだ」

「ナギサくん。占いに傾倒する前に、運命は自分の手で切り開きなさい」

「その通り。あまり関心がなかったけど、彼女は気になることを口にした。同郷の運命には干渉できないって。いろいろと濁されたものの、これだけは教えてくれた――カフクはギフテッドを備えていると」


「タレントは一人一つが原則じゃん」

「転生特典のギフテッドは別枠らしい。アザナエル。それがカフクのギフテッド」

「全然、聞いたことないよん。ファントムやヒーローよりレア? 吉報じゃん。早速カフクくんに教えてあげないとっ」


「それはダメだ」

「んにゃぴ?」

「アザナエルの効果。他が為に尽くせば幸運の女神に愛され、己が為に欲すれば運命の歯車が狂う。その発生条件が、総じて本人が認識外の範囲に限定される」

「どゆこと?」


「アザナエルありきで人助けしても、女神様は微笑まない。あくまで、カフクが本心で動かないとね。そんなギフテッドを自覚してしまえば、宝の持ち腐れになるだろう?」

「うへー、使いづらー」

「ミュー、この件は他言無用だよ。仲間の約束だ」

「オッケー。本人が認識しないまま、ボクが上手く誘導してやろう」


「――禍福は糾える縄の如し。異国には、キミにぴったりな言葉があるじゃないか」

「急に難しいこと言った! インテリ勇者めっ」

「占い師の受け入りさ。彼女、どうやら本物みたいだ。今度お礼に伺おう」


「ナギサくんさぁ、ニニカくんとハレルヤくんが不機嫌になっちゃうよん」

「??? なぜだい? ニニカたちのアドバイスもお願いしてくるよ」


「……っ、眼中も脈もなし!? この勇者、ボクじゃ手に余るじゃん。助けて、カフクくぅ~んっ」


                                   <完>

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一身上の都合で追放されたいのに勇者がいい奴すぎて辞められません。荷物持ちがお荷物だと分からせようとしたら、活躍しちゃってもう遅い。 金魚鉢 @kingyobachi

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