第32話 現実のエピローグ


 カフクが勇者パのマネージャーだって? 冗談じゃないね、リアルガチで。

 ナギサの野郎ぅ~、出来の悪い幼馴染にも仕事を振り分けやがって!

 結局、世の中コネかっ! 実力順に並んだ世界が、そんなに怖いか!?


 ギルド会館の酒場。

 いつものテーブル席で、俺はぐったりと酒を煽っていた。


「おう、カフク。パーティーに復帰できたのに、随分とご機嫌斜めじゃねーの」

「だからでしょうに」


 今生の別れを済ませたはずのバンダナに絡まれる。


「聞いたぜ、お前らは五人組で活動するってよ」

「冒険者の噂、矢の如しだな」

「メンバーが増えるほど、パーティーの解散率も高い。ギルドがデータを公表してるな」

「そのための四人編成」


 役割が被ったり、冒険性の違いが露呈したり、意見が通らなかったり、仲良くできなかったり。例を挙げればキリがなかったり。


「余計なリスクを避けるため、ナギサには弱者を切り捨てる勇気を持ってほしいもんだ」

「それこそ勇者の行いじゃねーだろ」


 呆れるバンダナをよそに、俺はため息を吐いた。

 カリスマで仲間を錯覚させるなんて、うちのリーダーが一線超えやがった。


「クックック……そっちがその気なら、正々堂々迷惑かけておさらばよ!」


 本日、冒険日和。

 クエストを予約受注していたが……なんと、カフクはばっくれました!

 ズバリ、労働意欲の欠如アピール。否、ただの職務怠慢である。

 俺は悪くねえ! 俺は悪くねえぞ! 禁じ手を使うまでに追い込まれたんや。


「あぁ~、無断欠勤して昼間から嗜む焼き鳥セットうめぇ~」

「オメー、今度は本気でクビにされるぞ?」

「転職活動しないとなあ」


 一度は本気で身を引いたゆえ、可及的速やかに追放してくれれば是非もなし。ダンジョン配信という事業を密かに計画中ゆえ、一身上の都合で自主退職したい今日この頃。


「カフクさん。ナギサさんにお手紙です」


 ギルドの受付嬢が俺の元へやって来た。


「宛先はナギサでしょ。プライバシーのブツは直接渡しなさい」

「えー、勇者の用事はあなたを通した方が早いって共通認識じゃないですか」

「初耳だけど」

「ナギサさんだって、カフクさんに一任してると言ってましたよ?」


 俺は雑用をこなしているだけで、勇者のお世話係にあらず。

 そもそも、事務作業の手際すらアイツの方が段取り上手。


「とにかく、渡しましたから。返事はお早めにくださいね」

「ぎょ、御意」


 圧が強くて、渋々頷いた俺。

 手紙の内容を精査すれば、キャロラインなる人物から催促。

 曰く、王都で武術大会を開催するから参加要請の旨。期限間近。


「スター選手がいないと、盛り上がらないからなあ。客寄せ勇者も一興か」


 同封の申込書にサインをしたため、俺は郵便屋へ向かった。

 残念ながら、ナギサの代理人登録されていたカフク。その署名、有効です。


「ああん? 今から速達送っても、期日までに間に合わんの」

「さいで……」


 未帰還事案が尾を引き、手紙の受け渡しが遅れたみたい。


「ナギサが王都で活躍する間、俺個人の目的に専念できる……?」


 勇者パの活動休止とか、追放プランを張り巡らす絶好のチャンスじゃん。ダンジョン配信の初回放送もできちゃう。如何なる手段を以って、連絡しろ――っ!


「飼育しておいたぜ、お便りピジョン。巣立ちの時、来たれり。今、自由なる大空へ。ついでに王都のギルドへ飛翔せよ」


 バッグから取り出した鳥かごには、伝書鳩の使い魔。

 ちゃんと世話した礼に、飼い主の荷物を文字通り一度だけ必死に運搬する。本当は緊急メッセージを飛ばすSOS役だが、往々にしてチャンスはピンチである。

 逆に俺のピンチがチャンスに派生しない事実こそ、カフクの無能を証明しちゃうね。


「ぽっぽー」


 頼りない鳴き声のピジョンは無窮の彼方へ旅立った。一瞬で姿が見えなくなる。


「飛び去る超スピードっ!? せめて、別れの挨拶をせいっ」


 しょっぺー鳩対応に、俺はガトリング砲を食らったかのような顔になってしまう。

 異世界にガトリング砲なんてないだろ! いや、ナーロッパに現代兵器はある!

 チートでご都合主義に塗れた世界だ。ツッコミに意味なし。転生者が文化も技術もメチャクチャにした。特定危険外来種・ジャパニーズがやらかしてごめんよ。


「さて、飲み直すぜ。しょうがねえ、バンダナとビアガーデンにしゃれ込もう」


 中央通りを歩きながら、独り言ちたタイミング。


「カフク! ここにいたんだね」


 金髪碧眼のイケメン、颯爽登場。なぜか無風なのに、髪がなびいていた。仕様です。


「遅かったな、ナギサ。フッ、ようやくサボり魔に鉄槌を」

「受付のアマンダさんに聞いたよ。キャロラインさんの返事を代筆してくれたって」

「お、おう。武術大会、頑張ってくれ。応援しとる」


 落ち着け、論点ズラしなど彼奴の十八番。


「キミが集合場所に来なくておかしいと思ったんだ。なるほど、ギルドですぐ手紙を受け取れるよう待機していたのかい? 僕は、エントリー期限を失念していたからさ」

「……」


 忍び難きをしのび、耐え難きをたえろ。

 俺がムキにならず、冷静に対処すれば話題を戻せるはず。

 否、そんなシャボン玉より弱く儚い幻想はいとも容易く打ち破られた。


「これで、僕たちも参加が決まった。狙うは優勝だけど、カフクの作戦次第かな?」

「僕、たち……? え、何だって?」

「団体戦なんだし、僕たちで合ってるだろう?」

「ふぁ!?」


 突如、寝耳にウォーターがぶち込まれた。青天のサンダー級インパクト。


「ミューが加入前のオファーだからさ。当然、キミも参加できる。嫌がると懸念してたけど、率先してサインしたんだ。一緒に頑張ろう」


 ナギサが柔和なスマイルと共に、俺の肩を軽く叩いた。

 はは、脱臼したくらい力が抜けちゃったよ。


「団体戦ということは、団体で戦うということ」


 原因は、申込書のタイトルをちゃんと確認しなかった単純ミス!

 カフク、シンプルにやらかした! 無能、まかり通りて大失敗!


「さぁ、まずは今日のクエストをやり遂げよう。街の入口で、皆がキミを待ってるよ」


 勇者に引っ張られた俺、お荷物な荷物持ちでごめんなさい……


「――真の足手まといとは、自分に足元をすくわれる者」


 禍野福也がどう転ぼうとも、ナギサに手を差し伸べられるかぎり。

 独り立ちをうそぶくなんて、夢のまた夢なのであった。

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