第31話 勇者がいい奴すぎてパーティーを辞められない。

 バラエティ遺跡からの帰り道。


「報酬の分け前だけど、ボクが一番頑張ったよね? じゃあ、半分貰う権利があるよん。残り半分は、君たちのものだ!」


 初手、強欲。

 悲報、月光の奇術師さん。その正体見たり、盗人猛々し。

 小物界の大物たるカフクさえ、悲しい気持ちになりました。


「構わないよ。迷惑をかけた立場だし、僕の取り分はミューに受け取ってほしい」

「ちょっと、ナギ! 新人を甘やかさないの! 生意気な奴ほど最初に教育してやんなきゃ、ますます増長するだけじゃない」


 確かにと、俺は生意気の権化をガン見するばかり。


「ファントム。勇者パーティーの一員を名乗るにはまだ修行不足ね。業腹だけど、痒い所に手が届くおじさんのウデを見習いなさい。ほんと、小癪だけど」

「ボクはフレッシュさが瑞々しいじゃん。カフクくんの老害……あっ、老獪さは見習えないかにゃ?」

「ワシのどこが老人なんじゃ! カァーッ!」


 でも、老兵は死なずただ消え去るのみ。

 うんうん、カフクの辞意は正しかったかぁ~。


「ハレルヤちゃん、カフクさんが復帰して嬉しいんですよ。わたしもチームのバックアップはあなたが適任だと思いました」

「ミューに引き継いだ役目だ。何度も顔出してウザいOBとか、俺はならんぞ」


 ナギサにちょっとしたアクシデントが起こった。

 だから、俺は寄り道して様子を確認した。やっぱり、大丈夫だった。

 ったく、無用な心配じゃないか。バカらしい! 俺は先に帰らせてもらうぜ!

 元勇者パ・後方支援の人、隊列を乱した大股でドタドタと先行するや。


「皆、僕は決めたことがあるんだ。発表いいかな?」


 カリスマの号令で、全員が勇者を注視してしまう。

 スター・アトラクトのヘイト集中効果? んなもん、ただの飾りですよ。


「前置きせず、結論だけ言おう」


 朗らかな笑みを浮かべ、俺と目を合わせたナギサ。


「本日より、僕たちのパーティーは五人体制へ移行する! カフクがリザーブメンバーとしてサポート、僕たち四人がエントリーメンバーとしてバトルを担うんだ」

「ちょ、待てよ!? 冒険者パーティーは四人が基本でしょうが! 徒党を組んで幾星霜。長年の冒険と探索が積み重なった帰納法的解釈! 先人の知恵を尊敬したまえ、故人をしのべッ」

「うん、道理だね。でも、一般的な考えに乗るなんてキミらしくないかな?」

「ひょ?」


 俺らしさってなんやねん。哲学ちっとも分からん。

 ソクラテスの必殺後出しジャンケン、無知の知ロンパすっぞ。


「今回の高難易度ダンジョン。五人だから制覇できた。僕は確信したよ」

「あのさぁ、ナギサく~ん。気を遣わんでえぇ! 俺ら、長い付き合いで気の置けない関係。ミューにマジックカバン持たせて、高級アイテム使わせれば再現性しかな」

「初見でボスの行動パターンを看破して、即時対策に躍り出た。逆転勝利を掴むため、ヒーローを参戦させるタイミングまで計算していた。カフクの状況把握能力には兜を脱ぐばかりさ」


 聞け、人の話を。

 あと、お前はいつもヘルメット防具被ってない。頭装備、何がお気に召すんだ?

 マズい流れだ……勇者お得意の仲間を過大評価シリーズ。変な勘違い、迷惑です。


 鈍感アピール、ヒロインズとのラブコメまで取っておけ。

 助けて、ヒロインズ。疾く、お邪魔虫を追い払ってくれぃ。


「別にいいんじゃない? アンタは荷物持ちがお似合いよ」

「ハレルヤ!」

「ふん、あたしの前でウロチョロされたら邪魔なわけ。せいぜい、端っこの方で小賢しく立ち回ることねっ」


 プイッとそっぽを向いた、クソガキ。


「ふふ、お帰りなさいカフクさん。大団円じゃないですか」

「ニニカ、ゆめ忘れるな。誰かの幸せは、誰かの不幸で成り立つことを」


 うふふと含んだ笑みを浮かべた、プリースト。


「君はラッキーだよん。ボクにコテンパンにされたのに、正式に在籍できるじゃん!」

「入れ替え戦の結果をムゲるんじゃない。ミューが、勝ったでしょうに……」


 パリピよろしくうぇ~いと肩を組んだ、ファントム。


「満場一致で決まりだね。カフク、これからも予想外の事態を頼めるかい?」

「どうして、こうなった……?」


 果てしなく肩が重い。

 お荷物を下ろしたはずなのに、再び荷物を背負わされたメランコリー。


「僕たちは、常識にとらわれないチームを目指そう。小さくまとまっていちゃいけない。キミに教わったんだ」

「ハハッ」


 ネズミーも大爆笑間違いなし。

 反面無能を正面から見るなーっ!

 ……へっ。へへへへ! とことんやろうじゃないの。

 そっちがその気なら、俺も本気で抵抗するで? もちろん、足で。


 勇者パが五人組? 大いに結構。リーダーがメンツを増やすとのたまうならば、さらに優秀な人材をスカウトしてくればいいだけである。

 あまり足手まといを見くびってくれるなよ? 底辺には上しかいない。


「――幻のシックスマンに、俺はなるッ!」


 存在感がなさすぎて、次第に影も形もフェイドアウト。

 ナギサめ。その凪のごとき穏やかなハンサムを絶対に歪ませてやるからな。

 とっとと追放太郎にしなかった無能ムーブ、存分に後悔させてやる!


「……カフクが、僕の居場所がいる。こんなに嬉しいことはない」


 ナギサの独り言に耳を傾ける余裕などなく。

 俺は新たな決意をメラメラ燃やして、次なる無能アピールを考え始めていた。

 真の無能は下準備を欠かさない。


 なんせ、アドリブと土壇場にめっぽう弱い持たざる者なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る