第4話 おとなのかいだん♡


太陽のように眩しいネオンが一帯を照らす、人々が喜び、踊り、歌う声が聞こえてくる、もう正午が近いというのに、祭りの日の夜のような雰囲気があり。心の暗い部分を燃やし尽くしてしまうような熱気が、至る所から感じられた。


ついに来たんだ…国の中心、金融の要、富・権力…その全てが集まる【大人の夢物語】。


「ここが、【ファーブラ・カジノ】…」


「ええ、ここがリベリー様の晴れ舞台となる場所です。」


わたしはあの後すぐ、マッチの悪魔の力で生成された馬車でここに来た。【カジノプレイヤー】としての登録は既にマッチが済ませていたらしい。

私が【契約】することは私と会う前から分かっていた。ということなのかな。


「ここではリベリー様は、16歳…この国でいう成人女性という事になっておりますので発言にはご注意を」


それって身分偽装ってことよね…【ファーブラ・カジノ】のセキュリティはもちろんこの国最高峰って聞いたけど、案外大したことないのかしら…

それともこの“悪魔”が文字通り人智を超えているということかな…


馬車の中で【契約】について詳しく聞いたけど。

【契約】で与えられるものは2


ひとつはこうやって、わたしが【ファーブラ・カジノ】で【ゲーム】ができるよう手助けすることらしい。馬車を魔法の力で出して、身分偽装してプレイヤー登録を済ませて…

詳しくは知らないけど、初期費用とかも出してくれるのかな。わたしお金ほとんど持ってないし。


「まずはそうですね…英気を養うために、食事にしましょうか。」


「うん!色々食べたいわ…お魚のソテーとか、あーガチョウの丸焼きも欠かせないわ!!あ、あそこにあるのチーズケーキじゃない?ケーキ!!

わたし食べたことないのよあれ!!」


「ふむ…では宿の手続きもしなければ行けませんし。あそこのホテルにチェックインしましょうか。」


「ほてる……美味しいご飯…楽しみ…♡」


ファーブラ・カジノは1つのカジノにすぎないけど、ひとつの街かと疑うほどとんでもない広さで、その中にはプレイヤーのために様々な施設が存在するらしい。

カジノは常日頃増築が繰り返されていて、噂ではいずれはファーブラこの国の首都全体をカジノにする予定だとか…


「リベリー様、では私が手続きを済ませておきましょう。絡繰手帳スマートブックをお貸し頂けないでしょうか?」


「あ〜、はいはいこれね、任せたわ。」


絡繰手帳スマートブック、カジノのプレイヤーに配布もの。プレイヤーとしての預金やいわゆるカジノプレイヤーのランクが手帳の中にある『絡繰からくり』に記録されているもの…


インクを使わずに記録、確認が出来るなんて…カジノの施設は時代の最先端を行っていると言ってたけど。まさに【魔法】みたいね…


絡繰手帳スマートブックはカジノプレイヤーにとって命も当然…リベリー様からの信頼、感謝いたします。」


「信頼、ね…」


信頼は別にしてないなぁ…だって【悪魔】だし。

カジノのことは私はまだ詳しくないし、任せた方が色々楽かなってだけ、なにより今日は疲れてるのよね…2日くらいわたし寝てないし、ご飯食べたら早く寝よ。


───────────────────────


「ふぅ…まんぞく、まんぷく…♡ 」


美味しかったー!!ばいきんぐって最高ね。好きな物を好きなだけ食べれるなんて…

特にあのガチョウの鉄板焼き!あんなに濃厚なもの食べたのなんて何年ぶりかも分からないわ。

あと、明日の朝はいちごのケーキが出るらしいから、絶対食べなきゃ!!


食事の際、マッチに知らされていた部屋に入る。

マッチはなんかやることがあるみたい、まぁ同じ部屋じゃなくてわたしはラッキーだけど…


「こんなに広い部屋に1人だと、少し気が引けるなぁ」


2人用の部屋だと言うのに、まるでお城のお姫様の寝室かのようだった。さっそくベッドに顔を埋める。


「体を丸めなくても…思いっきり動かしても壁にぶつからない…!!」


「………本当に、夢みたいだな。」


1日前には生死の境をさまよっていたとは思えない。こんなに広い部屋にいると、おばさんの家の屋根裏の大きさを思い出せなくなる。

毎日腐ったパンを食べるために足が棒になっていた、気持ち悪い顔したおじさんに変な所に連れていかれそうにもなった。


まるで今までの生活が夢かのように、この数時間が尊すぎて…より自分の決意が固まる。


ここでわたしは生きていくんだ。この生活を一日でも長く…前の生活の記憶を一片でも消し去るために


「──────おばさん、今何してるのかな。」


「ううん、こんな事考えている場合じゃない…

そうだ…【わたしの呪いまじない】の実験しなきゃ!!」


あれはここに来る前、マッチの生成した馬車に乗ってる時。


───────────────────────


「…………というように、【契約】のひとつめは、リベリー様がカジノでゲームをするための手助けをする事です。」


「なるほどね〜…あ、このクッキー美味しい。

特にこのオレンジ色のジャムがついてる所が最高ね」


馬車にゆられながら、わたしはマッチからカジノに関する基本的な知識。そして【契約】の詳細について聞いていた。

あとはお腹が空いてこのままでは死んじゃう、とゴネまくったらクッキーを生成してくれた。意外と悪魔って押しに弱いのかもしれない。


「そしてもうひとつが、【呪いまじない】です」


「……【ゲーム】に勝つための、魔法の力よね」


「ええ、【契約】に関してはこちらがメインと言えるでしょう。既にリベリー様には【呪いまじない】がかかっています、人智を超えた。貴方様だけの悪魔の魔法が使えるのです…!」


もう既に?特に体に変化は感じないけど…ていうかどんな魔法なんだろう。やっぱり炎とか雷を操るのかな??それとも【ゲーム】に勝つための力だから…相手の心が読めるとか!?


期待が高まる、これは言わば自分だけの武器。この国中の強者とこの力で戦わなければならないのだ。


「…リベリー様の呪いまじない、その名は」



「…その名は?」



思わず唾を飲む、クッキーを食べる手が止まる。



「その名は…名付けて………………」



「…名付けて??」



え???もしかして今名前考えてる?



暖かみある虚像リベリー・メディスン



暖かみあるリベリー……虚像メディスン??」


「なんというか、強そうな名前には聞こえないんだけど…一体どんな呪いなの?」


「一言でいうと、手で包んだ物体の見た目を変化させる能力…です。」


手で包んだ物体の見た目を変化させる…


───────────────────────


「……正直、微妙よね。」


両手で、ホテルの部屋に備え付けてあったちり紙を包む。そして


「クッキー…クッキー…クッキー…」


頭の中にあの時食べたクッキーを思い出して数秒念じた。

そして包んだ手を開くと…そこには確かにマッチが生成したクッキーがあった。大きさや生地の色合いはもちろん。オレンジ色のジャムがついている部分も完璧。


「これが暖かみある虚像リベリー・メディスン…」


今までどこか実感が湧かなかったけど、わたし…本当に悪魔の【契約】したんだ。


…マッチから聞いた【対価】の件も、何か考えなければいけない時が来るんだろうな。


「ま、今はそれよりもこの能力の“実験”ね!!」


例えどんな能力でも、使えるに越したことはない。

そして有効に使うためには、色々“試す”必要がある、カゴから今日のお土産を机に置いて見つめる。


「…時間、どれくらいかな。」


ここに来る途中に買っておいた砂時計。1分用、3分用、10分用と数個買っておいたのだ。

そういえばジャムの色は再現されてるけど、匂いがしない。やっぱり変化するのは“見た目”だけ。


見た目は美味しそうなクッキーだけど、実際はそこにあるのはただのちり紙ってこと。

例えばこれをマッチ棒に変化させたりしても、マッチ箱に擦って火が出たりはしない。


「……2分かぁ」


クッキーがちり紙に戻ってしまった。2分…

思ったより短い…まぁ長すぎても使いずらいし、これくらいがベスト…なのかな。


「……次は私が見た目を知らないものでも変えられるのか…。」


「……………効果時間を自分で決めれるのか…。」


「…………………………」


「………zzz」


───────────────────────


「…………朝…??…」


窓からうるさいくらい光が差し込んでくる。といっても太陽じゃなくて人工の光なんだけど…

ここでずっと暮らしてると時間感覚とかおかしくなりそうだなぁ


色々検証をしていたら寝ちゃったみたい…結局ベッドで寝そびれちゃったな。まぁあらかたやりたい事は出来たし。


「…朝ごはん食べに行こ〜♪ 」


やけに長い絡繰階段エレベーターをおりると、清潔感のある爽やかな服に着替えたマッチがわたしの絡繰手帳スマートブックを見ながら立っていた。


「マッチ〜結局あなたどこにいたの?」


「リベリー様、おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」


「ぇぇおはよう、屋根があるってやっぱり素晴らしいわ!!あなたのお陰ね、ありがとう。」


「こちらお預かりしていた絡繰手帳スマートブックです。では食事でもしながら今後についてお話しましょう。」


「分かったわ!今日のご飯も楽しみね〜♡」


どこにいたの?と聞いたはずなのだけど、完全に話をそらされてしまった。やっぱりどう接していいかが掴みきれないわね…


楽しみにしていたいちごケーキを皿に起き、空いている席に座る。


「ん〜美味しいこれ…少し酸っぱいイチゴと、生クリームが絶妙なバランスだわ…♡」


「リベリー様、お食事中の所恐縮ですが絡繰手帳スマートブックを開いて頂きませんか?

機能の説明をしておいた方が良いと思いまして。」


「ん、あー構わないわよ。え〜っと。」


手帳には文字と数字がずらっと並んでいる。わたし文字の読み書きは簡単なものしか出来ないのよね…。16…500…ん?やけに大きい数字もあるわね。


「ここが所有者の年齢…そしてプレイヤーのレート。そして…」


「あー、わたしここでは16歳なんだっけ。レート…これを上げてくと【VIP】になれるってこと?」


「まぁ簡単に申し上げればそうですが…プレイヤーにはランクというものがありまして、階級が上がっていくとカジノ内で特典や援助が受けられるのです。」


ふーん、お金の他にレートやランクも気にしなきゃ行けないのね。私の今のレートは500…まぁ恐らく最初の値って所かしら?


「じゃあこのやけに大きい数字は?いち、じゅう、ひゃく…500万もあるわね。」


「それは…」


「やっぱり預金かしら?悪魔だもんね!!それくらい与えることなんて、ちょちょいって事でしょ?」


500万エン…目ん玉が飛び出そうな額だけど、これだけ私がお金を持ってるって考えるとなんとも言えない優越感があるわね!!




「ああ、それは…貴方様の “借金の額” です」




「……………………………ふぇ?????」



「…いやいやw聞き間違いよね、だって500万よ。そもそもわたしはそんなお金借りた覚えは…」


「私が借りました、あなたの絡繰手帳スマートブックを使って。」


マッチが真顔でなんの感情もなく告げる。


「…はぁ!?!?いや、なんで!!そもそもどうやって!?!」


「“カジノのレート”は、カジノに1万エン支払うことにつき 1 付与されるのです。」


「そしてレートがある程度ないとプレイヤーは【ゲーム】すら出来ません。ある程度借金することは珍しくないですよ。」


「だ、だからっていきなり500万はおかしくない!?

そもそもただの16歳にそんな額貸してくれるわけが…」


「ええ…ですので500万しか借りることが出来なかったのです。」



【ファーブラ・カジノ】金銭感覚がおかしい…ッ…!!!



「ちなみに返済期限は“1週間”です。ファーブラ・カジノは借金の未納には非常に厳しいと聞きます。おそらく使500万を回収しに来るでしょう。」


………………


「…やっぱり、ベッドで寝ておけばよかったなぁ」


わたしは、二度と大切なものを他人に預けないと決めた。こうしてまた1つリベリーわたしは大人になったのだ。


第4話 おとなのかいだん♡














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【子供のメディスン】 〜メスガキのカジノ成り上がり〜 @2high-F

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