第3話 あけましておめでとう♡
「箱を降っても音が鳴らないだと……!?」
「…w」
どういうことだ??マッチ棒が1本も入ってない…?
いや、そんなことある訳がねぇ!!これはマッチ棒を入れてその数を当てる【ゲーム】…
そんな事をしたってなんの意味も無い…ゲームを諦めた?一体何を考えて…
いや、まてよ?
さっき俺も使ったじゃないか、箱の中のマッチ棒の数をミスリードさせる方法…
「まさか……」
鞄を地面に置いて漁りだす。俺はこの街の工芸品店の一人息子…この鞄は親父から貰った仕事道具だ。
毎日、毎日続く作業に嫌気がさしてカジノに足を踏み入れたが…それでも仕事道具は肌身離さず持っていた。
──ない、俺の接着剤が無くなってる。
「手癖のわりぃガキだ。」
「………なんのことかしら?♡」
あの時だ。さっきこいつが俺の手を触るため近づいた時にこいつがスリを働いたんだ。
みすぼらしいガキだし、そういう技術があってもおかしくない。
つまりこのマッチ箱の底には、マッチ棒が1本入ってる!!!
「よし!じゃあ【宣言】────────────
そう叫んでいる途中。俺の脳裏に、ある1シーンが浮かび上がる──ファーブラ・カジノの【ゲーム】
俺はあのカジノの【VIP】と対戦した。
結果は惨敗。俺は鞄と服以外の持ってるもの全てを奪われた。だがあんな勝負俺は認めない…明らかにヤツは“イカサマ”をしていたからな。
だがそんなことよりも忘れられないことがある、ヤツの“眼”だ。
あの全てを嘲笑うような…漆黒の悪魔の眼。
それが俺は、忘れられない。そして今、俺の前にそれと似たような眼をしたやつがいる。
俺はもう二度と負けない、もうあんな惨めな思いはしねぇ!!!
──【宣言】…は、まだしない……」
「……へぇ♡」
「おれは今から、強くなる。成長する……!!」
「……!?」
ずっと眉ひとつ動かさず俺を嘲笑ってたクソガキが、少し表情を変えた気がした。
今までの俺なら、ここで迷わず 1本 と【宣言】してた。
だけどそれじゃダメなんだ。もう負けないためなら、俺が変わらなきゃならねぇ。
新しい俺をあのメスガキに“
「……………思い出した。」
「……なにを?♡」
「お前、最初の番の時わざわざもう1回聞いてきたよな、俺にルールを。」
───────────────────────
『再度確認するけど、“6本まで”よね?』
『ああ、どうせその箱小さくて6本しか入らないからな。“6本まで”だ。』
───────────────────────
そう、そんな風にしつこく確認しちまったのが…お前のミスだよクソガキ!!
「この【ゲーム】は、1本から6本のマッチ棒を箱に入れてその数を当てるもの…ルールを決めたおれはそう思ってた。
だけどお前は違う解釈をしたんだ…!」
「………なっ…!?」
明らかにガキの表情が変わった、図星だな。さすがのこいつも咄嗟のポーカーフェイスなんて出来ねぇよな。
「“6本まで”ってのは0本も入る!お前はそう解釈してマッチ棒を箱に入れない作戦を思いついた!」
「………接着剤を使ったのかもよ。
おじさんと同じように…底にマッチ棒をつけて音が鳴らないようにしたのかも♡ 」
わざわざ自分で言ってきやがった…だが
「それはねぇ…“匂い”だ。」
「あの接着剤は工芸に使う高価なもの。“独特な匂い”がするんだよ。お前が最初にそう言ったんだろ?」
「……………そうね。」
「だがこの箱からは“匂い”がしない…よく嗅がねぇと分からないレベルだが、確かにおれには断言できる!」
今までの俺なら匂いなんて嗅がずに1本って【宣言】してた…だが、俺は強くなるんだ。強くなったんだ!!
「“接着剤を奪うこと”こそがお前のミスリード!
そして箱には何も入れず俺に渡したんだ…!
違う解釈の話をした時、お前が動揺して声を漏らしたのが何よりの証拠なんだよ!!」
「【宣言】──マッチ棒の本数は、0本!!」
「…………………箱の中、一応確認してよ。」
よし…やった!この番は俺の圧勝。次の番で必ずこのガキを
「…………………は??」
箱の中にマッチ棒は入っていなかった。いや
雪で濡れたであろう布が箱いっぱいに敷き詰められていて、中身を全て確認出来なかったのだ。
まさか
布を取り出して箱を放り出す、箱はなんの音も立てず雪に埋もれやがて風に
小汚い、丸まった赤い布。それを開くと
細かくちぎられたマッチの棒が数本、地面に落ちた。
ガキは地べたに座り込み、マッチ棒を指さして
「…1、2、3、4、5本だね。おじさんの【宣言】は0本だから…おじさんの“負け”だよ♡ 」
「………え?……おれの、負け…?」
俺はその場に立ち尽くして、何も言えなくなってしまった。ガキはその様子をしばらく覗き込んでいたが、満足したのか微笑みを浮かべて雪を払いつつ立ち直した。
「例え箱に6本マッチ棒を入れたとしてもほんの少しの余白があったら、振った時に音は鳴っちゃう。
ほとんどしないけれど、それでも普通のやり方じゃ完全に音を消すことはむり。」
ガキは淡々と説明を続ける。
「だけど、箱の余白が全くないように…しかも柔らかい布を入れれば音を完全に無くすことができるの。あ、この布が何かっていうと……これ♡」
そう言って上着を少しめくると、服の一部に破られたような箇所があった。
路地で必要な分だけちぎった…のか。
「何も入れなくても、もちろん音は鳴らないけど。
箱いっぱいに詰めても音は無くなる…
ま、さっきみたいに箱を押せば一発で分かるけど…肝心なことを忘れてたね。おじさん♡」
……………?
「お前…おれが0本だと確信して、箱を押さずに【宣言】するようにミスリードしてたのか…??
でも、おれがその可能性に気づいたのは、お前の“ルール確認”がきっかけで…」
「……
嘘だろ
まさか、最初から全部…!?
違う解釈の話をした時に、明らかに動揺したのも…接着剤を奪ってわざわざそれを自分で言ったのも…
「──おれに0本だと思い込ませるため…」
ガキ……
全ては掌の上、俺が理解らせる?とんでもない。
強くなったところで俺はこいつの足元にも及ばない、圧倒的に格上の存在。
「ま、おじさんも思ったより悪くなかったけど…
それでもわたしと比べたら」
「ざぁ〜こ♡ 」
───────────────────────
「……ってところかな!!【ゲーム】は私の勝ち!
さぁ、わたしの10000エン。返してちょうだい。」
ちょっと、はしゃぎすぎちゃった…お金のことになると少しだけ性格変わっちゃうんだよねわたし…
本当はただのかわいい幼女なのに、、
「………」
「…ん??」
駆け寄ってよく見ると。こいつ、気絶してる…
【ゲーム】に負けたのがそんなにショックだったの?それにしては何と言うか、笑ってるように見えるんだけど……………
「…まぁいっか!お金だけ貰って、とんずらしーちゃお♡」
10000エンさえ回収できればそれでいい!多分ズボンのポケットだよね?えーっと…?あれ??
おしりの方のポケットかな、気絶してるからちょっと動かすの大変そうだけど…
「これは私の10000エンですよ。お嬢さん…いや、リベリー様。」
「……………え?」
後ろを振り向くと、まぁ振り向く前から声で分かってたけど、マッチ…と名乗った初老の自称悪魔がこちらを睨んでいる。マッチの周りは、先程と同じく雪の窪み…もとい足跡1つ無かった。
「あ、えっと……マッチさん?それはその…」
「話をせず、物も置いていかず、金銭だけ盗って逃走とはあまり頂けませんな。」
あー、、どう言い訳しよう。とりあえずここにあるマッチ箱を全部渡して…いやそもそも10000エン分もマッチ箱無いし、1部接着剤ついたり凹んだりしてるし…
「まぁ、そんなことは私にはどうでもいいのです。」
「リベリー様…あなたには“富”と“力”が必要なのでは?」
「!?」
「貴方様の望みを叶える、いや叶え続けるだけの富と……貴方様自身を守る力が…」
そうだ。今回の【ゲーム】も私に今日を生きる“富”が無くて、あいつに真正面から抵抗できる“力”が無かったから……
「…あなたは、それを私にくれるというの?」
「富を与えることはできません、悪魔は人間界の金銭になんてこれっぽちも興味が無いので」
「しかし…富を得るための“力”を与えることができます。私と【契約】すればね。」
富を得るための力……【契約】で得る悪魔の力…それって…もしかして
「魔法…とか?」
つい口をついて出た言葉だった。魔法…異能…おとぎ話の中でしか登場しない“力”
火を吹くドラゴンにも、影に潜む恐ろしい魔女にも対抗出来る…“夢の力”
現実に存在するわけがない、まさに笑い話…それが功をなしたのか今までしかめっ面だった悪魔が少し口角をあげた気がした。
「そう…魔法です。私達は【
「この国はギャンブル…【ゲーム】が全てを決定する場所。そこで
「…透視、幻術とか、他にも催眠……いくらでも思いつくものね。」
本当にそんな力があれば、私の夢も………
「そうです!先程の【ゲーム】拝見させて貰いました。リベリー様は素晴らしい才能をお持ちです。」
「さぁ…そんなところに座ってないで、手を取って…【契約】致しましょう。
そして…この世界で、成り上がるのです…!!」
──────いつか、そこに行ければいいと思ってた。誰もが夢みる場所、ファーブラ・カジノ。
そこの【VIP】と呼ばれる人間は、一生どころか九生遊んで暮らすことが出来て。国を指先一つで転がせる権力を持つ…………
そこに行けば、寒さに凍えることも、明日のご飯に苦しむことも、おばさんにぶたれることもない…
そして何より、あの人に……………
「本当は、いつかじゃ嫌だ。」
「明日…いや今!わたしはこの状況を脱したい!!
【契約】とやらを…さっさとしなさい。マッチ!」
そう私は叫ぶ。叫ぶための体力なんてとうに無かったはずだけど…わたしはとにかく、叫んだんだ。
「ええ…では参りましょう、リベリー様。」
本当に貴方様は素晴らしい…齢10にしてゲームの本質にすぐ気づくその頭脳。土壇場で突飛な仕掛けを思いつくその胆力。
そして何より…相手の実力を完全に把握し、それを利用してゲームを
貴方は必ず、【私の望み】も叶えてくれる…
今日は1月1日、今年最初の太陽が家を、道を、わたし達を照らす。
わたし達のことは今、誰も知らない。だけど、この国中の人間が知ることになる。
わたしの新しい1年が…はじまった。
第3話 あけましておめでとう♡
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