第2話 げーむすたーと♡

──この国でギャンブルが許されているのは、国唯一の合法カジノ。ファーブラ・カジノの中だけ。そんなのは建前で、ギャンブルに支配されたこの国では、今日も明日もそこかしこで【ゲーム】が行われている…


「クソガキ。お前から申し込んできた【ゲーム】だ。ゲームのルールはおれが決めていいよなぁ?」


おおみそかの夜、もうすぐ年が明けようとする中…ここでも1つのギャンブルが行われようとしていた。


「ええ、かまわないわよ。ま、どんなルールでもざこなおじさんは…わたしに勝てないけどねw」


「あとクソガキじゃないわ…リベリーよ。後でおじさんが一生忘れられなくなる名前♡ 」


そう。わたしの名前はリベリー…こいつだけじゃなくて、数年後にはこの国中に轟く名前。


酒くさい男は名乗りもせず、持ってる鞄を漁ったりして、少し考える様子を見せると雪道に散らばり落ちた1つのマッチ箱を拾って中身を確認した。


「1箱6本入り…ちっせぇがまぁ良い。【ゲーム】はこれを使う。」


一呼吸置いたあと、男はマッチ棒を取りだして【ゲーム】ルールの説明を始める。


「ルールは簡単。まずは相手に見られないようにこのマッチ箱に “6本まで” マッチ棒を入れて相手に箱を渡す。」


そう言うと酒くさい男はこちらに背を向けて少し俯いたあと、こちらを振り向いてマッチ箱を放り投げた。


「そしてもう1人はこの箱を開けずに、そこに入ってるマッチ棒の本数を【宣言】する。

それで【宣言】を外した方が“負け”ってゲームだ。ガキでも分かる単純なルールだろ??」


「【宣言】…マッチ棒の本数を当てた場合はどうするの?」


「そんときは選手交代。当てた奴が今度は相手に見えないようにマッチ棒を入れる、そしてまた箱を渡して…宣言して…その繰り返しだ。宣言が外れるまでな。」


“6本まで”…ふつうに考えて当たる確率は6分の1……予想が外れる可能性のほうが圧倒的に……


───ううん……違う!この【ゲーム】は“ただの確率論じゃない”


「…だとしても、先攻がとっても有利なのは変わらないわね。」


「だったら先攻…最初に箱にマッチを入れるのはお前で構わないぜ〜ウィック」


「そう?じゃあおじさんの気遣い。ありがたく貰っておくわ♡」


気持ち悪いガキ…。

ああ、先攻なんてくれてやって構わねぇさ。この【ゲーム】…俺には必勝法があるからな。

“理解らせ”てやるよ、お前に大人の強さをなぁ…


「その生意気な眼に、絶望を見せてやるよ!!


わたしはこんな所で負ける訳にはいかない


もう、腐りかけた冷たいパンなんて食べたくない。

もう、凍えるような空の下で死にかけたりなんかしたくない!

もう、おばさんにぶたれたりしたくない!!



「わたしは、何も出来ないのが嫌だ…諦めて眼を瞑ったりしたくない。諦めて眼を瞑るくらいなら、望んだ光で眼を潰された方がマシ…!」



「また生意気なことを言う……じゃあ【ゲーム】スタートだ!!」


幼女と男が相対する。体格差は2倍では済まされないほどに大きく、特に幼女は今にも雪の裏に消えてしまいそうなほど小さくみすぼらしかったが…その眼は輝き、確かに1人の勝負師の存在感を発揮していた。

やはり、彼女は私の【契約】を──────


「わたしの先攻…背中を向けるだけだと身長差で手の動きが見えてしまうかもしれないし。そこの路地裏でマッチを入れてきてもいい? 」


「ああ、構わないぜ。まぁゆっくり考えなクソガキ。」


「再度確認するけど、“6本まで”よね?」


「ああ、どうせその箱小さくて6本しか入らないからな。“6本まで”だ。」


そう聞いてわたしは微笑みを浮かべた、男はそれが気に入らなかったのか顔をしかめてそっぽを向く。

路地に入り、マッチ箱からマッチ棒を全て取りだす。


6本までって言うけど、このゲームは別に6分の1の運だめしじゃない。


「ていうか、あいつお酒飲みすぎ…なんか独特な匂いがマッチ箱にもついてきてる…」


試しに1本だけマッチ棒を入れて…箱を軽く振る。

「カラッ…カラッ…」と静かな路地に小さな音が鳴った…

やっぱり、1本だけだと明らかに音で判別できる…相手は箱を開けずに受け取る。つまり“箱を開けなければ何してもいい”のがこの【ゲーム】…


「1本とは反対に、6本もダメ…マッチで小さい箱が敷きつめられたら、音がほとんど鳴らなくなる。なら選択肢は…」


マッチ棒を3本入れて、試しに軽く振ってみる。

「カララッ…カラッ…カッ…」

やっぱり!! マッチ棒同士が当たる音が重なって2本以上あることは分かるけど…詳しくは判別できない……!


わたしはそのまま路地を出て、男にマッチ箱を手渡した。


「さぁ、早くマッチ棒の本数を【宣言】しなさい。」


「まぁ待てよ…大人には勝負の時でも、余裕ってもんがあるんだよ。」


男は数秒マッチ箱を見つめると、マッチ箱を乱暴に降った。マッチ棒が箱に衝突する音、マッチ棒同士が衝突する音。その両方が重なって街に響き渡った。


「さすがに1本や6本いれるマヌケじゃなかったか…それなりには考えられるんだなぁ。」


「当たり前でしょ♡ むしろおじさんが気づいてたことにわたしはびっくりしたわ。」


「ふーん……だがこれには気づかなかったんじゃねぇの??w」

「クシャッ…」


「…!?」


男は箱の表面と裏面を指でつまむと、軽く押し潰した。そうすると、袋の膨らみで中身がまだ残っているかどうかを確認するみたいに…手さぐりで箱越しにマッチ棒をつまんで本数を数え始めた。


「んー……1、2…3だな。間違いない。」


「な、そんな……!」


「“箱を開けること”意外は禁止していない…お前だって分かってただろ?」


「【宣言】!マッチ棒の本数は 3 だ!」


男は乱暴に箱を開けて確認する。形が歪んだ箱の中には宣言通り3本入っている。


「これでお前の番は終わり。次はおれが箱にマッチ棒を入れる番だ。やっぱり大したこと無かったなw」


こんなのもルールで認められるなら、わたしがふつうにマッチ棒を入れても永遠にあの男は【宣言】を外すことはない…。もちろんそれは相手も同じ。

この【ゲーム】は相手の思考を上回らなきゃ勝つことができない、騙し合いのゲーム…!!


「………新しい箱、1つ貰うぞ。あと俺も路地裏を使わせてもらう」


「どうぞ。あ、ヘンなことはしないでよ?w♡」


相手をふざけた言葉で挑発してイラつかせる。だけどふざけてる訳じゃない…わたしにとってはこれはゲームだけど遊びじゃない。

この騙し合いを、何としてでも制して私は明日を生きるんだ!


───────────────────────


「遅い………」


ただマッチ棒を箱に入れるだけにして長すぎる…

わたしみたいに色々確認を?いや、あの男はこのゲームに異常な自信があった……何か企んでるのかもしれない。


「……待たせたなクソガキ。ほらよ」


また投げてきた、一応投げる時の音もヒントになるのに………見た目も特に変わりはないけど、音からして2本から4本くらいかな。あとは、、


「クシャッ…」


表面と裏面を軽くつまんで、手でマッチを探す…


「そうそう、ガキは大人の真似だけしときゃいいんだよ。さ、ゆっくり考えて【宣言】しなw」


「1、2……2本だけ?」


「おーー鋭いねぇ!!さすが、最近のガキは賢いなぁ」


おかしい、簡単すぎる。あの男はこの【ゲーム】に自信満々って感じだったのに。

でも、いくら表面を押してもマッチ棒は2本しかない。表面を押しても…………


「おいおい、そんな考えても無駄だって…はやく【宣言】しちまいな。」

「ウィッ……ゲェッ〜〜〜プ。」


汚いし……臭い、ほんとにいかにもお酒って感じの匂い……おばさんもよく飲んでたな。嗅ぎなれた匂いだけど、ほんとに嫌いな匂いだ…

もう二度と嗅ぎたくない。


「……………嗅ぎなれた、匂い? 」


──もしかしたら、いや、根拠はある。だったら


「ねぇ、おじさん。」


「…あ?なんだ?」


「その大きい鞄、中に何が入ってるの?」


「…!?!…あ?そんなのお前に関係…てか、ゲーム中だぞ!はやく【宣言】しろよ!」


男は腰を低くし身構えて1本後ろにたじろいだ。それを見計らってわたしは、男と一気に距離をつめて、手を握る。


「“質問”しちゃダメ、なんてルールないでしょ。」


「おじさんさぁ、手から独特な匂いがするよね。ほんとくっさい♡」


「はぁ…??そんなの余計なお世話…」


「最初はお酒かと思ったけど違う。別の匂い。かいだことあるよこれ…工芸品のアトリエとかで付くそういう匂い。」


「!?!」


なんだこいつ…いや、まさかあの仕掛けが分かるわけが…こんなガキに…


「こんな風になるのは一朝一夕じゃむりだよね、きっとお仕事に関係あるんでしょ?♡ 」


「おじさん、鞄の中を確認してからゲームを決めたよね…年季があるから、仕事用の鞄かな…

もしかして普段使いの使が鞄の中にあったんじゃない?w 」


こんなガキに、わかるわけがない!俺の、俺の必勝法!!!


「マッチ棒を箱の底にくっつけるための接着剤とか♡」


──────────!!?!?!????!?


「なにその顔、だっさぁ♡ 図星って感じだね〜。大人のよゆう?はどこ行ったのかなぁ…。

ポーカーフェイスとか練習した方がいいよ?おじさん♡ 」


「【宣言】するね♡ マッチ棒の本数は3!!」


マッチ箱を開けて手のひらに向けて軽く振る。出てきたマッチ棒は、2本。


そして……箱の底をのぞき込むと、半分に折られたであろう短いマッチ棒が1本へばりついていた。


「おじさん器用だね〜、ちゃんと1本だけ底にピッタリついてるよ♡ 」


「宣言するのはマッチ棒の“本数”、半分に折られてても1本は1本だよね♡」


「じゃ、またわたし新しい箱使うね。また鞄の中で道具も探してたら??w」


何故…バレるはず無かった。鞄の中に接着剤が入ってるかどうかなんて、普通分かるはずなんて無いだろ。しかもあんなガキに…負けるのか?俺が…

あいつと、俺の全てを奪ったあいつと同じ眼をしたガキ…


負けたくない…俺はこんなところで終わる男じゃ…



「終わってるわよ。」



「…!、ああ……」


「おじさん聞いてる?準備終わってるから、確認して。」


─考えすぎた、目の前にこいつが来るまで気づかなかった。まぁとりあえず、ここを凌げばまだいくらでもやりようが…


「…………………………?」



箱を振っても、音が……………鳴らない!?!?


幼女は優しく、静かに微笑んでいた。



第2話 げーむすたーと♡








































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