第1話 がんばれ♡ がんばれ♡

「契約…? 望みを叶える手助け…?」


「ええ、改めて自己紹介致します。私はマッチ。悪魔です。私は貴方様の【望み】を叶える手助けをする。その代わり貴方様から【対価】を頂く。」


「そういった 契約 の申し出に来ました。」


悪魔?今そういった?本当に?

いや、そんなわけが…悪魔なんてのは童話の、おとぎ話の存在で…

反論は色々思いついたけど、わたしはしばらく何も言えなかった。悪魔なんて存在しない、そんな論理的な常識をいともたやすく否定する、異質で圧倒的なオーラをマッチと名乗る初老の男は放っていた。


「ファーブラ・カジノ」


初老の男は北を指さし、また語りだす。


「この国の首都に存在する唯一の合法カジノ、カジノでありながら国最大の銀行としての役割も担っており、一般市民から上流階級までもが平等に利用するいわば金融の要。」


「そこの【VIP】と呼ばれてる人たちは、一生どころか九生も遊んで暮らせるだけのお金と、国を指先一つで転がせる権力を有する…でしょ」


「さすがリベリー様。博識でございますね。」


…ここに住んでる人なら子供でも知ってる、そんな常識。ギャンブルに支配されたイカれた国。金と権力…そして運が全ての国。それがファーブラ。


わたしもいつかは、あそこで…全てを手にするんだ……そして…


「って、そんな話どうでもいい!!早くどっか行ってよ!わたしは今すぐお金を…」


「ですから、その望みを叶える手助けを」


「そんな詐欺、お猿さんでも信じないわ!いかにも怪しいし。ここで 怪しいおじさんに襲われるー!! って叫んでもいいのよわたしは!!」


とうに無かったはずの体力を振り絞ってわたしは精一杯の威嚇行為をした。誰もいない街に幼女の虚勢を張った声がこだまする。


「………警戒、されているようですね…うーむ……」


男はそうしてしばらく深く考え込むと、スーツのポケットから10000エン札を取り出し


「これであるだけのマッチをください。そしてゆっくり話し合いましょう」


「あ、…え……?」


これがあれば今日の家賃が…


いつの間にか炎が消えていたマッチを捨てて、わたしは手を伸ばしていた。

10000エン札をおそるおそる受けとって、それを握りしめると、男はわたしが持つカゴの方に手を差しのべた。そしてわたしは……



逃げた。思いっきり逃げた。



マッチ箱が入ったカゴももったまま、一目散に。おばさんの家への最短ルートを爆走。

あきらかに怪しい男相手に話なんてしたらだめだ。それに、カジノに行くのだって今じゃない。もっと資金をためて…そう、いつか…いつかは──



────ドン!!

思いっきり走ってたら何かにぶつかった。マッチ箱がカゴから勢いよく飛び出して雪の上に散らばり、遅れておでこにジンジンした痛みが走り出した。


「…痛っ……考え事しすぎちゃった…」


「…おい、クソガキぃ………どこに目つけて歩いてんだ?」


顔を上げると、小汚い男がこちらを睨みつけきた。いや…スーツを着ていて、年季のある鞄をぶら下げて、服そのものは綺麗なのだが分不相応というか。どこか違和感のある格好をしている男。

息は酒くさく、よく見ると足もふらついている。


「すみません…お怪我は…大丈夫そうですね。じゃ、申し訳ないけどわたし…急いでるので!」


こんなやつに構ってる暇はない、マッチ箱…はもういいから10000エンだけ拾ってはやく逃げないと!


「お前が探してんの、これか?」


見上げると、酒くさい男が10000エン札をつまんで持っていた。


「あ、そうです…!返してください。」


「……いやだね」


酒くさい男はクシャッと10000エン札を握りしめ乱暴にズボンに突っ込む。


わたしの、10000エン…


「おれには事情があってなぁ…ウィック…これぁ貰っとくよ。メスガキw」


「…………………は?????」


お金が…奪われた??しかも10000エンも…

わたしの、10000エン。今日を生きるためのお金。生きて、いつか、いつかあそこに行くための…


「返してよ…おじさん」


「いやぁーーーーーーなこった。こいつでおれぁ、また…あそこに………」


「大きい声で叫ぶよ。あんたに襲われるって…助けてって……」


「こんな時間にか?もう夜中の3時だぜ?お前以外のガキはみんな寝てる時間だし、それに…大人もよ。てめぇみたいな貧相なガキ。誰も相手にしねぇよ!」


「……………」


…? 大人しくなったな、この金髪のガキ。諦めたのか?


それにしてもラッキーだ。こんな所で金が入るなんて…ちと少ないが、これでもう1回。もう1回【ゲーム】ができる…!!

この俺を負かした奴に、今度こそ一泡吹かせて…!!


「…わたしの見たてによれば」


「あ?」



「おじさん…カジノで負けて、お金というお金を全部搾り取られて負けたんでしょ♡? 」


「はぁぁ? おま、何を根拠に…!!」


「おじさん、そのスーツとっても高いやつだよね…でも、そんなのを何着も持ってるお金持ちには見えない…腕時計とかすごい安っぽいし♡ 」


「ファーブラ・カジノは国の重要なばしょ、同時に神聖な場所でもある。ドレスコードって言うんだっけ?高い服、みんな1着は持ってるんだよね…そのための一張羅でしょ?」


当たってる。ドンピシャだ…こいつはカジノで戦うために、カジノに借金して買ったブランド物のスーツ…

それに…なんなんだこのガキ、さっきと雰囲気が全然違う。なんだその眼は…俺の全てを見透かして、見下しているような…


「だからって!!負けて全財産スったかどうかなんて分かんねぇだろうが…!!」


「わかるよw おじさんのことなんて全部…わかる。」


「スーツの装飾は綺麗なのに小汚なくて、シワもいっぱい…♡ なんなら雪に混じって泥だってついてるじゃんw 大方カジノの警備員に無理やりつまみだされて抵抗したんでしょ? それに………」


「あぁ…?それに……?」


俺の背丈の半分も無くて、簡単に押し倒しせそうなガキ。貧相で、きっと金もなくて、俺より 格下 のはずのメスガキが…



「いかにもおじさん、ざこ♡そうじゃんw 」



「なんでそんな、おれを見下した眼ぇするんだよ!!」


…気づいたら走って殴りかかってた。

こいつの眼が…俺の全てを奪ったあいつに似ていたから。あの、悪魔みたいな眼をしたやつに…

このまま全部言わせてたらまた全てを失いそうな気がして、無我夢中で殴りかかった。


それでも、このガキは眉ひとつ動かさず…


「おじさん、【ゲーム】で決着つけようよ。」


「はぁ??………?【ゲーム】……??」


「その10000エンをかけて、わたしとギャンブルをするの、おじさんがよわよわなざこじゃないなら…わたしになんて簡単に勝てるよね??」


──負けるわけが無い、もう2度と俺は負けない。ましてやこんな。俺の半分も生きてないようなガキに…俺は負ける訳には………


「…【ゲーム】やってやろうじゃねぇか、けどよ…10000エンなんてぬるい!!お前が負けたら…覚悟しろよクソガキィ…!!」


「おじさん、必死すぎww…まぁ、精々──」


第1話 がんばれ♡ がんばれ♡







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