二千XX年九月一日

「乾杯!」

同窓会とやらはこんなにも騒がしいものなのか。

「山川さん、最初から二杯飲むの? 強そうだね、お酒。」

山川、本当に俺のためならなんでもするんだな。

「山川さんの隣が空席なのって、お酒を置くためだったんですね。それにしても、珍しいです。麦酒にストローを使うとは。」

それは俺も同意だ、加田。

「でも知ってた? ストローって麦酒がきっかけで誕生したんだよ!」

関心の声が響く。

「……はあ。」

更生して、みんなに認められたんだよな。加田。俺もあんなことしようとしたけど、加田と喋りたいよ。

というか、命日の日から自分が生きている日にタイムスリップしなくなったな。

心に穴が空いたような心地だ。

「この場に矢野さんがいるなら、麦酒を少しだけ飲んでください。」

小声で指示され、俺は麦酒を口にした。

「わかりました。いるんですね。」

どうやら、俺は皆からは見えない。そして、俺の声は皆に届かない。

「幽霊ってことだから、まあ当然か。」

そのかわりと言ってはなんだが、人以外は触ることができるらしい。

でも、ジョッキから一工夫せずに飲もうとすると。

少なくとも同窓会は進められないだろう。

俺が見えない皆からしたら、ジョッキが浮くという心霊現象だ。

でも、心霊現象なのは事実か。

「というか。さっき、浮いてる紙切れみたいなのを見つけたんだけど。俺だけか?」

危ない、露呈しかけていたのか。

俺は紙切れに視線を落とす。

「『最近、お前のことが恋愛的に好きになった。』よし、ちゃんと書かれてるな。」

このタイミングと俺自身の状況。好意の告白はおかしいだろうか。

でも。

何年間も。俺の姿が分からなくなっても。俺のそばにいてくれた。

そんな姿勢を見て、好きにならないわけないぐらいには女性に慣れてない。

山川の手に紙切れの角で弱々しい刺激を与える。

「矢野くん? なに? 紙切れもらえばいいの?」

山川は紙切れを手に取った。

「内容はなんだろうな。……え。」

紙をじっと見て、黙ってる。

やっぱり迷惑だったか。

「これからは恋人ってことでいいなら、麦酒を飲み干して。」

彼女の指示のせいで、喉も顔もすごく熱い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優秀な知らせ 嗚呼烏 @aakarasu9339

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説