海に入る

空き缶文学

恋に落ちた瞬間

 海が見える。

 素敵な音と、ちょっとプランクトンの香り。

 波が素足に纏う。


 なんだか呼ばれている気がした。

 先は真っ暗、濃くて、きっと気持ちいいんじゃない。

 リアルで考えたら苦しいかな。

 息ができなくて、腐って、崩れる。

 

 それでも、この海がどうしても魅力的に思えた。

 白い砂浜じゃないし、海が透明なわけでもないのに。

 波が膝まで纏う。


 ゆっくり浸かる。

 

 腰まで纏うと、なんだか気持ち良くなってきた。

 お腹の下が熱い。

 一つになったみたい。

 

 あともう少し、あともう少し。

 激しく跳ねる海水を踏み蹴る音が聴こえてきた。

 腕を強く握りしめられ、僕は振り返る。


 焦った表情の女の子がいた。

 ポニーテールの女の子。

 制服が肌に張りつくのも気にせず、僕の腕を力いっぱい握る。

 痛い、痛いのに、笑っちゃう。


「君何やってんの!? 溺れちゃうんだよ! 苦しいんだよ!?」

 

 頬が熱くなる――。

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