劣等生 だが完璧主義者

シエル

劣等生 だが完璧主義者

「劣等生! 劣等生!」

「今回もこのクラスで裕太君だけが赤点でしたァ!」

俺の周りでうっとおしい蝿共が騒いでいる、そんなにも俺の赤点を祝福したいのか

「裕太君〜 今どんな気持ちですかぁ〜」

「今回の補習も頑張ってくださいねぇ〜」

どうやら彼らは俺を煽っているらしい、まぁ 好きにしさせといてやるか

「なんか言い返して見ろよ〜」

そう言いながら俺の机を揺らす、さすがに何か言い返しておくか

「俺はな 日々この国を守るために頭を使ってるんだ こんなテストに興味は無い」

周りの学生達が笑い出す

「あっはっはっはっ!」

「何言ってんだお前!」

「意味わかんねぇ! この年で厨二病は痛ぇなぁ!」

笑いのボルテージは上がっていき、彼らは腹を抱えて笑い出す。

すると急にクラスの扉が開く

「お前らうるさいぞ 席に着け」

そう言われると全員が黙って席に着く

「春日井裕太」

「はい」

返事をしながら俺は立ち上がる

「授業が終わったら職員室に来い 補習の説明をする」

「はっ」

俺は敬礼をする、寸分の狂いもなく、手、足を揃える、完璧に


「なるほど それで君が兵士候補生の手伝いって訳か」

「災難だったな いや 赤点取ったのは自業自得か」

候補生達の間で笑いが起こる

「いえ 候補生達の皆さんの手伝いができて光栄です」

「強がるなよ 学生君」

俺が受けさせられている補習はこの国の兵士候補生の試験の手伝いだ

基本的には彼等の荷物運びや作業の手伝いをする、彼等の試験内容は5人1組で探検隊を組み、1週間以内に試験用の森の最奥にある、過去の遺産を持ち帰ること。

今回俺が手伝う事になった探検隊は、相澤修斗、胡桃沙也加、新田響、中川修平、そして俺だ、4人しかいなかったため、頭数として俺がお手伝いに来たわけだ

「で君 どこの学科の生徒だ」

「魔法工学科です」

「お前 嘘だろ あの学科で赤点!?」

魔法工学科、この学校に存在する様々な学科の中で最も楽と言われる学科の1つだ

銃、電球、通信機器などを魔法で作り、誰もが運用できるようにする方法を教わる学科だ、だがしかしこういったものの作り方は実は一般にも広く知られており、授業として教える必要がないとも言われている、つまりは一般人でも出来るほど簡単って訳だ

「ちょっと皆笑わないの!」

「こんなの笑わない人の方がおかしいですよ」

「悪いな 修平と響はこういう奴なんだ」

「いえ 笑われるのには慣れてるので」

そんな話をしながら探検隊は森の奥へと進んでいく


探検隊は森の中でも開けた場所に出た、腕の時計を見ると既に11時30分を回っていた

「よし 今日はもう遅い ここをベースキャンプとして 明日は各々手がかりを探してみよう」

そう言いながらリーダーの相澤さんが各人員に作業を指示する

相澤さん自身は中心の焚き火に火をつける作業、胡桃さんは料理、新田さんと中川さんはテントの設営だ、しっかりとそれぞれ各々ができることを理解して指示できている良いリーダーだ

「それで 君は……」

リーダーは悩んでいたようだ、俺にも出来る事を必死に絞り出す

「農業はできるか」

「農業…… ですか」

「あぁ 胡桃は俺たちに野菜を食べさせたいらしくてな ここで育てれば1日位で収穫できるようになっているらしい」

「わかりました やります」

「助かる 正直俺は野菜が嫌いだから なるべく美味しく育つように頼む」

リーダーから小声で言われる

美味しく育つ様にと言われても美味しくない野菜を美味しくするのは難しいな、と思いながらも俺は作業を始めた、確か鍬は……


「なぁ 劣等生って大変なのか?」

「まぁ それなりには」

「いや 大変だろ 周りから馬鹿にされるの俺だったら辛くて学校辞めてるね」

一同は食事を終えて、焚き火の前で雑談の時間に入った、胡桃さんが作った料理は素晴らしい、シンプルな食材なのに調味料との良さがあって美味しかった

「何か一つでも周りに勝てるものとかないの?」

そんな胡桃さんが俺に聞いてきた

「そうですね 自慢では無いですが オンラインゲームの将棋ではランキング1位です」

「すごいじゃないか」

「へっ どうせ嘘だ 100位以内はあっても1位はこいつには無理だろ はい解散解散」

そう言いながら中川さんがテントに入っていく

「たとえ君のそれが本当だったとしても 自慢では無いと言いながら自慢するのは良くない」

新田さんも中川さんと同じようにテントに入っていく、別にこの場に持ち込めてたらスマホにあるランキングを見せて証明できるのだが

「2人はそういった性格を治せとあれだけ言ったんだけどな……」

「いえ 大丈夫です」

「ごめんなさい! 私も寝るね! おやすみ!」

「おやすみなさい」

胡桃さんがテントに入り、最後にリーダーと2人で残った

「初日から本当に悪いな いつかあいつらにはもっと厳しく言っておく」

「あのまま兵士になるのは確かに危険ですね」

「あぁ じゃあ俺も寝る あまりあいつらのことは考えすぎずにな おやすみ」

「はい おやすみなさい」

そう言いながら、リーダーもテントに入っていく、1人残った星を見ながら俺は考えた

「彼等 良い兵士になるといいな」


農業を始めた俺の朝は早い、皆がテントから出る前に目を覚まし、畑の様子を見る、植えたのはミニトマト、枝豆、ナス、ピーマンの4種類、それぞれ全て少し茎を出しており、順調だった、どうやら

「ミニトマトとナスには支柱を立てるのか」

そう言いながら俺は野菜栽培用の物資箱の中から緑の棒を2本用意し、茎に沿うように設置する

「全体的に土が乾いてるな」

水の湧き出る如雨露を使い、水をやる、魔法工学の賜物をしみじみと感じながらナスには重点的に水をやり肥料をまく

「これでよしと」

そして俺はテントに戻った


「うわぁぁぁぁ!」

「何!?」

「中川さんの声ですね」

2日目は男達3人が、遺産の手がかりを探すため、それぞれ別方向に進んで行った

ベースキャンプで作業中の2人は中川の方へ向かう

するとその場には足に木が刺さった中川の姿があった、木の棒は細く鋭い、貫通しており血が伝っていた

「痛え! 痛いのは慣れてるはずなんだが……」

「胡桃さんはリーダーを呼んできてください 急いで!」

「う うん!」

俺は彼女に指示を出し、俺は麻酔を取りに行こうとする、すると彼は棒を自力で抜こうとする

「ダメです!」

「あ?」

「その出血量です おそらく大事な血管を傷つけている 無理に抜くのは危険です」

「お おう……」

「今から麻酔を取ってくるので安静にしててください」

そう言いながら俺はベースキャンプから麻酔入りの応急キットを持ってくる、幸い彼が怪我をした地点はキャンプから近かった

「最初の2 3本は痛いでしょう でもすぐに痛みが消えて 寝れるようになります」

「おい それ刺すのか?」

俺の持っている太い針の注射器を見て、彼が怯えながら言う

「当然でしょう 麻酔なんですから」

俺がそう言うと、彼は子供のように喚き出す

「嫌だ! 俺昔から注射が嫌いなんだよ! 予防接種とか なぁ お前も嫌いだろ?」

「いえ 俺は気にならない人間です」

「なぁんでだよぉ!」

「いきますよ!」

そう言いながら俺は麻酔を刺した、的確に患部の近くに麻酔が入っていく

「だぁぁぁぁぁ! 痛え!」

「あと2本耐えてください」

「あぁぁぁぁぁぁ!」

彼の悲鳴が森の中にこだました


「いったいどういう状況だ? これは」

眠った中川さんを見てリーダーが質問してくる

「見ての通りです 足に枝が刺さったらしくて…… 一応麻酔は打っておきました」

「そうか 助かる」

「この中で手術ができるのは?」

「俺だけだ」

「そうですか なら俺も手伝います」

「できるのか?」

「ええ そのために来たので」

そして男2人で中川さんを運び、ベースキャンプで手術を始める

医療用キットの中身をある程度出し、執刀医であるリーダーのからの指示に答える

「メス」

「はい」

足メスを入れて開いていく、血管を傷つけないように開いていく、木の枝と足の肉は既に少しづつ癒着が進んでいた

「こりゃ大変だな」

「大丈夫です やれます」

「ありがとう」

そう言いながらリーダーはメスを進めていく、足の肉と枝が離れる、そして枝は抜けた

「汗を頼む」

「はい」

「糸を」

「はい」

そう言って縫合用の糸を渡す、彼の手さばきは素晴らしく、みるみるうちに血管が縫合されていく、しかし……

「そこの血管 縫合が甘いです」

「そうか? これで大丈夫だと思うが」

「いえ そこの血管は他より血圧がかかりやすいです 出血するリスクがある」

「そうか 2重に縫合すればいいか?」

「はい 大丈夫です」

彼は医師では無い、手術の仕方はわかっていても、人体に対する知識が少ない、彼のために俺は少し指示を出していった。

そして皮膚の縫合が終わる

「よし 終わった……」

「良かったです」

「最後の方 色々と教えてくれて助かった

なんで君はこんなに詳しいんだ?」

「父が医者なもんで 幼少期に人体について教わりました」

「そうか なんにしてもありがとうな」

「いえいえ 俺はできることをやったまでです」

2人でハイタッチをする、2人はそのままその場で寝転んだ


「今日は…… ありがとな……」

そういったのは中川さんだった、麻酔が覚めた時にはちょうど夜飯の時間だったため、夕飯を食べながら彼は感謝の言葉を口にしてきた

「聞いたぞ 麻酔を打ったうえに 手術の助手までやったんだって? すごいじゃないか」

「いえ それほどでも」

「凄いですよ! 将来は医者になればいいんじゃないですか?」

「言い過ぎです それに俺には夢があるので」

そうして皆で夜ご飯を食べて、調査して、寝る、そういった生活が5日目まで続いた


6日目の朝、いつものように畑に行くと先客がいた

「すごいな もう実がなってる」

先にいたのはリーダーだった

「おはようございます 頼まれてた野菜 順調に育ってますよ」

「あぁ 少し美味しそうだ」

「リーダーはなぜこの時間に?」

「調査の続きだ おそらく明日には遺産の場所までたどり着ける」

「そうですか!」

「あぁ 俺達の頑張りと君がいてのことだ」

「俺は何もしてませんよ」

「いや ここ数日君には助けられてばかりだ 正直手伝いの範疇を超えているよ」

「ありがとうございます」

「試験が終わっても 一緒に話が出来たらいいな そろそろ行ってくる」

「はい 行ってらっしゃい」

そう言って彼は森の中へ進んで行った。

俺はすぐに実の様子を見る

「ミニトマト 枝豆 ナスは成功 ピーマンは穴が空いてるな」

おそらく虫に食われたのだろう、やっぱり農業は難しい、気がついた時にはもう遅かった。

完璧にやりたかったが仕方ない 美味しい野菜だけは育ったと考えよう

そう言って俺は丁寧に収穫を始める


6日目の夜食の時間

「この枝豆美味いな!」

「ナス入りのカレーも美味しいです」

「でしょ! 裕太君が育ててくれたのよ!」

「指示を出したのは俺だがな」

そう言いながらリーダーは目の前のミニトマトに手が出せない様子だった

「食べないんですか?」

「本当に美味しいのか?」

「ミニトマトです 甘くて美味しいですよ」

「そうか……」

そう言いながら恐る恐るリーダーが手を伸ばし、目を瞑りながら食べる

「甘くて美味しい…… 嘘みたいだ……」

「やったぁ! リーダーが食べてくれた!」

「良かったです 育てたかいがありました」

6人で過ごす最後の夜は皆が笑顔だった、そして皆で満天の星空を見ながら眠った


「ここだな」

「大きな扉ですね」

「本当に空くのか?」

「これを使えば空く」

そういいながらリーダーは扉の鍵を取り出す、それを穴にはめ込むと、轟音を立てながら扉が開いた

「中に何かいますね 最後の門番と言った所でしょうか」

「ええ おそらく」

中にいたのは巨大なゴーレムだった、中心が赤く光っており、動き出す

「俺は戦闘に参加できません 後ろの方から見ています」

「しっかり応援しててくれよ」

ゴーレムがこちらを見る、目が赤く発光する

「皆戦闘開始だ 行くぞ!」

「「「「了解!」」」」

「皆さんご武運を」

4人が中に入っていき、戦闘が始まる


戦闘は苛烈を極めていた

「うぉらぁ!」

中川が斧でゴーレムの腕を切断し、それを新田がスナイパーライフルで吹き飛ばす、見事なコンビプレイ、だが……

「結局意味ないんですよねこれ……」

ゴーレムの腕は壁の格納庫から新しく供給され、新しい腕として繋がれる、そのような事をもう既に全部位で試したのだが、全く意味がなかった

「こんなん無理ゲーだろ!」

「危ない!」

そう言いながらリーダーが前へでる、自慢の盾を突き出し、ゴーレムのパンチを受ける

「落ち着け 修平」

「悪ぃ リーダー」

「次 来ます!」

胡桃がそう叫ぶと、皆で後ろに下がる、下がってきたところに胡桃が、癒しの祝福をかける

「皆 大丈夫!?」

「問題ない まだ戦える……」


まだ戦えても意味が無い、このままだとジリ貧でいずれ全滅する、彼等のためにも何か倒す手がかりを探さなければ……

そうして俺は上を見る、そこには謎の光があった

「なんだあれ」

その光がたどる先を見ると、壁の格納庫につながっている、ひと目でわかる、これがエネルギー源だ

「新田さん!」

「何だ!」

「上にあるエネルギー源を壊してください!」

「……あれか! 気が付かなかった 」

「でかしたぞ! 裕太!」

皆が戦っているゴーレムに目を奪われて気がつく事のできないエネルギー源、それを新田が撃ち抜く、エネルギー源を貫き、補給庫から光が失われていく、あとはゴーレム本体だけだ。

俺は彼等の目になる、そして頭脳になる

「ついでに皆さん! 陣形を変えましょう!」

「了解だ!」

「ゴーレムの前にリーダー! 真後ろに新田さんと胡桃さん! ゴーレムの死角になるように中川さん! お願いします!」

皆はそれぞれ指示を聞きながら動く、こうすることで、リーダーは厳しくなるが、他への負担が減る。

そこから彼らは先程のように足、腕を切断していき、それを新田が破壊していく、ゴーレムのコア部分だけが残る

「終わりだ!」

「貫け!」

「いっけー!」

「これで 最後だ!」

全員が一斉にコアを破壊する、コアは砕け散り、奥の扉が開いた

「やったぞ 後は奥の遺産を手に入れるだけだ……」

「疲れたぁ」

「本当です」

「また君に助けられたな」

「いえ 皆さんで掴んだ勝利です」

そう言いながら一時的に休憩を入れ、最深部へと向かった

「すげぇ……」

「綺麗ね……」

最近部中には、中心部に台座があり、周りには滝が流れている、台座の上にある石版が遺産のようだった

「よし これを持ち帰って合格だ」

リーダーはそう言うと、リュックの中に石版を入れる

そうして、5人は学校へと戻っていった


「ここで君ともお別れだな」

「本当にありがとうございました」

学校の前へ着くと、皆が俺の方を向いている

「出来ればもう少し君と話をしてみたかったんだがな」

「野菜美味しかったよ! また育てたらちょうだい! 私が料理するから!」

「最後の戦闘の君のアドバイスがなかったら私たちは負けていたかもしれない 本当にありがとう」

「お前には結局色々と助けられちまったな ありがとう そして最初の方は悪かった すまん!」

「皆さん……」

たった1週間の出来事だったが、ここまで感謝されるとは思わなかった、俺は少し嬉しかった

「これから先 色々なことがあると思うが 頑張ってくれ 俺達は応援してるぞ」

「ありがとうございます 皆さんも立派な兵士になってください」

「「「おう!」」」「はい!」

皆でハイタッチをする、そして4人は学校の中へ入っていった

「さて 俺も帰るか」

そうして俺も帰るべき場所へ帰っていく



司令室の扉が開く

「すまない 遅くなった」

「ええ 1週間も不在とはどういうことですか」

俺は中央後方部の椅子に座る。

ここは国家戦争司令室、数々の人々がパソコンの前で指示を出している。

俺の真の正体は劣等生などではなく、ここの総司令官である、つまりはさっきの5人の上司になるかもしれない男だ

「で この一週間は何処に?」

隣の副司令官兼秘書の如月愛華が声を大きくして言ってくる

「補習で新戦士候補と一緒に試験を受けていました……」

「はぁ…… 別にあなたならテストで100点を取ることなど余裕でしょうに」

「これも立派な劣等生を演じるためさ 俺の素性がバレないようにかつ クラスである意味目立つ」

「意味がわかりません」

そういった会話をしていると、警報が鳴り響く、部屋中が赤くなる

「司令! 他国からの進軍です その兵数、役30万ほど!」

「愛華 今の我々の兵数は?」

「だいたい20万ほどです」

「人数では不利か……」

だが面白い、戦争は将棋のように、こちらの手持ちと盤上の駒が少なかろうと、勝利のために1歩1歩進めていくだけだ

「今回も勝ちに行きますか?」

「あぁ だがこちらの損害は最小限に抑えたいな……」

俺は戦争には必ず勝つ、だがただ勝つだけでは無い、自分の中にはおらないと決めた信念がある

「完璧に勝つ 」

俺は劣等生

だが完璧主義者だ
























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