第5話 雨上がりの虹がかかる
「蒼葉」
「え……?」
何か言い残したことでもあったのかな。
不思議に思って、隣に立つ碧君を見る。
っ⁉
振り向いたそこにあるのは、真面目な目で。
どうかしたの、と呟く暇もなくいきなり抱きしめられた。
そう、抱きしめられた。
ふっと、世界から音が消える。
「蒼葉、好きだ」
っ!?
風が静かに私の髪を揺らして、そして去っていく。
夕日で照らされる幼馴染の顔が、少しだけ赤く染まっているように見えて。
意味を、理解した。
「蒼葉がまだそいつのことを忘れられないのは分かってる。……でも、それでも」
頭に、奏君の顔が浮かんだ。
確かに好きだったという想いは変わらない。
切なくて、悲しくて、苦しくて。
それでもあのドキドキは特別だったから。
彼の目がじっと、私の目を貫いた。
「好きだから。ずっと好きだから」
ぶわあっと、何か熱いものがこみあげてきた。
ガラス玉のようにきれいに輝く双眼が、いつもとは違う優しさを含んでいる。
「今は、答えなくていいから」
そう言われて、また世界に音が戻ってくる。
照れ隠しなのか、すぐに帰ろうとする碧君。
その手をつかみたかったけど、今の私にはできなくて。
どんどんと、姿が小さくなっていく。
帰り道に飲んだいちごミルクの味は、とろけるようにすっごく甘くて……それでいて、ちょっぴりとすっぱかった。
もう、私の中の答えは決まっていた。
乗り換えの速い女って思われるかもしれないけど。
自分の気持ちに、嘘をつきたくない。後悔したくないから。
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