第4話 雨上がりの夏が来る〈碧人side〉

 幼馴染の様子がおかしいと気が付いたのは、6月の後半だった。


 その原因が気になり、なんとなくを装って一緒に帰ることにした。


 そして下校中に聞いてみると、やっぱり帰ってきたのはか細い返事で。


「なんかお前、元気なくね? なんかあったのかよ」

「……うん」


 いっつも明るいやつなのに、これは絶対なんかあった。


「んだよ、らしくねえな」

「……うん……ちょっとね」

「ちょっと寄り道するぞ」


 少し話を聞いてやろうと思い、小さい頃一緒に遊んだ公園に向かった。

 この公園は昔からよく行ってたから、結構思い出の公園だ。蒼葉も話しやすいだろう。


 とりあえず座らせて、自販機で蒼葉の好きなやつを買う。

 決まっていつも、『いちごミルク』だった。


 ――『蒼葉、何にすんの』

 ――『んー、いちごミルクがいい』

 ――『甘そうなやつだな。ま、いっか、蒼葉が好きなら』


 この公園に来て買うものはだいたいいちごミルク。いつも変わらなかった。


 いちごの模様が入ったペットボトル。

 俺は決まってブドウの炭酸。


 慣れた手つきでそれを取って、待っている蒼葉のそばへ向かう。


 そこにいたのは、顔を手で覆って泣ている蒼葉だった。


「は、お前、泣いて……⁉」


 ただ事じゃないと、俺も隣に座って、背中に腕をまわす。

 ゆっくり、ゆっくり、小さい子供をあやすようになでる。


「……何があったのかは知らないけどさ」


 自分でも気が付かなかった。


「泣けよ。泣いていいよ」


 気が付けば、抱きしめていたことに。


 ――――――


「……帰るぞ」

「……うん。ごめんね」

「あ、あと、これ」


 抱きしめたこともあり、まだ恥ずかしさが消えなかった。

 それをごまかすため、まだ元気がない蒼葉に、いちごミルクを渡す。


「ありがとう」と小さく微笑む蒼葉に思い切って聞いてみる。


「なにがあったんだ?」


 そう聞くと、蒼葉が静かにふ、と息を吐いた。

 ゆっくりと歩みを進めながら、うつ向いて話しだす。

 

「あのね、失恋したの」


「……は……?」


 まてまてまて。


 落ち着け、蒼葉に好きなやつがいたのか?

 幼馴染だったのに、それを知らなかったことが地味に刺さる。


「初恋だったの。でも……失恋した」

「そう、だったのか……」


 何も知らなかった自分が情けない。


「ごめん、あのね、気にしないで。今日はありがとう……。あの、このいちごミルクも」

「あ、ああ……」


 じゃあね、と手を振る蒼葉が、なぜか急に遠くに見えた。


 ずっと明るくて、元気で笑っていたあの蒼葉が。

 今は、何かをあきらめたように悲しんでいる。


 それを見たら。


 おもわず、言葉が溢れた。


「蒼葉」


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