第3話 雨上がりの夏が来る

 あの失恋から、2週間が経った。

 季節も完全に夏に移り変わり、7月に突入だ。


 奏君の恋の行方はというと、陸上の大会で告白したらしい。

 見事オッケーをもらったそう。


 付き合ってるその相手は私と同じクラスの女子。

 私なんかよりずっとかわいくて、気品のある子だ。


 グサリ、と何かが刺さったまま、ぼんやりとした日々を送っている。



「なんかお前、元気なくね? なんかあったのかよ」

「……うん」


 隣で一緒に歩いているのは、幼馴染のたちばな 碧人あおと。あだ名はあお君。

 幼馴染の私が言うのもなんだけど、結構イケメンだ。


「んだよ、らしくねえな」

「……うん……ちょっとね」

「ちょっと寄り道するぞ」


 そう言って連れていかれたのは、子供のころから二人で遊んでいた公園だ。

 ベンチにどさりと座り、どこかに行ってしまった碧君を見送ってぼんやりする。


 好き、だったなあ……。


 少なくとも、あんなにドキドキしたのはあれが初めてで。


 ポロリ、と意図せずに涙があふれた。


「は、お前、泣いて……⁉」


 何かを手に持って帰ってきた碧君が、私が泣いていることに気づき慌てている。


「……何があったのかは知らないけどさ」


 ふわり、と彼の服が目の前に映った。


「泣けよ。泣いていいよ」


 いつもぶっきらぼうな彼の優しい声に、目頭が熱くなる。鼻がつんとした。

 もうダメだった。

 クラスでは笑顔でいたけれど、もう我慢できなくて。

 

 ゆっくり背中をなでられて、いつもよりもずっと優しい声で「泣いていいよ」なんて言われたら、涙を止めることなんてできなくて。

 苦しかった。

 ただただ苦しかった。


 

――好きにならなければよかった。


 

 確かにそう思った。だけど、それを考えると切なくて。


 分からない。でも苦しい。


 何か糸が切れたみたいに、うわああっと子供みたいに大きな声で泣きじゃくる。


 

 泣きやむその時まで彼は静かに抱きしめてくれた。



 ――そしてもうすぐ、雨上がりの夏が来る。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る