2-6 人気者
容疑者を
深くは知らないが、
しばしの悩みに、気付いているだろう
「もし、運ばれた女……魚のあやかし【
「……いいんですか」
「そりゃ構わねぇさ。止める権利もないが。ただし、そのときは
二人を、会わせてはいけないのか。
何か知っている
「倒れていた女性とはお知り合いですか?」
「この町で知らない名前はないさ」
すごい言い切った。
小さな町とはいえ、住民は数え切れないほどいる。
それを。全員、覚えて、いる?
(記憶力お化けか?)
あやかしと人間の記憶力は違うのか。いや、いや。それでも、そんな。
頭が理解を拒絶している。
「全部覚えてるぞ」
「ひぇ」
まさか心を読むのが可能ですか、と見つめれば機嫌良さそうに喉を鳴らす。
「顔に全部、書いてあんぞ」
「うそ」
「ほんと」
くしゃりと頭を
瞬く間に店用の、
切り替えの早さ、見習わなければ。
「もし会いに行くなら、これを渡しといてくれ」
「これは、ああ、風呂敷の」
受け取ると案外重く、ずしりとしている。何か柔らかく、土の匂いがした。
質感を確かめていると、
「さぁて、そろそろ行くかね」
「どこかお出かけですか」
「お前も行くんだよ。――市、行きたいだろう?」
ちょんと細く長い指が、
どうやら考えが読まれているらしいので、
一人でも構わないが、と伝えてみたが「ちょいと不穏だから、今日ぐらいは大人しくしてくれや」とやんわり断られる。
その言い方だと普段、
「まぁ市のあとは、
「何かありましたか」
「んー……気になること、がな」
すん、と何かを嗅ぐように鼻を鳴らして、ゆらりと水の中を泳ぐ金魚のように、優雅に前を歩き始める彼の背中を追いかける。
空を見上げればまだ太陽は
市から帰ってすぐに作業すれば、夕暮れまでには
「ほら、傘の中に入りな」
「日傘とかするんですね」
「印象は大切だからな」
見た目は妖艶な女性のような男だ。
肌も太陽など知らぬ、冬の雪のような色をしている。
男性でも日傘をさすだろう。
だが、
隠しているが豪快なのだ、色々と。
繊細な見目とは真反対で、対人ではおそろしいほど丁寧でも、己のことになると、途端に
食事を一日忘れていたりするのを見かけて不安になる。
「こんにちはぁ、
「はいはい、こんにちは。今日も元気だなぁ、転ばないよう気をつけな」
子供たちに愛想よく返した声、変わらぬ光景だ。彼が一度外出すると皆が声掛けをする。
しゃらんと耳元の、赤と
「こんにちはー! ことーさま!」
「おう、こんにちは。前見て走りな、こけたりぶつかったりするなよ」
「
「はは、ありがとな。そういうアンタも一段と
「あらでも、今月はちょっと余裕がねぇ」
「おいおい、めでたいときに、
「
「お前は嫁さんに
彼が歩くだけで花街は活気づく。
休みなく見回りする
豪快かつ気前の良さが人を集めるらしく慕われている。
(休んでる姿を、見たことないのが気がかりだけど)
「おーっ
「ありえません」
「おい」
とんでもなく恐れ多い勘違いに即答で否定すれば、隣から小突かれる。
しかしここで誤解など生まれれば、
きっちり否定しておかなければ。きりっと真面目な顔を作ってみせる。が、ただの無表情だったらしく、
「
「人の従業員に手を出すなー、しょっぴくぞ」
「職権乱用っていうやつじゃないですかい?」
「いいんだよ」
住人の対話を市まで続けて、目的の店に辿り着く。
注文すれば、
「
と、オネエさま店員にほぼ無料で、譲り受けた。
ちなみに今回は筋肉がたっぷりの
狐の花言葉 〜あやかし店主さまと、縁結びの花〜 鶴森はり @sakuramori_mako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。狐の花言葉 〜あやかし店主さまと、縁結びの花〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます