第一章

 彼は、私が参加していたグループの仲間の一人だ。そのグループとは、異次元の存在「霊人」にチャネリングして、受信したメッセージを発信する活動を行うグループだ。チャネラーは女性で、チャネリングの際にメンバーもその場に立ち会って収録していた。

 過去、ある新興宗教団体に入信して酷い目にあった私は、そのような団体には一切関わらないことにしていたが、ネットでそのグループの存在を知り、ホームぺージに掲載されているいくつかのメッセージを読んだところ、いずれも共感できる内容であり、胡散臭さは一切見られなかった。そればかりか、どこか心の中に温かいものが流れてくるような感覚があり、これは本物だと確信したのだ。

 早速問い合わせたところ、なんと、面会してくれるということだった。

 数日後、待ち合わせ場所のアパートの一室に行くと、感じのよい女性が笑顔で迎えてくれた。その人がそのチャネラーだった。メンバーの年齢は様々だったが、初対面であるのに、不思議と親しみやすい人たちだった。そして、ひとしきり雑談が終わると、チャネリングが始まった。


 チャネリングの感想は割愛するが、収録の後、チャネラーの女性は「おかしくなかったですか」と、参加者に確認していた。話の内容にダークなものがなかったか、確認するのだという。闇の世界、いわゆる地獄界にチャネリングすることも可能であるからだ。

 巷にあふれるスピリチュアルメッセージの中には、そうした闇の世界に接続しているものも数多くある。その霊人が、自分は〇〇である、と神や聖人の名を名乗ったとしても、鵜呑みにせず、見極めることが重要なのだ。

 チャネラーの女性のその謙虚な姿勢に感銘を受け、このグループへの参加を決めたのだった。

 

 収録したメッセージは書籍化して出版するのだが、そのためには、録音した音源を聞いて文字に起こす作業が必要となる。 常に人手不足だったので、幅広く協力者を募っていた。

 彼は、ちょうどその頃、協力したい、とコンタクトを取ってきた人の一人だった。

 そのメールは、このような内容だ。


「ミカエル様から、このような活動があることを聞いておりました。私はこの活動に加わるべき人間です。辿り着くのが遅くなって申し訳ありません」


 私達はミカエル大天使の霊言も収録していたが、彼が参加していた別のグループでも、ミカエル大天使と称する者のメッセージを収録していたらしい。そのグループはチャネラーが精神に異常をきたし、別のメンバーをチャネラーにして存続を図ったが、権力争いで内部分裂し、結局、解散したようだ。

 他の希望者は、自分のような者でも何かお役に立てれば幸いです、という謙虚さに溢れる内容だっただけに、上から目線の高圧的な彼の文面には危険なものを感じていた。

 チャネラーの女性にそのことを伝えたところ、

「その通りなんだけど、彼の守護霊様が、どうかやらせてやってほしい、と泣きながら頼んできたのよ」

とのことだった。

 こうして、彼は我々のグループの一員となった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

謙虚な人 青玄白朱 @seigenhakusyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ