第36話 愛と友情の葬送シークエンス②
肩で息をするサカキ。「一体、何が……」とエデルは聞くが、サカキはそれに答えず、古びた木製の扉へと顎をしゃくった。首をかしげながら、エデルは扉から中をそっと覗き込んだ。
振り返ったエデルの顔は、目が見開かれ、口が半開きになっていて、しばらく動けずにいた。やがて、エデルは震える声で言った。
「盗賊がいっぱい……! しかも、プルプルしている……!」
「やばいだろ? モンスターハウス。盗賊が震えているように見えるけど、あれは多分、同じ座標に大量の盗賊が配置されているからだろうな。そいつら全員が微妙に動いているからプルプルして見えるんだ。突っついたら、ぶわーってなるぞ」
「ひえぇっ!」
みな一様に無表情のコピペキャラであり、
「これを攻略するのは無理であろう!」
「情けない声を出すなよ、エデル。本当に攻略できないのか、ちゃんと考えていこうぜ?」
サカキは地面にドカッと座り、腕組みをした。エデルもサカキと対面する形で腰を下ろした。息を大きく吐き、エデルは言う。
「もし、これまでと同じように
「確かに、その通りだな。でも俺たちの中で、あのクソ強い盗賊に有効な特技や呪文はおそらく
うーんと、目を閉じて唸るサカキ。しばらくして目を開けた。
「
サカキは腕組みを解き、立ち上がった。扉の方へ向かっていくサカキをエデルが呼び止めた。
「サカキ殿! 何をするつもりだ!」
「何ってリハーサルだよ、リハーサル。エデルはちょっとだけ待っててくれ」
「また何度も死に続けるつもりか!」
「ははは。もうそんなことはしない。危なくなったらゲームリセットするだけだしな」
「サカキ殿!」
エデルの制止も聞かず、サカキは後ろ姿のまま、ひらひらと手を振って扉からモンスターハウスへと入っていった。
扉の前に残されたエデルは落ち着かない様子でうろつくばかりであった。時々ゲームリセットして戻ってくるサカキであったが、一言二言を交わすだけで、またモンスターハウスへと戻ってしまう。その繰り返しに、いつしかエデルは寝入ってしまっていた。
「起きろ、エデル」
「はっ! サカキ殿! 頑張られている時に申し訳なかった!」
「リハーサルは完了だ。次、行くぞ本番」
「本番!?」
ラウンド髭の偉丈夫であるエデルがうろたえる様子にサカキは思った。この世界の住人には痛みに対する制限がかかっていない。死の危険を真実の恐怖として感じてしまっている。それをなんとか和らげることはできないのかと。
そう強く願った時、サカキの瞳に
震えるエデルの手を握った。サカキの手から光がじわりと伝播し、エデルの全身を包む。険しい表情が緩み、徐々に落ち着きを取り戻していった。
「なんだろう、この安心感。体が満たされて――」
「敢然と立ち向かう力……。俺と同じように一定以上の痛みに制限がかかる。俺と一緒に戦うための力だ」
サカキがそう言った時、エデルがもう片方の手で、サカキの手を包み込むように握った。
「きっと……サカキ殿の仲間を思う気持ちが新たな力を芽生えさせたのだな。ありがとう、サカキ殿。その気持ちが……こんなに嬉しいことはない」
「よせやい。照れくさいだろうが」
◇
サカキとエデルは、再びモンスターハウスの前に立った。サカキの手には、エデルの手の温もりがまだ残っていた。
「行くぞ、エデル。俺たちならできる」
エデルは深呼吸をし、サカキに頷いた。二人は扉を開け、モンスターハウスの中へと足を踏み入れた。そこには、無数のプルプルする盗賊たちが待ち構えていた。盗賊たちの目は冷たく光り、まるで獲物を狙う猛獣のようだった。
「サカキ殿、どうする?」
「まずは俺が奴らを引きつける。その間にエデルは呪文の詠唱を始めてくれ」
サカキはそう言うと、盗賊たちの前に立ちはだかった。一人一人の体から分裂するように盗賊たちが突進を開始した。サカキの目には決意の光が宿っていた。
「誘導!」
この特技は自身へと向かってくる相手を幻惑させて、ずれた位置に自身がいるように見せかけることができる。手の動かし方によってずれる方向、量も調節できる。
サカキは右手を右回りに円を描くように動かした。
盗賊たちの突進ルートがサカキから向かって右方向にずれていく。
エデルはサカキの背中を見つめながら、呪文の詠唱を始めた。
「
エデルの手から黒い炎が放たれ、盗賊たちを包み込んだ。炎は一瞬で盗賊たちを焼き尽くした。
盗賊たちが燃えている場所へ《誘導》によって、また新たな盗賊たちがやって来て、炎に自ら飛び込んでいく。
盗賊たちがいなくなれば、サカキは新たな盗賊たちを釣り込み、エデルの近くに《誘導》し、
――規則正しく繰り返していく。
「完成だ! 名付けて! 俺とお前の! 愛と友情の葬送シークエンス!」
やがて、最後の盗賊が炎に包まれ、モンスターハウスに静寂が訪れた。二人はしばらくの間、息を整えながらその場に立ち尽くしていた。
「やったな、エデル……本当にやったぞ!」
サカキは笑顔でエデルに向かって手を差し出した。エデルも笑顔を浮かべ、その手をしっかりと握り返した。サカキはエデルの肩を叩き、喜びを分かち合った。
「しかし、サカキ殿」
「なんだ?」
「さっきの技の名前で『友情』はともかく『愛』というのは……」
「あー、えっと、それはだな……。勢いあまって言ってしまったというか、ちょっと悪ノリが過ぎた。スマン! ええっと……これから毎日、盗賊を焼こうぜ?」
「いや……毎日はいいかな」
エデルは顔に笑みを貼り付けながら、帽子の中の頭を掻いた。
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