第24話 ゼナ島の盗賊団

 ハチベエとマタベエから聞き取りした情報を要約する。村……というか村長とだが、レジスタンスとの関係はあまり良好ではないらしい。


 ハチベエとマタベエはレジスタンス関係者ということではなく、村長から風の囁き亭には出入りするなと言われているのであるが、ハメを外したい時にこっそり来ているとのことだった。ちなみに村長には絶対言わないでほしいと、サカキは釘を刺されている。


 風の囁き亭の店主であり、レジスタンスの幹部でもあるローガンは元来よそ者である。この世界の本流ではないゼナ島、さらに森の奥のミール村にふらりと現れ、酒場を開きたいと村長に言い、変わった人間だなと思われながらも特に断る理由もないため許可されたという。


 すると、どうだろう。移住希望者があれよあれよという間に増えていき、おかしいと思った時にはすでに遅かった。いつの間にか得体のしれない徒党がミール村にできていた。夜な夜な集会が開かれ、何かの活動をしていたと言う。表立っては言われないが、ローガンがレジスタンスという魔王と抗う組織の重要人物であることは半ば公然の秘密となっていた。


 ミール村に新しく来た者たちは元の住人と別にトラブルを起こすということもなく、むしろ村で真っ当な仕事を始めたり、金を落としたりで、良い影響を与える側面もあったため、村長は黙認することを決めた。


 しばらくはそのように共存共栄していたのだが、ある日転機が訪れた。それは村長の娘に関することだった。村長の娘がレジスタンスに入りたいと言い出したのだ。


 村長は反対した。近頃、幾人もの冒険者が行方不明になる事件、魔王が関与していると噂の事件を追い、レジスタンスが犠牲をいとわない過激な活動を始めていたからである。


 しかし村長の娘は、村長の説得もむなしく、レジスタンスの活動理念に感化され、レジスタンスへ加入することになった。


 ――そして行方不明になった。


 これが村長とレジスタンスが対立することになった顛末である。村長の怒りはやまず、なんとしてでも娘を見つけ出せ、そうでなければこの村から追い出すと、レジスタンスへの態度を硬化させているという。


(あのローガンがねぇ……)


 サカキはカウンターの奥で接客しているローガンを見た。少し目が合う。丸メガネでちょび髭スタイルの胡散臭い顔付きで、精一杯の笑みを浮かべてくれた。


 魔王によって常闇の悪鬼と化した夜の神ヨワルテポストリをなんとしてでも救い出したい。そう願う狂信者である彼なら、やりかねないだろうと思った。


「――村とレジスタンスの関係は大体分かった。それで、村長が俺を探しているというのはどういうことなんだ?」

「ここからが本題なんだ」

「そう。本題だ」

「お前ら、そのうっとおしい相槌はやめろよ」


 サカキの問いに、ハチベエとマタベエはいちいち二人で答えるため、会話のテンポが悪くて仕方がない。サカキは代表としてハチベエを指名し、マタベエは黙らせた。


「村長はレジスタンスを信用していない。場合によっては命令を無視して娘を見捨て、魔王への抵抗を優先すると思われているのだ」

「まあ、それもそうかもしれないな」

「そこで、海峡のシーサーペントを打ち倒す程の実力を持つ人物を心待ちにしていたのだ」


 海峡のシーサーペントは倒していないため、とても心苦しい。ハチベエはさらに続ける。


「改めてお願いするが、村長に協力してもらえないだろうか。報酬だって金に糸目をつけないと思う。なにせ大事な愛娘のことだから」

「うーん。金には正直困っていないんだが、一応話だけは聞いてやるよ」

「ありがとう。村長も喜んでくれるはずだ」


 ハチベエとマタベエは胸を撫で下ろした様子だった。サカキはハチベエに対して再び問う。


「それと、もう一つ聞きたいことがある。冒険者ギルドで半裸の男とモミアゲ男の二人組の冒険者に絡まれたんだが――」

「ああ、リュウジとチョウジかな。奴ら、血の気が多いから」

「それでそいつら、何かに困ってたりしないか?」


 髑髏のカンテラの使い道について知っている彼らから情報を手に入れるには、やはり彼らに取り入ってしまうことが一番であろう。


 念のため、髑髏のカンテラについてハチベエとマタベエに尋ねたが知らないらしい。門番としてミール村の情報通と考えられる彼らが知らないということは、リュウジとチョウジの独自情報の可能性が高い。


 ハチベエとマタベエは顎に手を当てて考える素振りをし始めた。これは空振りに終わってしまうか?


「あ」


 言葉を発したのはマタベエだった。


「奴らについて、困っているのとはちょっと違うが、心当たりがある」

「言ってみてくれ」

「奴ら、今は二人組なんだが、元は三人組だったんだよ。カンジって奴なんだが、少し前に亡くなったんだ。ゼナの遺跡で」

「ゼナの遺跡?」

「古代文明が栄えていたとされる遺跡だ。現代産とは一味違う武具や魔道具が落ちていて、どういう仕組みか分からんが、それが尽きることがないという。しかも時々、構造すら変わってしまう謎の遺跡なのだ。ていうかゼナ島を訪れる旅人は、大体がゼナの遺跡が目当てだと思うんだが?」


 説明しながらも、マタベエはサカキがゼナの遺跡を知らないことに違和感を感じたらしい。それほど知名度が高いということなのだろう。説明からすると、ゼナの遺跡はインスタンスダンジョンのようなものであろうか。


「まあ俺のことはどうでもいい。話を続けてくれ」

「う、うむ。リュウジ、カンジ、チョウジは三人でよくゼナの遺跡に潜っていたんだが、遺跡の近くを根城にしている盗賊団に目をつけられてしまっていたみたいでな。ある日、遺跡の中で襲われた。そこでカンジは命を落とした。命からがら逃げおおせたリュウジ、チョウジがほとぼりの冷めた頃に遺跡へ戻ると、身ぐるみを全て剥がされて素っ裸にされた遺体が遺跡の床に横たえられていたらしい」

「それはまた……壮絶だな」


 それ以上かける言葉を見つけられず、サカキは黙ってしまう。


「リュウジ、チョウジは恨んでると思う。カンジを殺した盗賊団のことを。でも手が出なかった。それぐらい強いんだ、そこの頭は。もし、あんたが盗賊団を壊滅させることができれば、奴らの協力を得られるだろう」

「おい、マタベエ! そんな危険なこと、旅人さんにすすめるなよ!」

「だって、ハチベエ! あいつら、あんなに一緒だったのに、やられっぱなしで悔しくない訳ないだろう! そりゃあ、あいつら普段から他の奴に迷惑かけてるけどよ! いいとこだってある! あいつらの気持ちを晴らしてやりたいんだよ!」


 珍しく意見が合わないハチベエとマタベエ。兄弟喧嘩のようで、不謹慎ながら少し微笑ましくサカキは思った。


 レジスタンスに協力する、しないはどうあれ、髑髏のカンテラの使い道の情報はどのみち手に入れる予定だった。だから、その言葉は自然に出る。


「いいぜ。盗賊団の掃討戦、やってやるよ」


 ハチベエとマタベエの驚く声が重なった。


「本当か!」

「これでカンジも浮かばれる……。俺たちにできること……盗賊団について、できるだけ詳しく話そう!」


 どうということのない決断なのだが、ハチベエとマタベエの喜び具合に、どこか居心地の悪さを感じてしまうサカキであった。

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