第19話 サポート仲間システム③

「――かしこまりました。指定の二名を仲間に加えます。……あれ? 私どうしたんでしょう?」


 受付の女性の瞳にハイライトが戻った。何が起きたのかと辺りを見回している。それはサカキも同じだった。仲間にすることを決めた二人はどこにも見当たらない。


 どうしたものかと思っていると、冒険者ギルドのスイングドアがバカーンと開いた。


「ここがミール村の冒険者ギルドかあ。……どいつもこいつも大したことなさそうだなあ」

「全くね」


 道場破りのごとく突然現れた男女二人組。


 男は太いサカキと背の高いエデルを足して2で割ったような体格で、見るからにタンク役。挑発的な発言とは裏腹に、のんびりした声で太い眉の純朴そうな若い男だった。


 女は少女のような雰囲気を残しつつも、黒髪黒目で目鼻立ちのくっきりしたスレンダーな美女だ。少々勝ち気そうだが、人によってはこれを芯が強そうと言うのかもしれない。


 もしやと思いサカキはステータス閲覧を仕掛けた。


【フランクリン】

・ちから   ★★★★☆

・たいりょく ★★★★★

・かしこさ  ★☆☆☆☆

・すばやさ  ★★☆☆☆

・うんのよさ ★★☆☆☆


【エマ】

・ちから   ★☆☆☆☆

・たいりょく ★★★☆☆

・かしこさ  ★★☆☆☆

・すばやさ  ★★★★☆

・うんのよさ ★★★★☆


 サポート仲間システムによって生成された二人であった。厳選大成功のステータスである。配分の無駄がほとんどなく、素晴らしい。


「お、あっちに骨のある奴がいそうだなあ」

「ふーん。あんたが言うなら、きっとそうなんだろうね」


 明らかにサカキを見ながら二人が歩いて来た。そして足を止める。


「よう。俺はフランクリンってんだ。戦鎚使いをやっている。こっちは――」

「エマよ。いしゆみ使い。よろしくね」

「俺たちは故郷を離れて冒険者をやっている。自慢じゃあないが、地元じゃ負け知らずだったんだぜ? ついこの間まで四人パーティだったんだが、反りが合わなくてなあ。解散しちまった。そこでだ」


 フランクリンはサカキを品定めするように下から上まで見渡し、指を差した。


「あんたにビビッと来るものを感じた。稼ぎはしっかり分けるとして……俺たちと組んでみねえか?」

「フランクリンはね。普段はぼーっとした感じだけど、勘だけは鋭いの。だから私もあなたに期待しているわ」


 一体、この駄デブ体型に何をビビッと感じたというのか。少々無理めなイベント進行にサカキはちょっと笑いそうになったが、乗っかってやるのが筋というものだろう。


 それにエマとフランクリンで、すでに関係が出来ていそうなのもよかった。エマに対して変に意識しなくて済む。


「いいぜ。びっくりするぐらい稼がせてやるよ。俺はサカキ。こっちのでかいのは相棒のエデルだ」

「あ、相棒のエデルです! サカキ殿の従者をやってます!」

「従者だと? もしかして、やんごとなきお方だったのか!?」


 やめろー、エデル。話を面倒な方向に行かせるのはー。相棒と言われてテンションが上がってしまったのか?


「いや。こいつはこんな感じで、たまにおかしくなる。だから気にするな」

「そ、そうか。ならばよろしく頼む」


 サカキはフランクリンと握手を交わした。エマとの握手も交わした。緊張したが、なんとかキモくならずに出来たと思う。


 エデルも二人と握手を交わしていたが、さっきの挙動不審さとは全く違う、エデルのナイスミドル感に目を白黒させていた。


『フランクリンが仲間になった!』

『エマが仲間になった!』


「――じゃあ冒険者ギルドから出るとするか」


 サカキの一言を合図に、フランクリンとエマが入口に向かおうとしたところで「ちょっと待った」と声をかけた。振り返ってフランクリンが口を開く。


「どうした? サカキ」

「今、ギルドの周りは村人がギチギチに詰めてるから普通に出るのは無理だぞ」

「何を言ってるんだ。俺とエマはあの入口からギルドに入って来たんだぞ」

「そうよ、サカキ」


 フランクリンとエマは少し怪訝な顔をしている。そりゃあ入口から入って来たんだろうが、出現地点は入口近くの外だったのではないだろうか。


 彼らの中では故郷を離れて冒険して、ミール村に流れ着いたことになっているのだろうが、そう思わされているだけで実際は生まれたての子鹿に等しい。


 説明も面倒だと思い、サカキはその言葉を唱えることとした。


「ゲームリセット」


 ◇


 視界が暗転し、サカキたち四人はミール村の宿屋近くに再出現した。案の定、フランクリンとエマは何が起きたのかとキョロキョロしている。


「そうか、転移の術……! そんな術が使えるなんてすげえな、サカキ! やっぱり俺の目に狂いはなかった!」

「本当に転移の術の使い手がいたなんて……。世界はまだまだ広いのね」


 転移の術などではなく、実際はゲームリセットすることで事前に設定されたゲーム開始座標に飛んだだけなのだが。それに、この反応からするとファストトラベル的な呪文、特技はこの世界で一般的ではないらしい。確かにそんなことが一般化した設定であれば流通革命を始め、世界全体に大きな影響が出てしまうであろう。


 フランクリンたちにゲームリセットのことを説明するかは少し迷った。


(説明しても分かんないだろうな。まあ、他にできることも含めて、おいおい分かってくれればいいか)


 とりあえず二人がゲームリセットについて都合よく解釈してくれているので、それに乗っかる形とする。


「まあ、そんなところだ。転移地点は事前にマーキングした場所でないといけない。それにマーキングは上書き方式という制約はあるがな」

「制約はあるかもしれんが大したもんだって! なあエマ?」

「本当ね。これからの旅が楽しくなりそう」


 そう言って、笑い合うフランクリンとエマ。可憐なエマと大男のフランクリンが仲睦まじくする様は、美女と野獣のようで非常に絵になっていた。サカキは心中、穏やかではなかった。


(くっそー。こいつら、めっちゃ出来てんじゃん。フランクリンはもげろ)


 トン、トン。


 肩を叩かれ、振り返るとエデルが自分を指差し、ここに俺がいるぞと必死な様子だった。サカキはそれを無視し、フランクリンたちに話しかけた。


「お前ら、もう宿は取ったのか?」

「まだだが」

「この村の宿はここしかないから今から取って来たらどうだ?」

「そうさせてもらうかな?」

「それでだな。この村に風の囁き亭って酒場があるんだが、今日はそこで一杯どうだ?」

「お、いいなあ。ぜひ、やろう」


 夕方頃、風の囁き亭に現地集合ということになって、フランクリンたちとは宿屋前にて、一旦別れることになった。

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