第18話 サポート仲間システム②

 仲間にあと二人加えるとしたら、どんな奴がよいか。エデルはラウンド髭の顎の部分をいじりながら思案顔となっていた。ややあって、おもむろに口を開く。


「女性……だろうか?」

「だよな!」


 我が意を得たりとばかりに、サカキの顔がパッと明るくなる。


 そうだ。今のパーティには華がない。非常に遺憾ながら、おっさん同士のちちくり合いとなってしまっていた。それを少しでも軽減できればと思い、サカキは受付に話しかける。


「女性の仲間を探している」

「かしこまりました。仲間キャラクターを生成しています。……生成完了。このプロンプトにより生成しました」


 依然として瞳のハイライトが消えたままである受付の女性は手元のリストをサカキに渡した。エデルにもそれを見せる。


「どうする? エデル」

「これは悩むな……」


 そのリストにはサポート仲間生成のためのプロンプト――システムに対する指示内容が表示されていた。


【仲間候補1】

・名前 ガブリエラ

・性別 女

・年齢 45

・ジョブ 僧侶

・ステータス ちから特化型

・性格 独占欲が強く、嫉妬深い

・容姿 ここまでの特徴からイメージされる典型的な容姿


「例えば、この仲間候補1のガブリエラさんはどうだろう」

「尻に敷いて来そうな姉さん女房はちょっと……」

「お見合いじゃないんだから、付き合う前提のコメントするなって。エデルは何歳だっけ」

「俺か? 42だ」

「3歳ぐらい上なら別にいいんじゃないの?」

「サカキ殿は分かっていない! あまり変わらないからこそ、普段は対等で都合のいい時に年上アピールをしてきて腹が立つのだ!」

「まるで経験してきたような物言いだな」

「むむむ……?」


 エデルはそこで考え込んでしまったようだ。


「何がむむむだ」

「少し引っかかることがあって。俺の記憶のことだ」

「まさか、何か思い出したのか?」

「いや、思い出せそうに思ったものの気のせいだったようだ」

「そうか……」


 こんなところでエデルの記憶に関して思わぬ収穫があった。それは気のせいなどではない。


 カチッ。


 確かにフラグの立つ音が聞こえたのだ。


(魔人兵に改造される前は姉さん女房から尻に敷かれていたのかな? もしかして子供とかもいたりして)


 複数のフラグを立てていけば記憶を取り戻すイベントが進行するのであろう。失われたエデルの記憶が幸福なものであることをサカキは願った。少し落ち込んだ様子のエデルを気にしながら、仲間候補のリストの確認を続けていった。


「エデル。この人はどうだろう」


【仲間候補8】

・名前 エマ

・性別 女

・年齢 24

・ジョブ いしゆみ使い

・ステータス ちからは低いが、すばやさ、うんのよさが高め

・性格 慈愛に満ち、実直な性格

・容姿 美形


「ほう……。『美形』が気になったか。それに慈愛に満ちているとな」

「そうそう……じゃなくてさ! 俺らって遠距離物理攻撃担当がいないじゃん! だから弓使いか弩使いがいいと思ったの! 弩っていうのは機械式の弓、クロスボウのことね! クロスボウを使うにはそこまでちからは重要じゃない! ステータスはちからが低くて、その分を他に回されているから配分に無駄がない! それだけ性能がいいキャラクターってことだよ! はい論破!」


 肩でゼーハー息をするサカキに対して、エデルは白い目で見ていた。


「俺としてもキャラクターであるエマ殿を仲間とすることに異論はない」

「だろ?」


 かくしてエデルの大人の対応により、エマを仲間に迎えることに決まったのであった。


「受付の方。仲間候補8のエマさんでお願いします」

「かしこまりました。それ以外のキャラクターを削除。……継続的なシステム利用のための領域を確保しました」


 削除などと穏やかではないセリフが発せられ、サカキはドキッとする。ガブリエラさんなどは生まれて数分でその存在を抹消されてしまったとでも言うのだろうか。そう考えると胸が少し痛む。


「別の条件でも仲間キャラクターを生成しますか?」

「あ、はい。でも、どんな人にするか考えるからちょっと待ってくれ」

「かしこまりました」


 サカキは受付とのやり取りの後、エデルと少し相談することにした。


「さて、もう一人の仲間はどうする?」

「俺は女性じゃない方がよいと思う」

「それはなぜ?」

「サカキ殿が二人もの女性に囲まれたら、刺激が強すぎてどのようになってしまうか分からないからだっ!」

「死ねぇ!」

「ぼべっ!」


 怒りの腹パンにより奇妙な声を上げたエデルを無視し、サカキは少し冷静に考えた。認めるのは癪だがエデルの言う通りにも思えた。


「いきなり殴ってすまんかった。やっぱりお前の言う通りだった。もう一人の仲間は男にする」

「そ、それがよかろう」


 サカキはインベントリから回復薬を取り出し、腹を押さえてうずくまっていたエデルに差し出した。そして微笑みながら言う。


「本当に悪かった。お前のことは大事に思っている。昔も、今も、これからもだ」

「サカキ殿……!」


 DV夫とそれに依存する妻のような余計なやり取りがあったが、もう一人の仲間について性別は男として、単純に性能を重視することに決まったのだった。


 とりあえず、僧侶は不要だ。サカキが無尽蔵に回復アイテムを入手でき、完全回復薬エリクサーまで入手できるからだ。回復アイテムをパーティメンバーに最初から配っておけばいい。となると、現在のパーティの役割で足りないものを補うということで決めるのが定石だろう。


 サカキが槍使い、エデルが炎術士、エマが弩使いであるため、現状は前衛一人、後衛二人という役割になる。後衛三人ではバランスが悪くなるため、前衛または中衛からの選択となるであろう。


 仮に前衛一人、中衛一人、後衛二人という構成にしたとする。そうなると前衛はサカキだけとなる。しかし、サカキが純粋な前衛と呼べるかというとそうではない。今までも警備員ジョブに由来する搦め手や回復アイテムによる補佐の役割を担うことが多かった。そもそも、うんのよさ特化型のステータスであるため、前衛としても少し物足りない。


「このパーティにはタンク役が必要だ」


 守備よりの前衛を一人追加することにより、サカキは前衛でありながらパーティの補助に気を配ることができる。後衛も呪文の発動時間や矢の装填時間を確保することができる。円滑な戦闘を行うことができるという訳だ。


「サカキ殿。その顔は完璧な答えが出たということかな」

「ああ」


 エデルから視線を外し、その答えを受付に伝えるべくサカキは歩き始めたのだった。

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