第17話 サポート仲間システム①

 サカキとエデルは冒険者ギルド内に再び入った。最初に入った時と特に変化はない。冒険者ギルドにはいくつかの円卓が置かれており、何組かの一党が談笑していた。それが逆におかしかった。


「サカキ殿! さっきの冒険者の二人組が普通に……生きている!」


 坊主に近い短髪で、モミアゲと無精ヒゲがつながっている。顔も体型も横に広い、三国志の張飛っぽいイメージの男。人相が悪く、半裸にチョッキ姿のザ・世紀末といった印象の男。エデルが地獄の炎ヘルフレイムで焼いたはずの二人はどちらも健在で普通に談笑していた。


「別におかしなことじゃないさ」


 何か悪いものを見てしまったとでも言いたげな表情のエデルに、サカキはこともなげにそう言った。


「どういうことだろうか?」

「あの二人組についてはなんらかイベントが設定されているんだろうと思う。冒険者ギルドから連れられた後、ギルドの周りにとんでもなく大量の村人が取り囲んでいただろう」

「確かに。いきなり出現したという感じでちょっと不自然ではあった」

「これは推測なんだが、あの二人組に話しかけただけでイベントが発生し、どんな脈絡であろうと因縁をつけてギルドの外に連れていき、そこで俺たちを殺す――ゲームオーバーになってしまう展開につながるんじゃないだろうか。ほら、モミアゲ男は隠してナイフまで持ち出していただろう。明らかに殺意があった」

「え? 話しかけただけで殺されることが確定事項ということなのか」

「おそらくな。それを俺とエデルは無理やり突破した。だからイベントの進行もそこで止まった」


 地獄の炎ヘルフレイムという殺意の塊の呪文。トランスパワーの超感覚による相手からの殺意の回避によって。というかこれが正しいとすれば初見殺しもいいところのクソイベである。


「本来、俺たちがゲームオーバーになって終了するイベントだから、イベントを繰り返さないための対策が入っていない。だからこうやって復活するんだよ。何度でもな」

「なるほど……。もう一度、あの二人組に話しかけるとどうなるのだろうか」

「同じことの繰り返し、だろうな」

「やはりか。では今後、あの者たちを見かけても話しかけず無視をするしかないということか」

「それがそうとも限らない。思い出してみろ。あいつらから、まだ聞けていない情報があっただろう」


 髑髏のカンテラ。その使い道である。


「ああ、そうか。しかし、あの者たちは俺たちに口を割る様子はなかった。話しかけてもゲームオーバーになる。一体、どうすれば……」

「エデル。多分、こういう時はあれだよ。情報を得るための条件がそろっていない――フラグが立っていないということだ」

「フラグか。少し前にそんなことをサカキ殿から聞いた気がする」

「これからも頭に入れておけよ。この世界を旅する上で結構重要なことなんだからな」

「う……承知した。フラグを立てれば、あの者たちから殺されず髑髏のカンテラの情報を聞き出すことができる。そういうことか」

「まあ、どうすればフラグが立つのかは分からないし、当面はあいつらを無視するしかないことに変わりはないがな」


 二人組が座る席の近くをサカキたちが通過する時、露骨に声のボリュームを下げられた気がした。やはりフラグを立てない限り、髑髏のカンテラの情報は聞かせる気がないということだ。


 ちらりと二人組と目が合った。しかし、サカキたちの存在を歯牙にもかけず、まるで先ほどの騒動がなかったことのように二人組は談笑を続けていた。


 サカキたちは冒険者ギルドの奥へ進み、受付の前まで着いた。ベレー帽をかぶった若い女がカウンターの奥にいた。


「冒険者ギルド、ミール村支部へようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか」

「初めての利用なんだが、一通り何ができるか説明してもらえないだろうか」

「かしこまりました!」


 冒険者ギルドでできることをサカキは確認した。主に二つであり、一つは単純にモンスター討伐証明部位の買い取りである。ゴブリンであれば、ゴブリンの耳。この世界の貨幣はモンスターからドロップする訳ではなく、モンスター討伐証明部位という中間素材を通して貨幣を手に入れることができる。サカキはそう推測していたが、その通りだったという訳だ。


 もう一つはクエストの受注。クエストボードという巨大な掲示板があり、そこに依頼人、条件、内容、期限、報酬といった情報が書かれた紙が貼られており、任意に剥がして受付に提示することでクエストの受注ができるらしい。


 冒険者ギルドというと受注可能なクエストに影響する冒険者ランクなるものがありそうだが、それは存在していなかった。この世界では各人にレベルという概念があり、強さの真正性を公的に証明できる指標が存在するため、冒険者登録により実績を管理してランク付けする必要がないからであろう。冒険者ランクをレベルが代替しているということだ。


 他にもクエストの発注についても説明されたが、冒険者ギルドでできることを先ほどの二つと言ったのは理由がある。世界観としてはできることとして設定されているようだが、身分の証明だとかゴニョゴニョと言われ、要するにゲーム的にはできることとして設定されていない。そういうことだとサカキは思ったのだ。リアルに一つ一つ設定していくと際限がないため、この辺りが落としどころなのだろう。


「他にできることはあるか?」

「えっと……冒険者ギルドでできることは、これで以上になります」


 サポート仲間システムについて案内されることはなかった。急遽追加されたシステムのようなので、説明が何もなくても仕方がない。


「仲間を探している」


 サカキが言うと、受付の女性の瞳のハイライトが消え、背筋がピンと伸びた。別人のような気配で、まるで何かに乗っ取られてしまったかのようだ。


「かしこまりました。サポート仲間システムに接続……成功しました」


(え、こわ。創造主~。急ごしらえのシステムとはいえ、早く自然な会話を設定するように頼む~)


「なあ、エデル。旅の仲間に加えるとしたら、どんな奴がいいかな? システム的にパーティ人数の最大は四人だから、あと二人なんだけど」

「そうだな。本当にサカキ殿に任せると言いたいのだが、それでは主体性がなく無責任でもあるな」


 これは例え話だが、晩御飯は何がいい? に対して、何でもいいと答えたとする。そしてできたものに対して、ついうっかり評論めいた文句を言ってしまったとする。それはつまるところ、何でもいいということではなかったのだ。


 課題に対して意思決定した者が、その検討自体を放棄した者にあれこれ言われるのは実に不快なものである。そうならないよう、このような場面で自分の意見を言おうとしてくれるエデルをやっぱりいい奴だなと思うサカキだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る