第15話 いざ冒険者ギルドへ
知っているような知らない天井を見て、サカキはデバッグルームから復帰したことを自覚した。
(ん? なんか男臭い?)
サカキが寝ているベッドに、なぜかエデルが同衾していた。まだ寝ていたエデルをすかさず叩き起こした。
「なんで同じベッドで寝てんだよ」
「いやあ、もう一つのベッドがカビ臭くて」
「布団を敷こう、な! ……まあ、今回はそういうことにしといてやるよ。それはそうと、いきなり体調を崩して悪かったな」
「そ、そうだ、サカキ殿。具合は良くなったのか?」
「ん? あー、かなりいいかも」
いいかも、どころか絶好調である。万年サカキを悩ませていた慢性的な肩こりが、きれいさっぱりなくなっている。それに体が相当に軽い気がする。
(さすが一つ上の次元の肉体。俺も一つ上の男になったってことだな。
「それじゃあ、朝飯にでもするか」
二人は部屋から出て階段を下り、宿の中にある食堂へ向かった。
「おはようございます! 昨日はよく眠れましたか?」
食堂に入ると、気立ての良さそうな娘さんが声をかけてきた。エデルの後ろにいたサカキを見ると笑みを浮かべた。
「そちらの方も起きられたのですね。昨日は夕食にも来られないから、よほどお疲れなのかと思っていました」
「あ、ああ。ちょっと体調が悪くてな」
宿の娘さんが心配そうにサカキの顔を見た。年齢はおそらく十代後半。素朴な顔立ちだが整ってはいて、少しチョロそうな雰囲気もあり、会いに行けるアイドル感がハンパではなかった。
「大丈夫ですか? 熱はないですか?」
宿の娘さんの顔がぐっと近寄った。不意の行動にサカキは何をすればいいのか分からなくなる。
反応のなさに彼女の表情は微妙に曇った。それに気付いたサカキは早く質問に答えないとと、ますます焦る。
「ああ、熱は大丈夫。ほら! ピンピンしてるだろ」
「そうですか……。ご自愛くださいね」
「はい!」
娘さんは食堂から厨房の方へ向かった。これから食事を用意してくれるのであろう。その間にサカキとエデルは食堂の席に着いた。エデルがどうもニヤニヤしている。
「サカキ殿。女性に不慣れ過ぎでは?」
「不慣れじゃねーし」
「いいや、不慣れだ。嘘はいけないな」
「うっせーわ」
サカキは顔をぷいと背けた。男、独身、37歳であり、彼女いない歴イコール年齢である。当然、女性には不慣れだった。
「お待ちどうさま。この村で採れたライ麦から作った黒パン。それにスウェット牛から絞った牛乳で作ったチーズ。どっちもミール村の特産品よ。それと……エデルさんから頂いたカニをクリーム煮にしてみました」
聞き捨てならないスウェット牛。ジャージー牛のジャージからの連想で来ているのか? そしてちゃっかり宿の娘さんに土産物を渡していたエデルに対し、サカキはジト目になっていた。
「おお、うまそうだな。味見はされましたかな?」
「ええ、とってもおいしかったですよ。料理人の父が作った自信の一品です。是非お召し上がりください。あ、それとエデルさん、聞いてくださいよ。昨日教えてもらったガンガン焼きのことをお父さんに言ったら、早速試してみたみたいで、こんな調理方法があったのか! なんて、すごい大喜びで――」
(あー。あー。聞きたくない。なんでエデルはこんなにうまく女性と話ができるのか。ていうかガンガン焼きをエデルに教えたのは俺だし)
宿の娘さんはとても楽しげだった。そもそも人との距離感が近く、他の人にも大体こんな感じなのかもしれないが。たまによくいるよね、そんな人。
エデルからは大人の男の余裕を感じた。普段はサカキ殿、サカキ殿、なんて言ってる癖に案外遊び人なのかもしれない。宿の娘さんに対して、少し危険な匂いのする頼れる男感を演出していた。
ふとエデルと目が合うと、なんと鼻の穴を膨らませてドヤ顔を決めてきた。面白くないなとサカキは硬い黒パンをモソモソとかじった。
◇
「サカキ殿〜。ちょっと悪ふざけが過ぎた。機嫌を直してくれ〜」
「お前のことなんか、もう知らん」
気を取り直していたが、サカキはあえて機嫌が悪いままに振る舞った。調子に乗ったエデルに少し灸をすえてやろう。そういう思いであった。
朝食後、宿を出た二人はミール村を散策していた。実に平和な村である。高く堅牢な壁に囲まれ、モンスターの襲撃の気配もない。単にモンスターの出現範囲が設定されていないだけだが。だからこそ、門番のハチベエとマタベエがイベント進行の都合で消えても、平和が維持されている。
「そう言えばさ、エデル」
「許してくれたのか! サカキ殿!」
「もう面倒くさいから許したってことにしとく。それでさ――」
ミール村にある施設について、サカキはエデルに聞いてみた。冒険者ギルド、酒場、武器屋、防具屋、アクセサリー屋、道具屋、それに昨日泊まった宿屋があるらしい。実にスタンダードなラインナップだ。
店売り装備品、消耗品をほぼ無制限に入手できるサカキにとって、大半の施設はどうでもいい。酒場はこれからレジスタンス関連のイベントが控えているため、行ってみるのは確定事項だ。しかし、朝っぱらから酒場に入り浸るのも少し気が引ける。
「冒険者ギルドに行ってみるか」
創造主からサポート仲間システムの使用権限が開放されているため試してみたかったのと、先輩冒険者が新入りに絡んでくるテンプレイベントでもあれば面白そうと思ったことが決め手であった。
冒険者ギルドはミール村の入口近くにあった。力こぶを抽象化したようなマークの看板。これが冒険者ギルドの目印らしい。どこかの街に本部があって、世界中に支部を設けているのだとか。
サカキは西部劇よろしく木製のスイングドアをバカーンと開けた。
すると十数個の瞳が一斉にサカキを見る……なんてことはなく、冒険者ギルドは閑散としていた。
「あれ? こんなはずじゃ……」
「こんなはずって、サカキ殿は一体何を考えていたのやら」
エデルは苦笑した。冒険者ギルドにはいくつかの円卓が置かれており、何組かの一党が談笑していた。サカキはそのうちの一組である二人組の一党に絞って、聞き耳を立てた。
「そういえば、またミールの森で行方不明者が出たらしいぞ」
「マジか。ヤバいモンスターでも出たのか?」
「これはあくまで噂なんだがよ。ミールの森ってゴブリンがたくさんいるだろ? ゴブリンを倒し続けると親玉が現れてどこかに連れ去られてしまうらしいぜ」
はーい。その話、知ってまーす。この話をヒントにホブゴブリンとの遭遇イベントを見つけ出すように設計されていたのだろう。すでにイベント消化済みであるサカキは一党の話に興味を失った。
「まだまだ話は続くんだぜ。その親玉を倒すと髑髏のカンテラって道具が手に入ってだな。この道具が――」
「その話、詳しく聞かせてくれ!」
一党の話にサカキは食い気味で割り込んだのだった。
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