第四話「俺、決めたよ」
銀色の剣士と呼ばれる彼は熱い心を燃やし、エストに再度昨日と同じ言葉をかける。
「俺は…俺は…アカネを隊には入れない。それは絶対だ。絶対に揺るがない。」
エストの心は少し揺らいでいる。シルバーの熱弁によって揺らいでいた。
「…………分かった…じゃあ…お前は…あの少女に独り寂しい思いをさせるのか?」
独りにする。どういう事だろうか。
「あの子は…あの子にはもう…親が…」
_____亡くなったと言いたいのか?それは…無いだろ…そんな事…
「おい、アカネを隊に入れたいからって嘘つくなよ。」
少し、怒りがこもった口調だった。
これでも最小限に抑えてる筈なのにな、人間理性だけでは効かない感情モノがあるらしい。
「…人の不自然な死を嫌うお前の前で俺がそんな嘘をつくと思うか?…これを見ろ。古代魔法族の里で死んでいた者のリストだ。」
シルバーは俺にその死亡者リストを渡す。
リストには死亡者がずらっと並んでいた。
このリストの死亡者達を俺がもう少し、早く来ていれば救えたかもしれないと思うと吐き気がする。
「その中の里長…あの少女の家族は全員死んだ。他の者は兄弟、親戚が居るようだが。あの少女だけ…」
「…そんな…嘘だろ………」
現実という試練はいつも過酷である。それを乗り越えた先ではまた地獄が広がっているだから。
「これが…現実だ。俺達は遅かった。過去を見てもしょうがない。」
言ってることは正しい。だがそれを今言わなくても良い。
そんな暗く、重たい空気が流れている時だった。コンコンとドアを叩く音がした。
「エストさん入りますよー」
なんてタイミングで来た。そう思った。
「お水持ってきました!目が覚めたらお水を飲むのが良いって祖母が言ってましたから!」
アカネはこの重たい空気の流れを感じず、そう言ってお水を机の上に置いた。
「そうか…祖母が…良い祖母を…祖母?」
「はい!祖母が良いって!」
俺とシルバーは目を合わせ、頷いた
「…その祖母はどこに住んでいるんだ!?俺達がその祖母の所までアカネを安全に連れて行く。そうすればアカネは独りじゃないだろ?」
希望の光が差し込んだ。これならこの子は寂しい思いをしなくて済む。
「あ、あの…私祖母の住んでいる所が…分からなくて…」
分からない、その言葉に俺の心は沈んだ。
「む?分からない?それはおかしいな、君は祖母宛への手紙を持っていたはずでは?」
手紙…?なんだそれ、じゃあアカネは嘘をついたのか?
「手紙は書きましたけど…住所が分からないから冒険者ギルドのお捜しリストに載せて貰おうと思って…それに私……起きた時は手紙を持ってんたんですけど、無くしちゃって………」
しばらく静寂が流れる。
俺は手を額に当て悩み
シルバーは気まずすぎて、窓の外を眺め
アカネは空気悪くしちゃったと感じ、アワアワしていた。
「……そのアカネ…ごめん…俺が遅いせいで…お前の家族を……」
俺は精一杯謝った。頭を床に血が出るまで擦り付けて。
「あ、エストさん!!やめてください!そんなこと!!!」
アカネは俺にそんなことしなくていいと止めた。
「あの……エストさん…やめてください……やめてください!!!」
アカネが大きな声で言った。
「…なんだ」
「私は…家族が殺されたのは悲しいです。でも、私は今もっと悲しいです。助けてくれた、光をくれた恩人に謝られているから。私はどうすれば良いか分からないです……」
アカネは自分の思ったことを告げた。
「俺は…恩人なんてそんな尊大なもんじゃない。」
「エストさんにとってはそうかもしれません…でも私にとっては違うんです。…私は貴方に恩を返した…貴方の横に並べるぐらい強くなりたいんです。だから…謝らないでください。顔を上げてください……」
アカネの言葉には優しい音が乗っていた。
俺はそれに気付いてなかった。俺はゆっくりと顔を上げて目の前にいるアカネの顔を見る。
その時、一粒の雨が俺の頬に落ちて来た。
「…エストさん、私はあなたみたいに誰かの光になれますか?」
アカネは一つ質問する。その時雨が今度は二粒に増えて落ちて来た。
「……アカネは…俺にはなれないよ……正確には俺なんかには…かな。」
アカネには俺みたいになってほしくない。誰かを失ってただ泣くことしか出来なかったあの時の弱者自分のようには。
「じゃあ、私はどうやったら貴方よりも眩しく人の道を暖かく、優しく照らす光になれますか?」
そんな事聞かれても俺には分からない。ただ一つ道があるとするならばそれは_____
「……俺達に付いてくる事だ」
あぁ、|あ・の・人・もこんな気持ちだったのだろう。
昔の俺は本当にこんな、光る眼をしていたのだろうか…
「…!それって」
アカネは言葉の意味を理解したのだろう。
俺スゥーと、息を吸い込んで喋る。雨はまだ止まない。
「エントに…俺達が住んでいる国に来ないか?」
言いたくなかった。銀色の剣士シルバーに勧められたことを俺は言ってしまった。
「本当に…良いんですか…?」
アカネは言葉を震わさ、俺に確認する。
雨が落ちる速度が加速する。
「…あぁ、勿論だ。俺がアカネを世界で一番強くしてやる。」
俺がそう言うとアカネが抱きついてきた。
「ぐず…うぅ、ありがとうございまずぅ…私、わたし、これで独りじゃないですみまず…うっぅう」
アカネはそう言った。俺は確かに聞いた『独りじゃない』と
「そうだな…アカネはもう独りじゃない。」
「はい…ぐず…私…独りに、なると思ってぇ寂しがっだぁ…うぅぅぐず……うっう」
俺はアカネを落ち着かせた。雨はもう降らない。
そして、心のなかで俺は誓った。
神様、俺、決めたよこの子が世界で一番強くなるまで守るって。
神様、俺もう一つ決めたよ、この子に寂しい思いを、孤独にさせないって。
ユウシャ ガイセン C茶ん @chingo
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