第三話 『あの子』
招雷とアカネは死神を倒した。倒した、終わったと思った瞬間、アカネは体勢を崩した。
「おい、大丈夫か??」
死神に二撃必殺をぶつけた青年エストは、体勢を崩したアカネの下へ駆け寄る。
「大…丈夫です…あ、でも…少し…眠くなってきました…」
一日に色んなことがありすぎて、体と心が限界を迎えたのだろう。大したものである幼い身でありながら、大きな心ひとつでここまで頑張ってきたのだから。
「おい!起きろ!都にはお前の里の仲間達が、友達がいるんだぞ!死ぬな!!」
招雷と呼ばれる彼は、雷が荒れ落ちる様で少女の体を揺さぶっていた。
「……スゥー…スゥー」
揺さぶっている最中、微かに人の寝息が聞こえた。よく聞いてみるとそれは少女から発せられるものだった。
「いや、本当に寝てるだけかよ」
彼はさっきまで少女の事を必死でどうにかして助けようと思考を巡らせていた男。心配損である。え、生きてるからいいじゃないか?それはそうである。
だが、彼と同じ立場になれば誰もがあのセリフを聞いて「あ、こいつ死ぬんやと」思うだろう。
「……あーもう、大鎌を持っていくついでに聖堂まで運んでやるか…いや、この子重!!いや、重いのは大鎌か」
エストは死神と戦った場所から遠いところにある都の聖堂に向かった。
死神は気絶したまま、まだ地に倒れている。
__________________
「あーくそ、都近いと思ったら遠いし、これ運びながらだと上手く進めないし、モンスターには出会うわで夜になっちまったよ…」
そんな事を言っていると聖堂の扉を開けて誰かでてきた。
「む、エストか死神は倒せたか?」
「倒した。そんで、ほい」
招雷は剣士に大鎌を投げ渡す。
「おっとっと…お前いきなりこんな危ねえ物を投げんじゃねえよ。」
「はは!ごめんごめん!で、それ見て何か感じないか?」
「ふむ…素晴らしい鎌だ。良く手入れされていて刃こぼれもない。それにこの魔力…不匠魔力か」
「そ、正解。不匠魔力が使われてる。それもバカみたいな性能したものが」
不匠魔力、現在の魔力付与技術には存在しない魔力を武器に付与した魔力のこと。
「ふむ…後でその性能とやらを確認してみよう。それと…その肩に乗せてる女の子は何だ?誘拐したのか?」
肩に乗せてる女の子…アカネはまだ眠っている。
「この子か?死神を倒すために一役勝った、今回の戦の古代魔法族の功労者さ」
「なるほど古代魔法族の生き残りだったか。それで何故その子が功労者だと言う?」
「こいつの古代魔法と組み合わせた付与魔法サポートがなかったら俺は死んでいた」
死んでいた、その言葉に剣士は大きく目を開きエストの顔を眺める。
「お前が死んだ…?それに古代魔法と付与魔法サポートを組み合わせた?冗談だろ?」
信じられないと。そんな目をする剣士
「ああ…この子がいなきゃ俺は死んでたさ。俺が死神からこの子を助け、この子は俺が死神を倒せるように手助けする。このカラクリがなければ俺は死んでいた。」
「そうか。それで、これからどうするつもりだ?」
「明日は一日休んで、明後日帰る。」
体ボロボロ 魔力カラカラの状態であるエストの顔には早く休みたいと書かれていた。
「分かった。その女の子は俺が聖堂の寝室に運んでおこう。」
「ああ、頼んだぞ銀色の剣士シルバー、」
剣士シルバーはエストの肩にもたれかかって寝ている女の子をお姫様抱っこし聖堂の寝室へと向かった。
「さて、あの場所に戻るか。」
エストは重い体を歩かせ死神と戦った場所へと戻った。
戦った場所に戻ってきた、そこに結界封印の召喚陣が書かれた絵巻を使用する。
「__________________君さぁ面倒臭い結界つくったぁねぇ」
特徴的な喋り方をする奴がいた。不機嫌そうだ。
「(いいタイミングで目が覚めたな)んだよ。お前のために特注の結界封印の召喚陣が描かれた絵巻を使ったんだぞ。少しは喜べ。」
「いや、喜べないよ。君のせいでボクは『あの子』に殺されるんだから」
「なぁ、その『あの子』って誰のことだよ。お前…俺がトドメさすときも言ってたよな?。教えろよ」
沈黙、数十秒の沈黙が流れる。
死神はこちらを真顔で見ている。
そして、ため息をつき口を開く
「あぁ…君は…本当に何も覚えちゃいないんだぁねぇ…『あの子』が可哀想だよぉぉ゙…うっうう」
問いに対する答えが全く意味が分からない。
死神は『あの子』が可哀想と言いながら泣いた。
「おい、ふざけるのも大概にしろよ?俺は『あの子』が誰かって聞いてんだ、早く言えよ。」
少しキレ気味の口調でもう一度死神に問う
「そ、ぞれハァ、い、いぶぇなあぎ言えない約束でぇ、ヴッヴウヴ…それを言ってしまうと、ボクハァ、死んでじまゔゔぅゔゔぅ」
汚い顔が泣き崩る。正直言って俺はこいつ死神が涙をダラダラ流して泣いていることに若干引いている。だが何がこいつをここまで気持ち悪くするのか俺は聞かねばならない。
「約束?その約束の内容を教えろ。」
「!分がっだ!お、おじえるから、『あの子』にづいてばぎかないでグレ!!!ダノム!!!」
何が…何がこいつにここまで恐怖を与えている…?
「……考えとくから、話せ。」
「や、やぐそくの内容は4つある」
4つか。4、不吉な数字だな
「ひ、1づめは、『あの子』に関する事を聞かれても言わないようにず、る、ただし、約束は言って、良い、ものとずる、こ、ごれが1つ目だ」
『あの子』と呼ばれる奴はそんなに秘密主義者なのだろうか。
「ふ、ぷ、2つ目は、君を殺すごと」
俺を殺す…だと?人から恨みを買うような事をした覚えはないのだが。
「3つ目はあの、『扉』を開け、あ、あ、
あああああああやめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
エストは?と顔に出して、こいつとうとう頭イキやがったなと、そんな時だった。
突如、エストの後ろで空間に歪なヒビが入り、黒い穴が広がった。黒い穴は死神を吸い込んでいく。
「おいおいおいおい、次はなんだよ!!まだ約束の内容も言いかけじゃねえか!!」
穴がどんどん広がり死神だけでなく、周りの木や、大地、生物を吸収していく。
「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァあァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
死神は黒い穴に吸い込まれ体が拗られ、発狂する。
「クソ!!!何がどうなって!?」
穴はどんどん縮小していき、空間を元に戻す。
まるでそこには何もなかったかの様に。
「…あーくそ。気が狂いそうだ…」
唯一穴の吸い込みが効かなかった男はそう言って都の聖堂にトコトコ歩いていった。
「『あの子』ってのは俺が昔出会った事ある人物なのか?約束の3つ目の言いかけてた『扉』って一体なんのことなんだ?」
そんな事を考えていると都についた。もう夜が明けそうだ。早く寝たい。
「遅かったな。エスト」
この銀色の剣士シルバーと呼ばれる男、俺が帰ってくるまで待っていたのか?いや、違うな。死神が来ないか警戒していたのだろう。
「ああ、すまん。ちょっと色々あってだな。」
「そうか。後で聞くとしよう。ゆっくり休むと良い。」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ。」
やっと寝れる。今はベッドに身を任せて、可愛い女の子が出てくるゆめでもみたいものだ
「あ、寝る前に一つ聞くが、あの少女はどうするつもりだ?我が隊に入れるのか?」
あの少女?どいつだよ。たぶんアカネのことだろうけど。
「アカネのことか?んなもん決まってるら、入れるわけねえだろ。あんな幼い女の子を危険な任務に放りだしてみろ!あのアホ魔女あいつとあの老害じじいにお前はそんなんだから、どうのこうの言われる未来が見えるから絶対入れないね!!」
「フフ、そうか。俺はてっきり稀な魔法を使う者だから入隊させる気かと思ったよ。」
こいつ…いい笑顔するから殴りたくなる。
「ま、俺は寝るからな。じゃ。」
そう言って俺は都の宿屋のベッドで死んだように眠った。
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