第13話 キレる。傭兵団を蹴散らす。
傭兵どもは武器を構えたまま、異質なものでも見るような怯えた目で俺を見ていた。
「な、なんなんだ、あいつは……? 帝都のダンジョンを二十五層までもぐった俺達を、一発の蹴りで吹き飛ばしやがったぞ……」
「こんなバケモンがいるなんて聞いてねえぞ……」
「あんなの、人間の身体能力じゃねえぞ。ダンジョンのフロアボスかよ」
散々な言われようだな、おい。
だが、こっちにだって言ってやりたいことはあった。
「子どものケンカにのこのこしゃしゃり出てきやがって……大方、弱い子どもをいたぶるついでに、若い女を抱けるとでもそそのかされたのか?」
「だ、だったらどうだって言うんだ! 虐殺も略奪も、帝国軍の連中だってやってることだろうが!」
「そうだな。でも、だからってお前らもやっていいなんて道理はない」
傭兵どもの主張を切り捨ててから、俺は続ける。
「俺はな。他人の大事なものを平然と奪っていく連中が、この世で一番大嫌いなんだよ。見てるだけでヘドが出る。同じ空気も吸いたくない」
言いながら、俺は前世の人生を思い出す。
高校時代はいじめられ続け、就職してもブラック企業で
なにもかもを他人に奪われ続けた人生だった。
そのあげく、転生したのが原作に名前すら出てこない、本編開始前に死んでるモブ男とは……
正直、俺の人生呪われ過ぎだろと何度もくじけそうになったが、俺はなんとか折れずに士官学校に入学することができた。
それはもちろん、
俺からすべてを奪っていく世界に。
俺を笑って足蹴にしてきた人間達に。
一発ぶん殴って、言ってやりたかったのだ。
――ざまあみろ。俺はもう二度と、大事なものは奪わせない。俺の人生を奪わせない。
そして――
「奪われる側の痛みを知りやがれ、クソ野郎ども」
言うと同時に、俺は地面を蹴った。
槍を構えた傭兵の前に着地すると、相手はすぐに反応して槍を突き出してきた。
顔面に突き出された槍をつかむと、俺は槍ごと敵を頭上に掲げた。
振り上げた槍を地面に叩きつける前に、他の傭兵どもが俺に魔法を放ってくる。
「フレイム・ピラー!」
「スラッシュ・トルネード!」
足元から炎の柱が立ち上がり、斬撃をともなった竜巻が俺を襲う――が、当然俺の体には一ミリも傷がついていなかった。
「なっ……第四
傭兵達が大げさに驚くが、それも当然だ。
この世界の魔法は第八階梯まであるが、常人が死ぬほど努力してようやく到達できる領域が第五階梯と言われている。
つまり、こいつらは常人の限界の一歩手前まで到達した、優秀な傭兵なのだろう。
それなのに、その力をこんな風にしか使えないなんて……あまりにも虚しいな。
俺は掲げ上げた槍を地面に叩きつけ、槍使いの傭兵を昏倒させてから、不気味に見えるような笑みを浮かべた。
「今の魔法がお前らの本気か? 俺の魔法障壁には傷一つついてないぞ」
「魔法障壁!? いや、あれは確実に直撃だったはずだぞ!」
「ま、魔法障壁と言ったら魔法障壁なんだよっ! お前の常識で俺の魔法を推し量るな!」
傭兵の抗弁に慌てて反論し、俺は自分の体質をごまかす。
幸い、傭兵どもは俺の言葉を信じてくれたようだった。
「ふんっ……なら、魔法障壁が効かない攻撃をするまでだ! クリエイト・ゴーレム!」
言って、リーダーらしき男が大剣を地面に突き刺した。
地面に流し込まれた魔力が土を隆起させ、体長五メートルほどの土人形――ゴーレムを作り出す。
第五階梯の魔法を、これほど早く組み上げるとは……
「ゴーレム、やつを踏み潰せ!」
傭兵の命令を受けて、ゴーレムが緩慢な動きで俺に接近してくる。
波状攻撃を狙うように、残った三人の傭兵どもも俺を包囲してきた。
ゴーレムが足を上げ、全体重を乗せて俺を踏み潰してくる。
俺は左手を持ち上げ、ゴーレムの全体重を片手で受け止めた。
凄まじい体重がのしかかった力で、足が地面に沈み込むが、腕にも体にもまったく痛みはない。
当然だ。この程度の攻撃でダメージを負うほど、やわな鍛え方はしてきていない。
だが、攻撃はそれだけではなかった。
左右から傭兵が飛びかかり、俺の足と胴体に斧で斬りかかってくる。
俺はゴーレムを足を支えていた左手を離すと、地面を蹴って後ろに跳んだ。
傭兵達の斧は空を斬り、そこに全体重を乗せたゴーレムの足が落ちてくる。
轟音とともに傭兵達の悲鳴が上がった。斧を持っていた腕がゴーレムの足に踏みつけられ、腕が複雑骨折でもしたのだろう。
ゴーレムが俺に向けて拳を振り上げてくるので、俺は
機能停止したゴーレムを背に、俺は大剣を持ったリーダー格の男を振り返った。
やつは忌々しげに俺を睨みながら、地面に大剣を突き刺して吠えた。
「そこを一歩も動くんじゃねえ! 動いたら、お前の仲間を皆殺しにするぞ!」
それが脅しでないことは、すぐにわかった。
リーダー格の男からエリシャ達の居場所まで、距離はおよそ二〇メートルほどか。
この男の魔法技術なら、その距離でも地面から槍を生やして急所をつくなり、地割れを起こして地の底に叩き落とすなり、いくらでも殺す方法はあるだろう。
だが、俺は
「やれると思うなら、やってみろよ」
「……ナメた口利きやがって。どうやら、死人が出ねえと反省もできねえようだな」
言って、やつは大剣に魔力を流し込む――
と同時に、俺は全力で地面を蹴った。
敵に一瞬で間合いを詰めると、大剣の
魔石を破壊されたことで、集約し始めていた魔力が霧散し、傭兵の魔法は生まれる前に消失する。
やつは
「人質を取るってことは、自分の命も取られる覚悟はできてるんだろうな?」
「や、やめてく――」
「地獄で反省しやがれ、クソ野郎」
吐き捨て、俺は傭兵を背中から地面に叩きつけた。
手加減したので、気絶はしたものの命の危険はない。とはいえ、さっきの俺の戦いぶりとセリフで十分恐怖を植え付けることができただろう。
これで、少しは反省してくれるといいが……そんな簡単に反省するようなら、苦労はしないか。
俺はため息をついて、みんなのところに戻った。
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