第41話 エピローグ

「ハク、消えないから」

「うんうん、ジンライはもういないよ」

 ジンライの雷のオーラは大岩だけでなく、ハクのブレスをも無効化してしまう。

 物理的な壁、炎でさえも弾いてしまう雷のオーラを水なら包み込むことができるんじゃないかってのは賭けだった。

 水でまとわりつかせて氷に変化させれば、一時的に雷のオーラを無効化できると踏んで作戦実行したら大成功で嬉しさより信じられない気持ちの方が今は大きい。

「やったね、ティル、ハク、もちろん、クーンも」

 ふわりと地面に降り立ちキュートに片目を瞑るリュック。

「わおん!」

 クーンが元気よく鳴き、激しく尻尾を振る。

「あ、兄さん。疲れているところ申し訳ないんだけど、もう一つお願いがあって」

「言われなくてもやるよ、だけど、ちゃんとご褒美を用意しておいてよ」

「ご褒美って……?」

「それはティルが思いっきり抱きしめてくれることさ。よくやった、ってね」

 それくらいならいくらでも。

 リュックがパチンと指を鳴らした途端、俺たちがいる場所を避けて局地的な大雨が降り雷によって広がった火災があっという間に鎮火された。

「ふうう。終わった、終わった」

「うん」

「ハク、後ろ向いておくから服を着て」

「寒くはない」

 そういうわけじゃあなくてだな……。彼女の本質は白竜だからこれもまた仕方なし、なのか。

 白竜の姿のときには服を着ていなくてもなんとも思わないのだけど、人の姿になると全裸は困るってのも勝手な話……ってそんなわけあるかあ!

 締まらない最後にたははと苦笑いすると、不思議そうに俺を見上げるハクなのであった。

 兄がはやく、はやく、というオーラを出しているが、俺が動くとハクに被せた服がはだけてしまうから動けないんだ。ははは。

 

 

 エピローグ

 

 

 ジンライ来襲からもう一週間が過ぎようとしている。

 雷によってせっかく建てたばかりの家屋が燃えてしまい、芽吹いたばかりの畑もボコボコになり作物を育てることができる状態ではなくなってしまった。

 アガルタにはジンライ討伐後、すぐに村人が戻り総出で復興作業に取り掛かっている。もちろん俺も彼らと一緒に汗水流して作業をしているぞ。

かんなぎ様! ヒジュラの里長がお見えです」

「わざわざここまで?」

 畑を耕していたら、思ってもない人物が訪ねてきたと聞き、ハクの家に向かう。

 そうそう、ジンライの雷で唯一無事だったのがハクの家だったんだ。

 他の家は突貫で作ったものだから、お客様を迎え入れるようにはできていない。ハクの家も机と椅子があるくらいで新築の家と比べてそこまで変わるわけでもないのだが……。

 

「あのジンライを討伐されたと、感謝してもしきれません」

「たまたま作戦がハマっただけで」

 深々と頭を下げられ恐縮だよ。里長はアガルタに移住したいと申し出ている者が十名ほどいるが、いつごろなら可能かと尋ねてくる。

 即日でもよいよ、と彼に伝えておいた。元々、移住し始めたばかりだったし、何も無くても良いのなら大歓迎である。

 この後里長は村人にお任せして、畑作業の続きをしようとしたがクワが全て使用中だったのでクーンと採集に出かけようとしたらまたしても来客が。

 来客というのか微妙なところだけど……。

「よお、元気にしてたか」

「マルチェロ!」

 そう、来客とはマルチェロだったのだ。

 積もる話はいっぱいある。

「またしばらくここでのんびり予定なの?」

「んだな。グラゴスでいろいろ疲れたからな」

 グラゴスの街へ危急を知らせに行ってくれたマルチェロは、ジンライがいかに危険か冒険者ギルドのお偉いさんたちに語ってくれたんだそうだ。

 みんな半信半疑だったのだけど、ジンライが出現して空がただ事ではなくなり大騒ぎになった。

 一日もしないうちに空が元通りになったので、あーだこーだと色々聞かれ、誤魔化しつつのらりくらりとやり過ごすのに時間がかかったんだって。

 正直すまんかった……。

 ささ、ささ、と彼に酒を進め、逃げるようにしてクーンと共に外へ繰り出す。 

 

 ハクと一緒に来た見晴らしのよい丘でんーと伸びをする。

 ジンライがいた山はここから見えなくなっていた。奴が封印を解いたときに崖崩れとかで山の形が変わってしまったのかもしれないな。

 クーンから降り、その場で座り込む。そんな俺の横にクーンも寝そべり、くああと欠伸をする。

「やっとのんびりと暮らしていけそうだ」

「わおん」

 クーンのお腹に頭を乗せ、ウトウトしてきてハッとなった。

 アガルタじゃなく外で呑気に寝てしまいそうになるとは、さすがに気が緩み過ぎだろ。

「ふああ、もうちょっとだけ休んだら採集して帰ろうか」

 もう少し落ち着いたら心配している家族に会いに行こう。ここでの暮らしを手放すつもりはないので、彼らへの説得が大変そうではあるが……。

 などと考えていたらまた寝そうになり、慌てて立ち上がる。

「よおっし! 行こうか」

「わおん」

 すぐにマイタケを発見し、それらを袋に納めた。

 数日後、伯爵家御一行がアガルタへやってきて大騒ぎとなるのだが、それはまた別の話。

 

 おしまい


※ここまでお読みいただきありがとうございました!また次回作でお会いしましょう!

本作、書籍化いたします。詳細は近況ノートでまた。

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不遇な俺のお気楽辺境スローライフ~隠居したちびっこ転生貴族は最強付与術でもふもふ相棒と村づくりします~ うみ @Umi12345

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