6.テーマを知る
テーマはもの書きにとって名刺のようなものである。
私のテーマは「情動」「理解」「死別」だ。
さあ、私が名刺を差し出したのだからあなたも名刺を差し出すべきだ。みなさんの取り組むテーマを教えてほしい。さあ早く。
いじわるをした。テーマをはっきり意識することはすごく難しい。でももの書きとして成長を目指すのであれば必ずぶつかるべき問題だ。今回はテーマについて書いていこう。
例のごとく想像してほしい、あなたが好きな人に告白するとしよう。
他に人のいない落ち着ける場所がいいだろう。夜景や夕日を見ながらなんて素敵だ。反対に2人でよく過ごす場所で何気なく伝えるのも良い。普段より少し改まって気持ちを言葉にするだろう。まずは今までの感謝を伝えてから好きだと言うといいかもしれない。
愛の告白をテーマにすると場所や言葉遣いや段取りが決まる。小説も同じでテーマがすべてを決める。
テーマをきちんと捉えると舞台設定や文章表現の硬さ柔らかさ、登場するキャラクターやモチーフ、構成、すべてノ要素が勝手に決まると言ってもいい。
例えばこの文章のテーマは「創作のわからないをなくして楽しくする」こと。
なのでなるべく簡単な言葉で書こうとしている。勢いで書いてから簡単な言葉に書き換えたりする。漢字でもひらがなでもいい表現はひらがなのままにしている。
何を説明するにも例や体験談から入るように心がけている。数式のような分かり辛い文字列にならずに読む人にイメージを持ってもらうためだ。
あれこれ言う前に最初になぜ創作に必要なのか?知ることで生まれる利点を示すようにしている。
なるべく一つ一つは短い文章、段落でまとめるようにしている。どんなに良い内容でも娯楽小説を読んだ方がおもしろい。なのでせめて読みやすくする。
創作について書いていると厳しい現実に触れてしまうことがある。すべてカットしている。これは創作を楽しむ入門書であって厳しい現実を叩きつけるものではない。
要約すると、読みやすく、楽しく、がテーマが導く指針である。
なので書いていて何か悩んでも「よりわかりやすいのはこっち」「書いたけど読んでてしんどいからカット」「分かりづらいから例や体験談を差し込もう」すぐに判断できる。
作品作りにおいてテーマは設計図だ。きちんと見ればどうすればいいか教えてくれる。どうしようと、迷って答えが出ないと創作は楽しくない。しんどくなる。
書いていて楽しい時って勝手に手が動くと思う。あれこれ考えずに次々に展開やセリフが浮かんできて数千字くらい一気に書いてしまう。そういう瞬間はテーマがすべてを決めてくれているはずだ。そうして出来上がったものはクオリティも高いと思う。ある程度書いている人なら経験があるのではないだろうか。
テーマは小難しく感じるが創作においてもっとも楽しいあの瞬間を作ってくれる。またそうして出来上がった作品のクオリティも高めてくれる。だからテーマは最も大切な要素だ。
ではどうやって大切なテーマを決めるのか。
残念ながら参考書を読んで決まるものではない。星座占いのような大枠に当てはめるとあなたの個性や感覚をとりこぼしてしまうかもしれない。なのでこういう風に探せばいいという概要に留めてお伝えしよう。
まず言えることは真剣になってほしい。自分が真剣に追求できるものであってほしい。得意なこと、経験から探してもいい。なるべくあなたの個性に根ざすものだといい。
参考にするなら分解でも触れたが文豪のデビューから代表作までを順番に読んでみてほしい。だいたいずっと同じテーマで書かれている。舞台設定や恋愛、友情、主人公の年代、そういった軸の違いはあっても何について書かれているか?は一貫している。そうしていろいろなアプローチで繰り返して磨かれたテーマがその作家の核になる。
才能があればなんでも書ける。これは正しい。だけどそんな才能ある人が一つのテーマを深く掘り下げて、何度も扱って、「そのテーマを世界で一番うまく書ける人」になって初めて代表作は生まれる。
作品毎にテーマは変わるものだと思われがちだが、根源的なテーマは変わらない。テーマは経験値をためてレベルアップできるのだ。なので何度も書き続けられるくらいに好きなものをおすすめする。
ここまでだとテーマがなんだか高尚なものに感じるかもしれない。だけど硬いテーマを持つ必要はない。あなたの生涯のテーマが愛でも満腹でも老いでもぷにぷに肉球でもいい。そこに上下はない。上下があるとすればそのテーマをどれだけ深く理解し表現したかだ。
一部の人が共感できるかもしれない愛の詩より、誰もがぷにぷに肉球を触った幸福感をそのまま文字から摂取できる小説の方が絶対いい作品だ。というか最高のぷにぷに肉球小説にはふんわりした詩よりも確かな愛が含まれる。
どんなテーマでも振り切れば必ず傑作になる。なのでテーマはあなたが何を書きたいか真剣に選べばそれでいい。
複数持ってもいいし途中で変化してもいい。一度決めたからといって縛られる必要はない。もちろん書き続ければレベルアップはするのだけれど、だたその時に本気で書いたのならその作品の中には愛や幸福や孤独や尊厳だったり人間が持つ不朽の要素が必ず顔を出してくれる。
まだ全く自分のテーマを掴めないのであればやはりたくさんの作品を読んで分解、比較してみて見聞を広めたり、とにかく書いて発表して読者が喜ぶものから探してもいい。
また色々な経験をするといい。特に恋愛、部活、サークル、SNSで人間と深く関わるといい。または地元や普段の暮らす場所やどこか旅行に出かけた先をゆっくり時間をかけて見て回れるといい。そういうところから見つかるものだ。
あなたが10代、20代ならまだテーマが見つからなくてもまったく問題はない。むしろその年齢からテーマを探しているのならすばらしい。
30代以降なら少し焦ったほうがいい。だけど焦るほどに文芸が好きなのであればもうあなたのテーマはあなたの中にあるはずだ。あとは認識するだけ。
もしもいくら考えても、いくつになってもテーマが見つからないとする。そういう人は「何もない」ことがあなたのテーマだ。そんな人間は極僅かしかいない。何も心を捉えないこの世の中の空虚さ、つまらなさを筆にのせて書ききればいい。私は絶対に読む。
自由に探して、はっきりと捉えて、テーマに合わせて努力する。そうすることが創作を楽しくするし、多くの人が意識してない大きな成長の要素になる。
私はみなさんに名刺を渡したままだ。いつかテーマを持った良い作品をあなたの名刺代わりに渡してほしい。楽しみに待っています。
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