4.作品を知る
あなたは小説を"読めて"いるだろうか?正確に尋ねるのなら、読んだものについてきちんと語ることができるだろうか?カクヨムでもの書きを志す人の多くが出来ていないのではないだろうか。
想像してみよう。レジェンドサッカー選手がテレビで試合の解説している。ゴールが決まりアナウンサーが彼にコメントを求めた。
「鮮烈なゴールが決まった!このゴールまでの流れ!いかかでしたか?」
「なんかすごいキレイでした。右側の方からうまいことバーンってきまってすごいです」
こんな人見たことないはずだ。実際にいたら面白いのだけど。なぜかと言うとレジェンドクラスの人は、というかプロで結果を残す人は自分の取り組む物事に対して深く理解をしている。さらに言うと「言語化」して頭の中で整理している。だからみんな解説席に座ってもすぐに話せてしまう。実績のある人は皆自分の取り組みを言語化して頭の中できちんと整理しているものだ。
「言語化」というと難しい、身近な言葉にしよう。「読書感想文」と言っても良い。なんだかより嫌になった人も多いかもしれない。夏休みの謎課題。手間も時間もかかるし、なによりどうして良いかわからない。
でもその感覚は正しい。なぜなら誰も「読書感想文の書き方」教えてくれてないし、「良い読書感想文」なんてもの見たことない。「読んで正確に理解して自分の感性と照らし合わせて言葉、文章にする」小説を書くのも同じ。「日々感じたこと、体験したことを言語化して自分の感性で文章にする」読書感想文は創作の基礎だ。でも誰も教えてくれない。
なので今から私がみなさんに読書感想文の書き方を教えます。これを読めば夏休みの宿題も怖くない!
(読み進めると本題に入るのでしばらくお付き合いください)
良くない例をまずお見せしよう。
心の底に深く入ってくる話でした。文章もきれいで読み易いです。驚きの連続であっという間に読み終わりました。とまらなかった。
これは本当の「感想」。でも決して悪くはない。感動を文字にして伝えるのはどんな内容でも素晴らしいこと。ただ、読んでる時の自分の話をしているだけになってしまって作品の話をできていない。でも多くの人はこうなるはず。だって書き方知らないなら自分のことを話すしかない。
ここから一歩進もう。キーワードは「分解」
さきほどの例のように読み終わった読後感を"まるまる"文章で著すには小説一本書くくらいのスキルと労力がいる。なんとなく書くと漠然とするし、読んだ作品が素晴らしいのであればあるほど難しくなる。感動していると言うことはそもそも言葉に出来ないような感情が溢れているのだから文字にするのは難しい。なのでまず私達にも扱えるサイズ感に「分解」しよう。
「分解」は例えば序盤、中盤、終盤のように物語を単純に分割してもいい。そこで何が起きたか?どこに見どころがあったか?
序盤は主人公達のいきいきした暮らしが書かれてます。学校のあるあるに思わず共感したり、夏の自然の綺麗な描写が楽しかった。でも物語の最大の魅力は終盤にあります。序盤で感情移入した主人公達が中盤で起きた事件に対してあんな行動にでるだなんて…驚きの展開で、応援しながらも思わず泣いてしまいました。ネタバレになるので多くは語れないのですが読むべきです!!
だいぶよくなった。物語を分割することで分かり易くなることは理解して頂けたと思う。
大切なのは「自分が扱えるサイズ」にすること。小説は想いの塊。大きな想いがこもっているので作者自身も言語化できなかったりする。みなさんもそうでしょう?だから小分けに分解して扱い易い、手のひらに収まるサイズに分けてみてはじめて理解できる。
次により踏み込んで要素で分けて考えよう。より具体的になる。テーマ、文章表現、シーン、キャラクター、構成、など。
この作品は「かけがえのない青春」について書かれてます。夏休みの様子が生き生き描かれていて、帰り道に自転車を止めて自動販売機で飲み物を買って飲むだけのシーンがとても美しく懐かしく感じました。主人公は写真部ですが具体的な活動のない名ばかりの部活に所属してるのに、かけがえない仲間と出会います。そこがよくて大きな目標がないのに彼等がなぜ仲間であるのか、一人一人にしょうもないけど良いエピソードがあって全員好きになりました。「こんな部活いつ廃部になるのやら」っていう伏線が中盤で「学校ごと廃校になることが決まる」っていう回収のされ方は驚きでした。そこで主人公がダメ部活の仲間たちを集めて抗議活動を始めて、その時の真面目に大会目指してた他の部活の生徒や先生達の「なんでお前らが?」っていう反応めちゃくちゃ笑いました。でもだんだん主人公達の熱が周囲に伝わって大きな流れになって。「仲間と共に戦う姿」がこんなにも心を撃つのだと再確認できました。
私が今適当に考えたゆるくて熱い青春小説を読みたくなってきたのではないだろうか?
誠に残念ながらこの小説は存在しない。でも最初にテーマを示して、それにあった文章表現に触れて、キャラクターの魅力、全体の構成にも触れると架空の物語なのに内容を想像できるくらいに分かり易くなったと思う。「分解」して「分かりやすく」する。これが大切になる。
そろそろ本題を話すとこれは夏休みの宿題のスキルではない。作品をきちんと理解して創作に生かすためのスキルだ。
分解してわかりやすくするのは自分のため。良いレビューを書くためだけでなく私たちの創作活動に大いに役に立つ。
どういうことか順を追って説明しよう。
まず優れた作品を分解することでどこが素晴らしいのかを明確にできる。一つに着目すれば言語化は簡単になる。作品に対してぼんやり良かったと感じて自分の作品に生きない。だけどきちんと分解して理解できれば真似ることができる。
また素晴らしい作品でも分解してみると一部には意外と力が入っていなかったり、作者さんの不得意な部分が見えたりもする。そうすると一つの感動できる作品の強みと同時に「どのくらいの配分で感動できるラインに達することができるのか」理解できる。
創作活動は暗い夜道を道しるべもなく進むようなものだ。だけど分解して理解すれば指針になる。これを読む多くの人は今も「創作ってどうすれば良いのか?」悩んでいるのではないだろうか。だけどあなたの好きな作品を分解して理解すれば目的地がわかる。また進む方向やペース配分を理解する人としない人なら前者が確実に早く目的地に着くだろう。
そして本当に大切なことは、この言語化スキルを磨いて"自分の作品"を「分解」して「理解」できることだ。自分の作品を読んで今回は良かった、悪かった、なんとなく感じることはできると思う。だけど明確に理解、言語化できていない人は多いのではないだろうか?
今まで「なんか悪い!」としか思えなかった作品に対してきちんと分解してみると
「構成は~だから良かった。だけど文章表現は前の作品より弱まっていて良くない。普段より長い作品で構成に意識が行き過ぎたかもしれない。なら次の作品ではもっと時間をかけたり、一度書いてから推敲を重ねて文章表現に力を入れてみよう」
こんなふうに自分のすべきことを実に具体的にできる。
さらに作品を「比較」することもできる。「AとBを比べた時にテーマ性やアイデアではAが優れているけど、文章表現や構成ではBがよくて結果的にテーマが弱いのにBの方が良い評価になってる」様々なサンプルを集めて良い見本を探せる。
他にも例えば似た作品を比べて「何が優劣に影響する」のか、違うジャンルの傑作を比べることで「傑作に共通する点」を知ることもできる。
おすすめは一人の好きな有名作家のデビュー作、代表作、最新作を読んでそれぞれを「分解」「比較」することだ。作家がデビューするライン、作品を重ねるとどう成長するのか、その人が持つテーマ性の変遷を知ることができて「作家のキャリア」をより具体的にイメージできる。
また有名な作家さんであれば作品や作者名で「〇〇 評論」で検索すれば世の中での評価も確認できるので、自分の考え方と世の中の評価の違いも確認できて一石二鳥だ。
注意点として今回例に出した分解項目は私がよく意識しているものであり、小説の要素はもっと細分化したり、反対にもっとざっくりさせることもできる。例えば「シーン」は「構成」の中に含まれていると言えるし、「文章表現」は語彙、文法、装飾性などより細分化することができる。これが正解というものではなくて、小説のジャンルや作品性や自分のスキルに合わせて分解する要素を調整することも作品を知るうえで重要になる。
もしなんとなく理解はできたがすぐには実践が難しく「分解」の練習がしたいのであればそれこそカクヨムで読んだ好きな作品をレビューしてみてほしい。この要素がこういう理由で良かったです!みたいに要素に分けて捉えて批評する。また最初は簡単に序中終盤で捉えてもいい。自分に扱えるサイズ感を確認して少しずつ捉え方を学んでみてほしい。
もちろん作者さんには敬意を払い作品をより多くの人に楽しんでもらえるように書くべきだが、それだけでなくレビューは自分の力にもなるのだ。
「分解」で扱いやすく分かり易くしたうえで、「比較」して創作活動で進む方向性を知る。ぜひ試してほしい。
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