2.創作の態度

態度が悪い、なんて人に向ける言葉ではない。だけど自分には向けるべきである。


こういうことがあった。


「君はデザインやめるべきだね。以上です」

人伝ではあるが在学中に聞いた最も切ない批評である。


学外企業が協賛した家電雑貨のコンペがあった。LOFTで売っているようなおしゃれなトースターとか可愛いスピーカーとかそういうイメージのものを、デザインを学ぶ若い学生の視点で提案してほしいという趣旨のものだった。


1人の熱い生徒が奮い立ちイマジネーションを走らせた。彼は新しい照明を提案した。カーテンと照明を一体化させるアイデア。


「窓から入る自然な明かりは誰でも心地よい。それなら照明も窓から照らしてみてはどうだろうか?」私は今でもこの考え方いいと思う。カーテンである必要はないかもしれないけど。


彼は数日前に思いつき急いでアイデアをボードにまとめて、見本を作った。貧乏な学生のサイフから出たのは、シャワーカーテンに家庭用イルミネーションライトを取り付けたものだった。


彼はそれを現役デザイナーである教授の前に出してプレゼンを行った。必死に準備したせいで寝ていないぼんやりした頭で頑張ったのだと思う。


プレゼンが終わると教室には長い沈黙が訪れた。30秒、誰も口を開かない。そして1人の教授が他の教授と申し合わせることもなく先述の言葉を言った。その短い言葉が評価のすべてだった。


まず最初に私は彼を尊敬している。短い期間にも関わらず自分の可能性を信じて行動した。私はそんなコンペがあることも知らずに過ごしていたのだから。それに彼は其の後きちんとデザイナーとして就職したと聞いている。


ではこの件の何がいけなかったのか?考えてみよう。


やはり見本、次に体調、最後は対話


見本がチープ過ぎた。評価する人が普段どんなものを見ているか?想像するべきだった。これはプロのデザイナーの前に出すべきではない。そう思って見本はなしで良かったのだと思う。


体調も重要なことだ。あきらかに寝てない人の言葉に説得力はない。


そしてすべてにおいて最も大切だったことが対話だ。最初にこう言えば良かったのだと思う。


「事情がありこの素晴らしいコンペを知ったのは最近でアイデアを思い付いたのは3日前でした。しかしこのチャンスにいても立ってもいられずにここにきました」


そう伝えるだけで変わった。ちなみにプロデザイナーの感性ではそれでもこっぴどく怒られはする。万全ではないものを人に見せるなと。でも「やめろ」ではなくて評価はきちんともらえたと思う。


さてここまで読んで怖くなった人がいるかもしれない。彼は一生懸命で悪気はなかった。自分も創作してるうちにそうなるかもしれない。


だけど安心してほしい。簡単に解決する方法を教える。長い間デザインの話をしていたが創作物を小説に戻して話を進めよう。


あなたはものを書くとき、読者を思い浮かべているだろうか?

ひらめいたアイデア、凝った構成、綺麗な文章表現に気をとられて自分本位になっていないだろうか?


どんな話の流れにしよう

どうすれば面白くなるだろう

ここはどんな言葉で書こう


その時に読む人の顔を思い浮かべているだろうか?

そこを大切にすれば全く変わる。


より具体的でわかりやすくしよう。


「読者と友達になろう」とする。

それが私が思う創作者の態度として最も適したものだ。


作品をあなたと読者の会話なのだ。難しく考えずあなたは読者と友達になりたいと思って考えればいい。明日仲良くなりたい人と初めてと出かける。何を話そう、何を着ていこう、どこへ行こう、何を食べよう。そんな気持ちで書く。


この展開で驚いてくれるだろうか?どうすれば笑ってくれるだろう?泣いてくれるだろう?どんな言葉で話せば伝わるだろう?


友を想うようにして生まれたあなたの作品は決して読者を不快にさせはしない。どんどん作品を良くしていく。


そうすれば実際に友達になる人もいるだろう。毎回あなたの作品を読んで暖かい言葉を返してくれる、そんな友情を育てることができるかもしれない。その友の声によく耳を傾ければいい。


また友達とはケンカしてもいい。私はこう思う!読者を想ったうえであれば強い意見をぶつけたり、読者の意見を否定してもいい。本当にあなたがきちんと相手を思うならきっと信頼に繋がる。


そして同じように「こいつとはやっぱり友達になりたくない」と思ってもいい。読者の全員が良い人ではない。読んで嫌な言葉を言う奴もいるだろう。自分の意図からはずれたところで騒ぐ奴もいるだろう。あなたは友達になろうとしたのに、嫌なことをする奴は無視すればいい。


友達を想うように創意工夫をして作品を作り、それを読み向き合ってくれた読者には思いやりを持って自由に接する。私が思う創作の正しい態度とはそういうものだ。少なくとも私はそうして楽しく創作をしている。


今もそう。創作の態度なんていう硬いタイトルで身構えさせて、頭に浮かんだ最も厳しいエピソードを見せて萎縮させ、最後に「友達になろう」という柔らかい言葉で包み込み優しい印象付けをして、あなたの心を懐柔しようとしている。


私は悪い友達かもしれないが、あなたのことを想い書いている。なのでどうかこの先もどうぞお付き合いください。

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