第2話 コロンブス、イサベル女王と出逢う

……ユリウス暦1486年 5月………


コロンブス達はコルドバにてついにカスティーリャ王国の国王と女王に謁見する事が出来た。

三兄弟はまず、王宮礼節に基づいた挨拶と自己紹介をした。


そして、コロンブスはメディナセリ公の推薦状をカトリック両王に見せた上で熱弁を振るい、説得を試みた。


コロンブスのその熱意は凄まじく、見識の高さで聞く者を圧倒した。

また過去の歴史を引用した海路知識も豊富で、高度な学術によって占星術に基づく的確な地学を披露した。


地位も爵位も無い一般人がここまで知見深いのか?!

と、聞いてる者達を皆驚かせた。


ここ、カスティーリャ王国【後のイスパニア王国・スペイン】の国王、アラゴン王ことフェルナンド二世も当初、コロンブスの提案に難色を示した。


しかし、妻であるイサベル女王はこの提案に対して非常に興味を持った。

【※5】


イサベル女王は天然螺旋髪リサドの超美人で、さらに極めて知性的で政治学があり、人に対しても一人一人を大事にする優しさを兼ね備えており、領民からもとても評判が良かった。


その世界観は反クラウディオス・プトレマイオス、肯アリスタルコス派であり、この地は丸く太陽を中心に自ら動いている物だと考えていたので、コロンブスの提案が荒唐無稽こうとうむけいであるとは思わず、むしろ高い確率で成功すると踏んでいた。


イサベル女王はコロンブスに向かって言った。


“そうか資金が足りぬと申すか。

何ならわらわの身に付けている宝石を売って其方そなたの航海資金を準備してやろうか?”


これを聞いて、王・大臣等を含めた周りの臣下は慌ててそれをいさめた。


国外からやってきた爵位無き一般一市民に対して、そこまでしてやる義理は無きに等しいからであった。


結論は司教兼大臣であるエルナンド・デ・タラベラが主催する議会によって決める事となった。

【※懺悔聴聞師】


コロンブス企画を採用するかしないかで、議会は検討に検討を重ねた。


討論デバテに数年をかけたが、やはり成功するかどうかは運頼みな点、再征服活動レコンキスタにより自国が他国と戦争中であり、外洋探検に国家財産を割く余裕が無い点等で長く論争になり、議論は長引く一方だった。

【※】


途中、議会参加員から幾度も


“取らぬ狸の皮算用とは正にこの事だ。

やはり取り止めよう”


との声も上がったが、イサベル女王はその度に


“結論を出すにはまだ早過ぎる。

今少し熟考せよ”


と言って、会議を引き延ばした。

【※ラビダ修道院】


………ユリウス暦1492年1月………


国王フェルナンド二世がようやくナスル朝グラナダを陥落させると、カスティーリャ王国王政政府はそれまでの王宮を異動してアランブラ宮殿パラスィオ デ ラランブラに移り住んだ。

【※】


そして、国内情勢に余裕が出来た。

それと同時にコロンブス企画を採用しようという意見が強まり、やっと企画が通された。

【※】


その際、コロンブスが持ち帰った交易品や財宝の類い等の分前はコロンブスの取り分が10%、カスティーリャ王国に納める分が90%となった

【※】


イサベル女王は資金集めの為、当時カスティーリャ王国で最も人口の多かった都市バレンシアに目を付け、銀行家をあたってみた所、出資可能と相成った。

【※】


その資金を以てコロンブスの船や航海資金、水夫、水及び食料、現地での交換用交易品等を準備した。


……ユリウス暦1492年7月2日…


この日、アランブラ宮殿にてカトリック両王の間にコロンブス三兄弟は招かれた。

宮殿は内も外もイスラム時代の名残で古代中東の美しい造りであった。


王の間の大扉の前でコロンブス三兄弟は待機した。

その後、大臣より開門の命が下った。


タラベーラ大臣『クリストーバル・コロン殿!!!

バルトロメ・コロン殿!!!

ジャコモ・コロン殿!!!

参られよ!!!』


(ギィィィィ………………)


アランブラ宮殿の王の間の重い大扉が開く。

まず、長男であるコロンブスが前に進み出て、後の兄弟達はコロンブスの後に続いて玉座の方へ向かった。


間に美しく何処か物悲しげで落ち着く感じのリュートの音がゆっくりと響く。

再征服活動レコンキスタによる死者の魂を慰めんとしているのだろうか。


三人はカトリック両王が居座る玉座の前でひざまずいた。

フェルナンド二世は三兄弟達に向かって言った。


フェルナンド二世『よくぞ参った。

海の勇者達よ』


コロンブス達は頭を下げた。


コロンブス「ははっ………!

御機嫌麗しゅう御座いますか陛下。

この度は我々の様な下賤の者に対し大規模な航海の準備をして下さり、まことにまことにありがとうございました。

陛下の御恩寵に感謝致します」


フェルナンド二世『余ではない。

余はそれ程乗り気ではなかったのだ。

我が妻、イサベルが其方そち達を推したのだ。

礼ならイサベルに申せ』


コロンブス「……はっ………!」


イサベル女王はにこやかな笑顔でコロンブスに言った。


イサベル女王『久し振りじゃな、コロン』


コロンブスは超美人で優しくて賢く自分を支持してくれるイサベル女王が心から好きであった。

そのイサベル女王を見て嬉しそうな顔で答えた。


コロンブス「お久しゅう御座いますな、イサベル女王様!!」


イサベル女王はコロンブスと後ろの兄弟達に対し、申し訳がなさそうに陳謝した。


イサベル女王『其方そなた達を本当に待たせてしまった。

コロンが申請してからこれ程までに年月が経ってしまえとはのう………。


これはわらわの力不足であった。

本当に申し訳なく思っておる。

相済まなかった。

心から詫びよう』


イサベル女王が頭を下げた。

それを見て三兄弟は動揺した。

中でもコロンブスは取分け焦って答えた。


コロンブス「女王様!!!

私目如きに勿体無き事に御座います!!

頭を御上げ下さい……!」


イサベル女王は頭を上げコロンブスを見て言った。


イサベル女王『何はともあれ、ようやっと此方達こなたたちの航海準備が整ったのじゃ。

これでやっと此方こなたも悲願通りの大航海に出れるという訳じゃ。

まあ、まずまずじゃな』


コロンブス「ははっ………!

ここまででようやく出発点で御座います。

ここからが愈々いよいよ本番!!

島や大陸を発見出来ねば意味が御座いません」


イサベル女王はうなずいた。


イサベル女王『うむ………。

わらわも心から其方達そなたたちの航海の成功を願っておる。

出港は来月始め頃になろう。


それまでにしっかりと準備を整えて置くが良い。

何か聞いておきたい事はあるか?

コロン』


コロンブス「はっ!

我々が乗る船が一体どんな艦船なのか、知りとう御座います」


イサベル女王は大臣に向かって言った。


イサベル女王『ドン・タラベラ』


タラベラ大臣『はっ!!!』


イサベル女王『企画に一番詳しい主催者である其方そち案内あないしてやってくれぬか?』


タラベラ大臣は了解した。


タラベラ大臣『承知致しました』


タラベラ大臣はコロンブスに向かって言った。


タラベラ大臣『船はサルテス川の河口にある。

馬車で行こう。

私が案内あないする』


コロンブス「分かりました!!

お願いします!」


こうして、コロンブス三兄弟はタラベラ大臣に連れられて馬車に乗り込み、サルテス川へ向かった。


【第話 注釈解説】

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コロンブス 〜Esclavista〜 小説家ずんだもん【ひろみ】 @NovelistZunda

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