コロンブス 〜Esclavista〜

小説家ずんだもん【ひろみ】

第1話 爵位も地位も無きジェノヴァから来た無名の航海士

スペインの王宮史にはこう記されている

ー1492年 無名の航海士クリストーバル・コロン【※1】 イサベル女王陛下の援助を受けサルテス港を出港し、カナリア諸島に一旦停泊し、その後ゴメラ島より只管ひたすら西へ西へと進み、後に1128リーガ離れし西方の彼方より未確認の島々を発見せり。

彼の地をコロンの名を取り『コロンビア』と呼称すー


 ………ユリウス暦1484年 末………


ジェノヴァ出身の爵位も地位も無き一般人航海士、クリストファー・コロンブス【カスティーリャ語は、クリストバル・コロン】は、弟バルトロメ、そして下の弟ジャコモと共に、各国欧州王宮へ自らを売り込んだ。


“大洋を西回りに進んでアジア地方へ行けるルートがある。

上手く行けば、金や香辛料等の大量貿易が可能となる。


だが、船を買う金も水夫を雇う金もない。


誰でも良いから俺達を信じて資金提供者フィナンスィアドーラにならないか?

儲かったら俺達の取り分は20%で良い”


という内容であった。

【※2】


その際、あわよくば黄金の国ジパングに辿り着き、金塊を発見して大儲けをしようと躍起になっていたが、中々後援者パトロスィナドールになってくれる者は現れなかった。

【※3】


内容が内容(大事業)なだけに、ほぼ資金が潤沢な欧州王族や有名貴族に絞って話を持ちかけたが、誰も相手にしなかった。


成功よりも失敗に終わるリスクを鑑みれば、当然の結果であった。

【※4】


………ユリウス暦1486年 初頭………


コロンブスは兄弟達と供にカスティーリャ王国【後のイスパニア王国・スペイン】へ行き、現地の修道院を幾つか訪ねカトリック神父達に相談した。


“自分達はどうしてもこの事業を達成したい!

だが中々融資を受け付けてくれる者が現れない。

何か良い方法はないでしょうか?”


すると神父達はコロンブス達にいくつか思いつく高名貴族達を紹介した。

コロンブス達は其れ等の家々を隈なく訪ねて行った。


やはり、ここでも高名貴族達は中々取り合わなかった。

しかし、その中で唯一、メディナセリ公だけは特に冒険・探索航海業に興味を持っていたので、コロンブスの弁舌を明るい顔で良く聞いた。


そして、メディナセリ公はコロンブスの話を聞き終えると彼に向かってこう言った。


メディナセリ公『なるほど………!

よく解った。

大変興味深い話であるし、私もそなたへの資金や船の融通はやぶさかではない。

実は、私も西の海の果てには一体何があるのか気になっていたのだ』


コロンブスは兄弟達に振り向き(やったな!)と喜びの笑顔を見せた。

バルトロメとジャコモも期待に胸を膨らませた。


だが、メディナセリ公は続けてこう言い放った。


メディナセリ公『しかながら、これは国家事業ではないのか?

未知の海路を突き進み新たな陸地を発見するまで延々と航海するとなると、かなり大規模な資金・船舶・人材・食料が必要となる。

私個人の預金では、たとえ全てはたいたとしても準備出来る船や人員、食料はたかが知れてるぞ』


コロンブス一行は顔が暗くなった。


コロンブス「………………う………」


メディナセリ公『こういう事はそれなりの準備という物が必要なのだ。

私がここ、カスティーリャ王国のカトリック両王、すなわちフェルナンド二世様とイサベル女王様を紹介しよう。

彼等ならきっと、申し分ない程の航海準備をして下さるはずだ』


コロンブス達は驚いた。


コロンブス「ええっ!!!

カスティーリャ王国の王様と女王様を御紹介して頂けるのですか?!

それは願ってもない事です!!!」


バルトロメ『渡りに船だ………!』


ジャコモ『あっ、ありがとうございます!!』


メディナセリ公『うむ。

そなたが直接王宮へ入ろうとしても爵位が無きゆえ、門番に塞がれてしまうであろうが、私の紹介状を持ってコルドバの王宮へ行けばきっと通してくれるであろう。

私がそなた達を推薦した内容の手紙をしたためるゆえしばし待たれよ』


コロンブスはメディナセリ公に感謝した。


コロンブス「ありがたき幸せ!!!!

感謝しますぞメディナセリ公!!

でも何故、貴方は私達に協力して下さるのですか?

今までどの国の誰にに申し込んでも拒否されていたのに………」


メディナセリ公『聖書の有名な箇所があろう………』


メディナセリ公は聖書を開いて言った。

【※】


メディナセリ公『[7] 求めよ、そうすれば、与えられるであろう。捜せ、そうすれば、見いだすであろう。門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう。


[8] すべて求める者は得、捜す者は見いだし、門をたたく者はあけてもらえるからである。


[9] あなたがたのうちで、自分の子がパンを求めるのに、石を与える者があろうか。


[10] 魚を求めるのに、へびを与える者があろうか。


[11] このように、あなたがたは悪い者であっても、自分の子供には、良い贈り物をすることを知っているとすれば、天にいますあなたがたの父はなおさら、求めてくる者に良いものを下さらないことがあろうか。


[12] だから、何事でも人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ。これが律法であり預言者である。

〚‭マタイによる福音書 7:7-12〛


とな。

私の家は代々信仰深い家柄なのだ。

だから律法に従いしたまでの事だ』

【※】


コロンブス「ありがとうございます。

メディナセリ公にも良き祝福が与えられん事を!

アーメン………」


バルトロメ&ジャコモ『アーメン………』


こうして、コロンブス一行はメディナセリ公の紹介状をたずさえてコルドバの王宮へ向かった。

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