第40話 お目が高いのか安いのか

普通の生活が続く学校生活、一年二組はなんの事件もなく、本当に楽しい日常が送れている。


「あまりにもさ、クラス長としての色が薄すぎない?」


ふと思った。

クラス長らしいことが全くできていない。


でも、そりゃそうなんだ。

"クラス長"は名前の通りクラスのおさ

クラスが平和なら、なにも動く必要はない。


修学旅行のようなどこか遠くへ行くイベントがあろうものなら結構まとめ役として動く必要があるかもしれないが、一年は学校内で完結する行事しか存在していない。


「なんもないって別に良いことじゃんか。」

「そうだぞ、暇でなんぼっしょ........。」

「いや、まあそうなんだけどさ。」


部活動や生徒会だったらなにか大きなイベントが起こりそうな予感もするが、案外クラス長という仕事は単純なのである。


部活動なら大会にむけての練習、生徒会だったらより良くするための学校に対する改革。

どれもドラマチックかつ、一つの展開がとても濃く深くアツいものとなっている。


一方クラス長がする主な仕事は"集会時の生徒の点呼"、そして"帰りの会"だけ。

アツいもへったくれもありゃしない。

ちゃんとクラスメイトは集会に参加するし、帰りの会もしーんとした空気で聞く。


「もっとみんな暴れてくれよ!」

「クラス長が事件求めんなよ。」


クラス長としての自覚が芽生えたいま、クラス長らしいことを求めたくなってしまっている。

なにか転がっていないか、今の俺のやる気なら恋沙汰から事件まで何でも取り扱える。

今澄んだ十二月の空、いや数十光年先の星にさえ手が届く気がするんだ。


「じゃあ、目安箱とか作れば......?」

「二釈...それだ!!」


俺は二釈の大きな肩をもみ、感謝の言葉を伝えながら早速目安箱の設置場所を考える。


「てかクラス長一人の問題じゃないだろ、瀧田さんの許可も一応貰わないと。」

「あぁ、そっか。」


隣で次の授業の予習をしている彼女の机をトントンと叩き、先ほどまでの説明を一気にすると彼女は少し考えてから頷いた。


「いいよ、私の出番増えるなら。」

「おっ、いいの!?」


出番がなんちゃらはよくわからなかったが、許可をもらったので今日の六限の終わりに、教師を呼びに行くとき職員室で話を付けに行こう。

まさか、今まで全く意味の分からなかった六限目の後、職員室に担任を呼びに行く行為が意味を成すとは。



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その日の帰りの会


「というわけで、後ろのロッカーの上に目安箱を設置しました。」

「した。」


「クラス内でできるアップデート的なのを書いていただいて、見つけ次第発表していきたいと思いますので、よければドシドシご応募ください。」

「さい。」


とうとうクラス長らしさを見せられる時が来た。

これで地味な仕事なんて思わせないぞ。


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数日後


「一切来ねえ!」

「まあ、これ以上ない平和だからな。」

「そうなんだけどさぁ。」


そりゃそうだ。

4月から始まって半年以上このクラスにいて、大きな事件が一切ないんだからこれ以上求められるものなんてない。


「あと、先生に言えばいいしな......。」

「そう...って二釈が提案してくれたんじゃんか!」


二釈はそういえばそうだったと言う表情で微笑む。


「てか、新しいもの出来たら興味示さない?」

「最初の最初はちょっと集まってたじゃん。」

「ほんと一瞬ね、掃除の邪魔になるからすぐみんな捌けたけど。」


誰にも言ってないが、その数分はとてもワクワクした。

正直みんなから褒められるとさえ思った。

小さな木箱にぞろぞろ集うクラスメイトを見てここからなにかより良くなっていけばいいと、ただその思いだった。


「それにしても綺麗な目安箱だな。」

「あぁ、あれ中学の時授業で作った木製ティッシュケースなんだよ。」

「...にしては口が小さくないか?」

「そう、引っかかるからすぐ使うのやめたよ。」


そんな五百円専用貯金箱みたいなティッシュケースがようやく使える時が来たと思ったのに蓋を開けてみたらこのザマ。


「どうしよう、ウキウキで置いたのが恥ずかしくなってきた。」

「ここで無駄に撤収すんのは余計に恥ずかしくなるだろうから辞めとけ。」


掃除をする生徒や居残りをする生徒などの誰よりも遅く帰って中の確認しているせいで最近はいつもの二人とも帰れていないし、いつもより一本早いバスに乗ってだれよりも早く学校に来て中の確認しているせいで授業はずっと眠たい。


「もう誰かパクっていってくんねーかな。」

「誰が持ってくんだよ!」


正直、あんなに愛しかった目安箱が今はパンドラの箱に見える。

取り返しのつかないものを生み出してしまった。


「まあ、アレに固執しなくてもいいんじゃないか。」

「...うーん、まあそうだな。」


仲田のその言葉でなにか憑き物が取れた気がした。

俺はその日、初めて確認をせずに三人で帰った。


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次の日


「あーやっぱ気になる!!!」


だれよりも早く教室につきロッカーの隅で佇む木箱を拾い上げて素早く横に振る。


「...!?」


カラカラと明らかになにか入っている音。

心の底に残っていたほんの少しの期待が一気に沸き上がった俺は、鼻息を荒くしながら中身を取り出した。


「...これは。」


ガラガラガラ

音の先を辿り、教室のドアの方を眺めると俺が持っている手紙の主がそこに立っていた。


「...澪島さん。」

「あ、手紙...読んだ?」


俺は縦に頷き、彼女に近寄ると目安箱を手渡した。


「...え、いいの?」

「うん、それにしてもびっくりしたよ。」


"五百円貯金箱の代わりになるものを探しているのですが、最近クラス長がこの目安箱を撤廃したいと聞いたので良ければいただけないでしょうか。"


「ちょうど妹のクリスマスプレゼント代を貯めるための貯金箱を探していたの。」

「まあいいよ、誰も使って無いしもうみんな記憶の片隅にも残ってないだろうし。」

「うん...」

「うん...って言うなよ!」


自分で紙に書いてみたもののやっぱり少しためらう彼女。


「でもやっぱ目安箱が無くなるのは...」

「まあさ、元々クラス長らしさを出したいって理由でカッコつけるために始めたんだから、これでカッコつくならお安い御用って感じで。」


あとなにより、これを置き始めたせいで朝も帰りもキツいから誰かにわたるのは本当にありがたい...

...という思いは胸にしまいながら彼女にプレゼントをしたクラス長は、朝のホームルームまでの数十分ぐっすり寝た。


その日の昼休み


「なんとなく分かってたけど、本当にみんな目安箱が無くなったことに気づいていないと流石にちょっと傷つくな。」

「まあ、そっちの方が都合良いじゃん?」

「それにクラス長はそのまんまで充分良いよ........。」


一週間と一日だけ置かれたその目安箱は、誰の何の不満も拾い上げることなく仕事を終えた。

一年二組の二は平和ピースを表しているのかもしれない。

そんなことを思った私、クラス長であった...。



「あれ、たきだの出番は...?」



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どっかのクラス長 佐久間 ユマ @sakuma_yuma0839

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