第39話 ガチャッと回してキュンと出る。

「あのさ、小さいペットボトル両手で持つ女の子可愛くない?」


昼休み、また仲田が何かを言い始めた。

どうやら昨日学校の帰り、近所の公園のベンチで身体を縮こませながら両手でホットレモンを転がす女子を見てキュンとしたらしい。


最近、九時からやっている恋愛ドラマの影響か、仲田の話題はそういう話が多い。

正直恋愛とはほとんど無縁の自分と二釈からしたら遠い存在過ぎる。


「わかるぞ仲田......。」

「えっ。」

「おお二釈、分かってくれるか!」


そう言えばそうだった、彼は彼でそういう恋愛ゲーム見たいなものをやっているタイプだった。

となると、この話の波に乗れていないのは自分だけということになる。


....マズい。

勉強や運動での能力差はあまりなんとも思わないが、恋愛という存在に置いて差がつくのは、少ない量でも死ぬほど置いてかれた気分になる。

いずれその差が開きすぎて話が合わなくなる可能性も....。


「クラス長はなんかある?」

「え...あ、あぁあるよ。」


やばい...。

小学生の男女が手をつないで帰っている姿ですら眩しい自分にとっての胸キュンシチュエーションってなんだ....。


あーダメだ、頭がガチャガチャして何も出てこない。


「クラス長....大丈夫か......?」

「ガチャ...ガチャとか回す姿かな。」


あぁ終わった。

絶対ないもん。


ガチャガチャ回してる女の子にキュンとする要素がない。


「...わかるぞクラス長!」

「あぁ、無邪気な感じがな......。」

「え?」


嘘だろ、なんか上手くいったぞ。

こいつらのストライクゾーンが広いだけか?


「そ、そうそう無邪気な感じ。」

「じゃあさ、なんのガチャ回しててほしい?」

「あぁ、それ大事よな.........。」


...は?

なんのガチャでも同じだろ。

まあでも、ここは無難に人気の可愛いマスコットキャラの名前とかで何とか乗り切れそうな....


「マスコットは逆にないよな.......。」

「わかる、無難過ぎてキュンとはしないよなー。」


まじかよ。

...え、じゃあ何出せばいいんだ?

てかよく考えたらガチャガチャって何の種類があるんだ......?


まあでも黙っていても怪しまれる......なんか最近見たやつ、最近ショッピングモールで見たやつ...。


「え、あのー...リアルな爬虫類みたいなやつ。」


ダメだ、あまりにも思い付きだけで変なこと言ってしまった。


リアルな爬虫類...?


え、俺リアルな爬虫類のガチャ引く奴にキュンキュンする人ってことになった?

今後やっていけねえよこの二人と。


「あー爬虫類......!」

「可愛すぎるわ、そんなん集めてたら。」


あぁ、こいつらのストライクゾーンが変なだけだ。

牽制球がストライクゾーンだわ。


「ガチャやってる子ってさ、部屋の内装もこだわってそうだよな。」

「わかる、色んなところに飾ってな......。」


いや怖いだろ、仮に好きな女の子の家行ってリアルな爬虫類のおもちゃいロンなところに飾られてたら。

電気消したら視線感じまくるだろ。


「いやー、二人とも"分かる"男でよかったよ。」

「これで友情は不滅だな........。」

「お、おう...。」


ダメだ、全くついていけない。


......その日の委員会。


「クラス長。」

「瀧田さん、どうしたの?」

「この前ガチャガチャしたんだけどね、コモドオオトカゲがダブっちゃったから上げる。」


...え、コモドオオトカゲ?

え、あの瀧田さんが爬虫類のガチャを回したってこと?

しかもダブってるって言ってたから二回以上引いてるよな.......。


おかわりしてるってことはかなりワクワクして引いてるはず....。


「あ、ありがとう。」

「またダブったら持ってくるね!」

「お、おぅ....。」


なんとなく二人の気持ちが分かった。


そんでやっぱり夜、視線を感じって眠れなかったのであった。

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