10.

「こ、これはちがう·····」


泣きそうな顔で、ゆるゆると首を横に振る子狼に、違うものかと言い返そうとした時、「口を出すのはいかがかもしれませんが」とオーナーは前置きをし、


「騒ぎを駆けつけた時、ジルヴァ君は可愛らしい獣でしたよ。剛田ごうだ君に手伝ってもらいながら、私の部屋に連れて行った時に、急に人の姿になりましたから、びっくりしましたね」

「しょーやさまをしんぱいしてくれましたから、やさしいひとです!」


「ごうださまはこわいので、おおかみのままです!」と、小さな両手を上げて、得意げな顔をするジルヴァの発言に、耳を疑った。

それは、つまり。


「玖須君基準で、玖須君のことが大好きなのですね」

「はいっ!」


その場に立ち上がって、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる無邪気な姿に呆気に取られていた。

誰からも憎まれて、必要とされてないと思っていたが、こうも真っ直ぐに言葉だけじゃなく、小躍りしてしまうぐらい嬉しいと思ってくれているだなんて。

頬に温かいものが伝う。


「あーっ! しょーやさま! どこかいたいところがあるんですか!」

「玖須君、大丈夫ですか?」


二人が心配の表情で覗き込んでくるのを、知らぬ間に泣いていたことが恥ずかしくて、顔を布団で覆った。

その布団の下では、自然と口元を緩ませて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る