7.

「しょーやさま、かさをおいてきてしまいました……」


ジルヴァの目線を合わせようとしゃがんだ時、しょんぼりと耳を垂れさせていた。


「……そんなことよりも、俺、家に出る前に言ったよな? 外に出てはいけねーって」

「はい! でも、ぼくをひろってくれたときから、ずっとかぜをひかれているようなので……」


端々から怒っていることが肌に伝わっているのだろう、しどろもどろになっているジルヴァに、出かかった言葉を飲み込んだ。

たしかにあの日から、元々体調が芳しくないというのに、さらに悪化している。が、寝込んでいるわけにもいかなかった。


「……俺のことはどうでもいいだろ」

「どーでもよくないです! それで、そのままなくなったご主人さまがいたので……」

「……俺は、そこまでヤワじゃない。それに、働かないと生活がままならないんだ……っ」

「けどけどっ! ぼくは──」

「いいから、早く帰れ!!」


暗くなり始めた雲に届くほどの怒声。

カッと血が上り、頭がふらつく。

ジルヴァの小さな肩が大きく震え、今にも泣きそうな顔を向けるのを、遅れて気づき、ハッとする。

俺が一番嫌いなことをしてしまった。

けれども。何もかも逸らすかのようにジルヴァに背を向け、仕事場に戻ろうとした時。


ぐらり、と視界が大きく揺れる。


「しょーやさまっ!?」


地に思いきり叩きつけ、痛みで顔を歪ませる祥也の元に、悲鳴混じりのジルヴァの声が聞こえた。


しかし、返事もままならないまま祥也は、暗い海の底へと沈んでいった。

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