5.

まっすぐに行けず、千鳥足のような、危うい足取りをして、ついには転んでしまった。


「大丈夫か!?」

「だ、だいじょーぶ、でしゅ……」


上半身裸であるのを気にせず駆け寄ると、顔を上げる。

涙目となり、擦りむいたらしい鼻辺りを抑えていた。


「ご、めん、なさい……どうか、おじひを……」

「……っ、謝ることじゃないだろう。·⋯⋯起きた時に、見知らぬ奴が家に入ってきて困惑しているってのに……」

「えっ!? きのう、たすけていただいた、ジルヴァなのですがっ!」

「は……? あの、ポメラニアンみたいのが?」

「……いちおー、おおかみ、です……」


見るからに落ち込んでいるジルヴァと名乗った男の子を、どうにか宥めようとした時、「いいんです……」と萎んだ声をした。


「……ぜつめつぎぐゅしゅの、ぼくたちおおかみは、やさしくしてくれたひとのまえでしか、ひとのすがたになれず、ひとさまのいうことしかきけない、ポメさまいかのしゅぞくに、なりはてたので……」

「ポメ様……」


色々とツッコミたくなるし、非現実的なことに頭が追いつけずにいるが、これだけは分かる。

この自己肯定感がかなり低く、嘆いているさまは、自分と全く同じだと。

一番に自己肯定感を高めてくれていた人に、ある日突然、何もかも否定されまくって、何もかも自分が悪いのだと責めている自分を見ているかのようだ。


「……ジルヴァ」


ぽろぽろと泣き出す小さな狼に、そっと手を頭に乗せた。


「……お前は何も悪くない。どうにか生きようと工夫してきたのだろう。ポメラニアンなんか、愛嬌を振りまくだけで、着替えの手伝いとか朝食の準備とかしないし、お前、の……──!?」


目にいっぱい溜めた涙を零し、嗚咽を漏らしていた。

何か余計なことを言っただろうか。

狼狽えていると、「ごめんなさいっ!」と声を上げた。


「いままでの、ご主人さまにいわれたことが……なかったので……うれしくて……っ」


涙声になりながら 一生懸命に言うジルヴァの姿に、気づけば抱きしめていた。


「……ご、主人、さま……?」

「あ、いや……これは……」


自分でしたことに驚き、慌てて離れようとしたが、コアラのようにくっついて離れず、嬉しそうに笑うものだから、小さな身体をそっと抱きしめるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る