最終話 みなで星に願いを

 流星群が空に流れる前日。馬新零夜は集会場にいた。

 族員の群衆に向かっているのは、若菜と加奈子だった。

 若菜は人差し指を天に向けた。


「お前ら、総長のために流星群に願おうじゃねえか」

 馬鹿げた話だと思う。事故で今も苦しんでいる総長のために、何を願おうと言うのか。

 しかし、全員本気だった。本気で神がかり的ななにかを期待し、葵のことを想っている。

「はい‼」


――――――――――――――――――――――――――――


 翌日の夜。

 バイクのコール音が聴こえる。

 今夜も大炊と一緒にいる。病室の外からひたすらにバイクの轟音なコール音、ラッパ音が響いている。


「小さなコール音だな」

 私は嘲笑った。どこの族だろうか。

 しかし大炊は真剣な顔で、


「いや、立派だよ。まるであのとき君が言った五十万人のコール音のようだよ」


 私は反射的にそんなわけない、と思った。しかしそう思わせてくれていることは彼の温かい優しさを如実に感じる要因だった。

 そう思うと、また泣けてきてしまった。もう、今の私には族にいたときのような強さはない。


「・・・・・・あれは」

 大炊は窓を開ける。空にはマゼンタ色の流星群が流れていた。

「流星群、だね」

 私がそう呟くと、彼はこちらを見て微笑んだ。

「一生分の願い事を、君に捧げるよ」

 その言葉が、天に届いたのだろうか。

 気づくと私は意識を失っていた。


―――――――――――――――――――――――――――


 中学二年生の時の光景だ。


「五十万人のコール音、聞かせてやるよ」

 私が彼にそう宣告したとき、彼は首を振った。


「いや、僕は君と一緒の学生生活を送りたい。ただそれだけだ。コール音なんてどうでもいい。ヤンキーになんてならなくていい。普通の日常を君となら楽しく豊かに暮らせるはずだから。一緒に最高の恋愛をしようよ」

 私は驚いてしまった。そしてそんな私に彼は口づけを交わした。

「これから、恋人同士だ」


―――――――――――――――――――――――――――


「おい、葵ちゃん。起きて。先生が」

 私は肩を揺すられて目を覚ますと、教師が私の頭を叩いた。


「おい、いま授業中だぞ。廊下に立っておくか?」

「わかったよ」

「反骨心だけは一丁前だな」


 さあ、授業再開するぞ。教師は教卓の前に戻っていく。

 ぐるっと周囲を見渡した。クラスメイトが六十人、真面目に勉強している。

 隣にいたのは若菜だった。きっとさっき起こしてくれたのは若菜だろう。

 どうして。私は障害を患って。それに暴走族の総長で、関東を制覇していたはずだ。

 高校にも通っていなかったのに。どういうことなのだろうか。


――――――――――――――――――――――――――


 休憩時間。私は若菜と一緒に屋上へと向かった。

 屋上には、大炊がいた。

 大炊は私を抱き締めた。

 私は唖然として、それから恐る恐る問いかけた。


「ねえ、膵癌は?」

「膵癌? 僕が? 僕はいつだって健康だよ」

「馬鹿みたいにね」


 若菜がそう苦笑しながら言った。

 まさか、本当に奇跡が起きたのか。

 私は天を見上げた。なぜか昼なのに白い月が出ていた。

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死と彼女を想う瀬戸際で 大瀧潤希sun @ootaki0615

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