出会いと別れの夏20首

空月

出会いと別れの夏で20首

夏休み 不思議な蝶に導かれ 朽ちた社で神さまと会う


「堕ちかけの神など構うものではない」 追い払われて また蝶が呼ぶ


何度でも 何度も蝶が導いて 根負けしたのは神さまの方


「これは神使 もはや消えゆくだけのもの 人の子ひとり呼ぶだけのもの」


「どこへでも行くがいいと言ったのに」 呟く神に ひらり蝶がとまる


 蝶さんは 何をしてほしかったのかな? 問うと神はため息をつく


「『人の子の信仰を吸い上げ延命を』 それしか言わん この馬鹿は」


神さまを 信じればいい? 拝めばいい? お供え物を持ってこようか?


「何もいらん 俺は朽ちゆくだけの神 それでよいと とうに決めた」


消えちゃうの? だってせっかく会ったのに 蝶さんだってがんばったのに


「……堕ちかけが、ただ朽ちるのに変化した それはおまえのおかげだろうよ」


「ああ、人の子の純粋な心はなんと甘美か ただただ祈る 信じる心」


「特におまえは素質がある 人ならぬものを祀る才 我に出会い開かれた才」


「きっとこの先 様々なものが寄るだろう ささやかながら加護を送ろう」


壊れ物に触れるみたいに額に触れた 冷たい唇 吹き込まれたもの


神さまのからだがすうっと透けていく 蝶が頬を掠め消えた


「朽ちゆく身ではここまでか 世話になったな 礼を言おう」


まだ何も なに一つだってできてない! どうして消えるのと泣くしかできない


「人外に心を寄せるものではない たった一日 すぐ忘れよう」

 

微笑んで消えた神さまのその顔を 私は今も忘れられない

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出会いと別れの夏20首 空月 @soratuki

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