波に問う

常盤木雀

波に問う

公園の小川の小さな笹ぶねはただ流れゆく波を知らずに


筆をとり文を書くにも話題なし「会いたい」を消し屑かごを見る


道端に墜落したまま捨てられた紙飛行機に迎えはないの?


降り注ぐ闇に追われて急ぐ道光の漏れぬ広いわが家へ


秒針と隣家の子らのはしゃぐ音君がいないと世界が広い


夜が来る他人の声が浮き沈み息を吐きたい逃れられない


危険などないと笑って君は言う信じて送り出すしかない日


カーテンを開いて眠るひとり部屋布団の世界生きものひとつ


間をあけず寄せくるばかりの不安心あたたかい手があればいいのに


地が揺れる鼓動が跳ねる家が鳴る波は常にて寄せ返すだけ


「これにする」君の選んだ植木鉢小さな多肉は日に手を伸ばし


好きなだけ布団で過ごす休みの日「起きているよ」と送りうたたね


つくりかけパズルの散らばる真剣にピースを探す君はまぼろし


君を待つ選択をした自らに何故かと問うたたんぽぽの庭


桜雨ふねから人の下りてくる荷物少なく軽く手を振り


日が差してもう起きようと笑う人もうちょっとだけと返す楽しさ


話し手のマスクが息で動くのを眺めて夜の献立を組む


薄明り隣に人の眠る部屋呼吸はふたつ秒針の音


君がいる もうすぐ君はいなくなる 残り時間と干したハンカチ


ただ遠く波の向こうに白い影君かだなんて知っているのに

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