最終話 黄金の心
軍事侵攻という愚かな行動の命令を自分の父親が下したかと思うと、姫の心中は穏やかではなくなる。また占いの結果なのか、それともそんな判断しか下せないほどに切羽詰まっていたのか。姫の顔に何とも形容し難い苦々しい表情が浮かんだ。
そんな姫の様子を見て、騎士は別の報告事項を話し始める。
「姫様、竜の下から王国へ帰還せずに、逃げ暮らしていた黒髪の元生贄たちとその子孫が街に来ております」
「……状況は?」
「人数は五名。集落から先遣隊として来ており、怪我を負っている者もおり、栄養状態も極めて悪いです。何十年も集落で厳しい生活を強いられてきたものと思われます」
「わかりました。すぐに救済会館へ入れて、手当と食事を。普段あまり食事を取れていないようであれば、お腹に負担がかからないように重湯を。住居の空きは?」
「今、ドワーフたちが突貫工事で集合住宅を建築中です」
「その五人はしばらく救済会館で保護。集落の場所を確認して、救援部隊を向かわせてください。ドワーフたちには特別手当として、例のお酒を」
「承知いたしました」
飾り気のない部屋から出ていった騎士。
姫は窓の外に目を向ける。
街には様々な髪の色の人間が行き
(まだまだ道半ばね……)
そんな中、黒髪の女性と赤髪の男性とが腕を組んで歩いていたり、根を足のように器用に動かしながら移動するアルラウネ(花に女性が生えているような身体の魔族)と黄髪の男性が手を繋いて歩いていたりする姿が目に入った。そして、建物の影では人目を避けるように、ドワーフの女性とエルフの男性が口づけを交わしている。
姫は、そんな街の様子を見て優しく微笑んでいた。
大きな大陸の辺境に位置するとある国。
その国は、神の如き竜が国を守り、美しい黒髪の若き姫が治めている。
彼女を『宝石姫』と呼ぶ者は、もういない。
姫にとって国民こそが国の宝であり、宝石だからだ。
その宝石たちは口を揃えて言う。
「姫様の美しき心の輝きこそが我々の宝だ」
姫の
黄金の心を持つ美しき姫に見守られながら、様々な種族の宝石のような民たちが笑顔で暮らすこの国は、いつしか『幸せの国』と呼ばれるようになり、
宝石姫 下東 良雄 @Helianthus
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