ぴたぴた妖精

藍錆 薫衣


この世の人間は2つに分けられる。それは妖精が見える人間か見えない人間か、この2つである、と私は考えている。

ちなみに私は“見えない人間”ではあるが…… その中の“存在を知っている”数少ない人間ではある。


では、なぜ“知っている”に分類される人間であるのか、と問われると非常に話が長くなるし、そもそも人に説明できるものでは無い。

もし、しっかりと説明しようとすれば私の核心に君を触れさせなくてはならないし、ほら、あれだ、プライバシーも考慮して欲しいというやつだ、非常にめんど…… 答えづらいのだ。


私には“知らない”人間たちがよく考えない人間であるから、としか言いようがないと思うのだが如何だろう。あぁ、ごめんごめん、君が考えない人間だと言いたいわけではないのだよ。気を悪くしないでおくれ。


そう、(聞こえよく言えば)私が特別感受性豊かである(と友人Aは言っていた)ということなのだが、そうだな..... 私なりにわかりやすく説明するよう善処しよう。



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例えば「お腹が空いた」ということ。お腹が鳴ったとか、鳴らなくても空腹感を覚えるだとか、空腹が極限を迎えて腹痛に苛まれたとか。

誰もがお腹が空くという経験をしたことがあるとは思うのだが、そこで私の中で疑問が生まれた。


私はちょっとした友人とランチに行ったんだ。日差しが強くて日陰で食べたいなぁなんて思っていたら、テラスがおすすめ、という店員の案内にまんまと引っかかってしまってね。屋根はあったのだが、ちょうど私の座っている場所は日差しが反射してね、ちょっと眩しかったんだ。でも、それも少し椅子を横にずらすだけで何とかなった問題だったんだ。 …… まぁ、そんなとある日の事だ。

私と友人、この二人の人間が同じ時間、場所で同じメニューを頼み、食べたんだ。しかし、その食事の後に、同じ時間に同じように同じくらいお腹が空くという訳ではあるまい。補足して言えば私と友人は前日の夜から一緒にいたが特別どちらかがたくさん食べた、だとか、運動をした、ということもなく、朝ごはんも抜いていたんだ。


それは何故なのか、体質だとか運動量や代謝とかいう人それぞれの違いに目を向ける人間も多いだろう。しかし、それは浅はかなのではないかと.....。

理論的にと言うよりは直感に近いかもしれないが、それでも結局“人それぞれ”だと結果つけるのは些か乱暴ではないか?と思うのだ。


しかし、私は知ってしまったのだ。人間の身体がそれぞれ違うのではない。人間の身体に住む、共存している妖精の違いなのだと。

いいや、寄生ではなくてね。そんな恐ろしいようなニュアンスではないと思っているよ。


何もしなくとも人間はお腹が空くだろう?何時間も座りっぱなしな勉学に励んだふりをする人間も、通勤ラッシュに始まり終電でうたた寝をしているサラリーマンも、ゆりかごでゆらゆら揺れているような赤子でさえ、どんな日々を過ごしていても人間というだけでお腹が空いてしまうんだ。

それに私は食事量と運動量の均衡が取れていないと感じる時があるってのを思い出したんだ。運動をした記憶も、頭も使った記憶もないというのに、こき使われてあちこち行かなくてはならなかった時よりもお腹が空くってことがあるんだ。これは私だけ、なんてことはないだろう?そして、その時1つの可能性に気がついた。



私は“妖精”と一つの身体を共有しているのではないか?ということに。



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ぴたぴた妖精 藍錆 薫衣 @hakoniwa_oboroduki

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