私は「少女信仰」がよくわからない。「お母さん産んでくれてありがとう信仰」とか「吸血鬼で色白で貴族の美青年信仰」とかならまだわかるのだが、「少女」ってそんなに偉いのか? というところからまずわからない。
この歌集において少女は「欲望される客体」であり「純粋さゆえに善悪の間で宙吊りになる危うい存在」といったところだろうか。
ようするに「無垢な子供(男の子でも女の子でもいい)」だとか「お人形さん」のポジションをここでは「少女」が受け持っている。
「羽むし飛ぶ噎せかえる香(かおり)百合の花 しろき花唇によくみたら染み」
「羽むし」「噎せかえる香」「染み」といったマイナスのイメージ群と「しろき花」「百合」というプラスのイメージが縫い合わさっている。
「百合」のもつ二面性(聖母マリアといった神聖なイメージと強い香りの持つ俗悪なイメージ)を活かした歌だ。
この「百合の花」の聖俗の中間にある性質からいって「百合」は「少女」の暗喩だろう。
「"完璧な少女"をつくる祭壇で whydunitは埋める・埋める・埋める」
完璧な少女を得るためには祭壇で何かを埋める必要があるらしい。
「why dunit」はワイダニットのことで、「なぜおこなっ"た"か」の意。すなわち事がすでに終わっていることが前提となる。
誰かしらが「完璧な少女」を求めて祭壇にて何ものかを埋めた。そうした情景が描かれる。
「弾丸は甘く崩れる砂糖菓子 乙女必死の生存闘争(バトルロイヤル)」
ローゼンメイデンか何かかと訊きたくなる。
「甘く崩れる砂糖菓子」「乙女」といったイメージと「弾丸」「生存闘争」の不調和がポイントだ。
ここでも「乙女」(「少女」)は善悪の中間で危うく罪を犯す存在として描かれる。
「楽園(エデン)とは所詮麻酔のeuphoria ソワレ終われど踊りは続く」
「euphoria」は多幸感、強い幸福感の意。ソワレは夜会または音楽などの夜間公演を指す。
虚妄としての「楽園」を指摘しつつも「踊りは続く」と断言する。
一体何に強いられているんだ。
絶えず「麻酔」を接種し続けなければならないらしい。
とにかくなんかすごい感じがする短歌が並んでいる。
読んだ方が良い。おすすめレビュー、以上。