手付かずのカラマーゾフ
初染奏多
手付かずのカラマーゾフ
終点はきっと海まで続いていると信じて駆け込む朝のブルーライン
幸せな労働だろうひたすらに我が子に餌を運ぶ親ツバメ
キーボードを毎日叩くためにある手かと思えり白いだけの手
コンビニのおにぎりとパンで作られた身体で今日も残業をする
霧雨の夜に目深に傘を差して一時傘の怪物になる
手付かずのカラマーゾフはついに我が本棚一の古株となる
低糖質パンしか食べない先輩のお腹は半年前と変わらず
離れれば近づき近づけば離れていく鳩も恋もどこか似ている
年下の先輩からのタメ口を飲み込むために飲むコカ・コーラ
パキポキと首を鳴らしてメンチ切る不良のようにコードを睨む
地下鉄でケンカしているカップルの悪そうな方に肩入れしてみる
左胸のワンポイントのハート柄 ここを刺してと言わんばかりの
五月雨にひかる赤薔薇 許してもいいことだけを教え合いたい
週末のバーの末席にて「蠅の頭」という名の料理あるらし
マティーニのオリーブをおまけしてくれるマスターの名をまだ聞けてない
寂しいから酒を飲むのか酒を飲むから寂しいのか 新月の夜
美しいその焼き色が見たかった ホットケーキを丁寧に焼く
晴天の休日ならば海へ行く心を青く染め直すため
いつか立葵を背骨にしてみたい初夏のひかりに恥じないように
曇天へ飛び立つツバメその先の空は青いと知っているように
手付かずのカラマーゾフ 初染奏多 @hatsuzome
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